猛暑日と公共事業
本日から十六章の開始です。
真夏の楽しむ様子や多少のバトルと冷麺をお楽しみ下さい。
一歩外へ出るだけでじりじりと身を焦がす日差しと熱風を受けクロは素早くシールドを展開させ頭上に乗せる。直射日光を遮るべく展開させたシールドは黒く光を吸収し体感気温が五度は下がっただろう。
「このくそ熱いのにキャロットと白亜は元気過ぎだろ……」
炎天下の庭でグライダーにセットした輪ゴムを引っ張り飛ばしては走り出す一人と一匹の姿に呆れながらも声を掛けるクロ。
「おーい、冷たいものを持って来たから少し休憩しろ~」
クロの大声に振り返ったキャロットと白亜は「わかったのだ!」「キュウキュウ!」と声と鳴き声を上げクロの元へと走る。
「もう少しで昼食にするが、熱中症になる前に水分補給と日陰で休むようにしろよ」
「わかってるのだ! いっぱい汗をかくと干乾びるのだ!」
クロから冷えたスポーツドリンクのペットボトルを受け取ったキャロットの言葉に、干乾びる前に死ぬだろうと思いながらも白亜の分のスポーツドリンクを開封し手渡す。
「白亜もだからな。竜種が暑さに強くても水分補給は必要だからな」
「キュウ……キュウ……」
一気にスポーツドリンクを口にしアイスクリーム頭痛を訴える白亜。キャロットも同じように身悶える。
「水分補給はゆっくり多く飲むこと、それを守れば頭痛にならないからな」
「キュウキュウ……」
「飲む前に言って欲しいのだ……ん? 治ったのだ!」
頭痛が去りまたゴブゴブと喉を潤すキャロットが頭痛に襲われ、白亜も同じように頭を押さえる。
「ゆっくり飲めよ……」
「わかっているのだ! でも、飲んじゃうのだ……」
「キュウキュウ……」
多少なり反省しているのか声のトーンもやや落ち、これなら同じ失敗はしないだろうと安心感を覚えていると風が通り抜け汗だくのビスチェが姿を現す。
「クロ……私にも……」
元気なく話すビスチェにクロは急いで魔力創造したスポーツドリンクを手渡し封を開け口にする。
「ぷはぁ~生き返るわ……本格的に暑くなってきたからか雑草も元気なのよ……風の精霊にお願いして風を当ててもらっていたけど暑すぎたわ……」
「この炎天下じゃ風を送ってもらっても熱中症になるぞ」
「ごくごく……ぷはぁ~、ううう、頭が痛い……」
先ほどのキャロットと白亜のように頭痛を覚えるビスチェに笑い声が上がり、ビスチェが目を細めたすぐ前をグライダーが駆け抜ける。
「こっちに戻って来たのだ!」
「キュウキュウ!」
「戻って来たというより風の精霊が遊んでいるのか?」
「へぇ~今日は見える日なのね」
グライダーを見つめるクロに、頭痛から回復したビスチェが感心したような声を上げる。
「ああ、ヴァルが進化した影響か魔力量が増えたからな……」
クロにも魔力量が増えた自覚があるようで、一定の魔力量を持つ者にしか精霊は見ることができない。クロ自身は宮廷魔導士にやや劣る程度の魔力量を誇っているが魔法を覚える事はあまりしておらず、代わりにシールド魔法とその操作やナイフを使った格闘術を鍛えてきた事もあり調子が良い日は薄っすら見える程度であったが、ヴァルがワルキューレに進化したことでヴァルの魔力量が増えそれを分け合うクロの魔力総量も増えたのである。
「ふふ、それって白ワイン飲み放題ね!」
「お肉も食べ放題なのだ!」
「キュウキュウ~」
両手を合わせて喜ぶビスチェ。キャロットと白亜も美味しいお肉が食べ放題になると喜び尻尾を揺らすが、クロは思う。
俺の魔力は酒と食べ物に変わるだけかと……ただ、クロの魔力量が増えた事を実感したのにも理由があり、就寝前にウイスキーや白ワインや皆が喜ぶケーキなどを大量に魔力創造して自身の魔力の限界近くを常に把握しようとしている結果である。ドワナプラ王国より帰宅し数日が経過し魔力創造