アルーの危機を救え
昼食を終えたクロはエルフェリーンとビスチェにオーガたちを連れアルーの元へ訪れていた。
アルーとは蔓芋と呼ばれる植物系の魔物が濃い魔素に当てられ進化したアルラウネで、上半身を少女のような姿に下半身を大きな葉と多く棘のある蔓で覆われた姿をしている。地中には多くの蔓芋が成長して おり秋になれば甘く美味しいサツマイモのような芋をアルー自らが収穫し提供してくれている。
自らが動けないこともあってかご近所であるキラービーや妖精たちと仲が良く、カイザール帝国の魔道鎧が襲って来た時にはアイリーンと協力して退治した実力もあるのだが、この炎天下の日差しに元気をなくしていると妖精たちから報告があり手を打つべく動き出したのだ。
「確かに元気がないね~大丈夫かい?」
屋敷から百メートルほど離れた場所にその身をぐったりとさせるアルーにビスチェが急ぎ水の精霊にお願いして雨のような水を浴びせ、クロは予想していた通りだと魔力創造で数本のポールと対抗策になるだろう物を想像する。
「暑い……暑すぎて……干乾びる……わ……」
絞り出した声にオーガたちはクロの指示を急ぎアルーを囲むようにポールを地面に突き刺し、クロは黒いシールドを展開する。水の精霊からの水を受け熱が冷めたのかゆっくりを身を起こしたアルーは普段少女のような顔をしていたが熱で干乾びる寸前だったのか老婆のような表情をしており、熱が取れ地中から水を取り入れ次第に皺が消えてゆく姿は若返るように見え、アルーにまわりからは安堵の表情が漏れる。
「本当に助かったわ……もうこの場で干乾びるのかと思っていたわ……」
「妖精たちが知らせてくれたからね~」
「アルーが死んじゃうって飛び込んできたんだから!」
昼食の後にラライはアイリーンに水着を作るため自室へ誘われ、鍛冶室へ向かおうとしたエルフェリーンの前に妖精たちが現れ慌てながらアルーが危険な事を知らせに来たのである。
「妖精たちには感謝しているわ。いつも楽しい話を聞かせてくれるし水も運んでくれるのよ。本当にありがとうね」
エルフェリーンの肩や頭に座り一命を取り留めたアルーの姿に、喜んでいた妖精たちは飛び上がり若返ったアルーの肩や頭に乗りキャッキャとはしゃぐ。
「最後にこの屋根を取り付ければ自由に日差しを受けられるようになるからな。この紐を引けばブラインドが開いて日が入り、もう一度引けばブラインドが閉まって日光を遮るからな」
テキパキと動くオーガたちが最後に天井を設置し完成させた壁のない小屋的な物の天井部分にはクロが言うようにブラインドが取り付けられ自由に日差しを受けることが可能となり、アルーは試しに開けたり閉めたりを繰り返す。
「これは便利だわ……日を遮るだけで涼しいし、日を受けたい朝や夕方にはこうして開ければいいのね……自然界に住んでいた時とは大違いだけど、人と共存することで便利な暮らしができて……感謝するわ……」
微笑みを浮かべるアルーと初めて見るブラインドの仕組みにエルフェリーンと妖精たちが興味を持ちオーガに肩車され真剣に見つめ、ビスチェはこの辺りに小さなため池でもあれば緊急時の水分補給や熱が困った際に冷やすのにも利用できると考え口を開く。
「アルーの蔓が届く範囲に小さな池でも作った方がいいかしら?」
「それは嬉しいわね。私の蔓が届く範囲なら葉を使って水を掛けることができるわ」
「池があったら泳ぎたい!」
「この暑さは泳ぐべき!」
「ゆっくり水に浸かれば涼しいよ!」
「クロ飴ちょうだい!」
アルーに続き妖精たちも池作りに賛成なようで、アイテムボックスから飴の袋を取り出したクロは妖精たちに渡しながら思案する。
妖精たちも使うのならあまり深くしないで、穴を掘ってブルーシートを底に引けば水が漏れないかな? それともセメントを使えば……排水は裏の湖に流れるようにして、水を入れるのはビスチェの魔法でもいいし、樽をいくつか並べて雨水を貯水できるようなものがあってもいいか……
「ん? 地震?」
思案していたクロは地面の揺れに気が付きまわりを見渡すと天魔の杖を掲げるエルフェリーンの姿が目に入り、アルーの後方に大きな岩が地面からゆっくり顔を出し、更にはその近くを素手で穴を掘り始めるオーガたち。
「池の事を考えていたが、師匠たちの行動力……はぁ……」
特に考えもなく動き出したエルフェリーンたちだが、顔を出した巨大な岩はエルフェリーンによって二等分にカットされ、片方は貯水槽にもう片方は小さな池として利用し、高低差を付ける為にオーガが掘った穴へと埋め、クロは細い塩ビ管(筒状の塩化ビニールの管)とシリコン製の接着剤を魔力創造する。
「岩の中をくり抜くから離れててくれよ~」
エルフェリーンが魔剣に魔力を通して光り輝くなか妖精たちはキャッキャと逃げ、クロはシールドを展開して作ったばかりの日除けを守る。
「岩の中をくり抜いたらこの筒が入る穴を開けて下さい」
「うん、任せて~行くぜ~」
エルフェリーンが魔剣を使い半分にカットした岩の中をくり抜く作業に入り、ビスチェも風の精霊にお願いし池になる予定の岩の中をくり抜く。碁盤の目のように風が走り亀裂が入り最後に岩の内周に沿って丸く亀裂が走りキラキラと輝く粒子。
クロの目には風の精霊である鳥が素早く動き回る様子が見えており感心するが、ビスチェに「切れた石を出すわよ!」と手の平サイズのブロック状にカットされた石を取り除く。
「これはこれで何かに使えそうだな」
鏡のような断面をした石にそう言葉を漏らすクロ。
「白亜の玩具にはなりそうね」
微笑みながら鏡のような断面をした石を見つめるビスチェ。オーガたちも手伝いツルツルの底が見え喜ぶ妖精たち。
「こっちも終わったぜ~でも、まだ熱を持っているから冷めたら石を取り出すのを手伝ってね~」
上からエルフェリーンの言葉が聞こえ了解する一同。魔力を帯びた魔剣でカットされた岩は所々が赤く変色し、覚めることにはまたくっ付くのではと思いながらも休憩にして冷たいペットボトルを配るクロ。
「ぷはぁ~アルーじゃないけど生き返るわね!」
「うん、冷たくて美味しいぜ~これがロックのウイスキーなら満点だよ~」
「いやいや、作業中ですからスポーツドリンクで我慢して下さいよ……」
「この冷たさは助かるな」
「しょっぱ甘くて美味しい~」
「キンキンに冷えてやがる~」
「シュワシュワしない~」
エルフェリーンの発言に困りながらも妖精やオーガはスポーツドリンクに満足しているようで、クロも汗をかきながらの作業をしていた事もあってか、いつも以上に美味しく感じるそれを飲み干すとシールドを階段状に設置してカットされた大岩の近くへと上がる。
「こうやって見ると巨大な岩が下にありましたね……」
「この辺りは硬化岩も多いからね~これは普通の岩だけど少し硬化岩が混じっているから魔力を多く使ったよ~グビグビ、ぷはぁ~」
「それって、師匠は大丈夫ですか?」
「ん? 僕は魔力量が多いからね~前みたいに完全な硬化岩とは違うからね~そろそろ冷めたかな?」
手にしていた魔剣でツンツンと大岩の断面を突くエルフェリーン。すると、パキリと音が鳴りそれは一気に広がりると表面が砂状に変わる大岩。ただ、大岩の外側には影響がないのか内側部分だけが崩れ去りホッと胸を押さえるエルフェリーン。
「凄いですが、この量の砂をかき出すのは骨が折れそうですね……」
「うん……僕もそう思っていたところだよ……次からは風の精霊にお願いしようか……」
ちょっとした家ほどの大きさのある大岩の中に溜まった大量の砂を見て、これからその砂をかき出す作業が待っている事に反省するエルフェリーンなのであった。
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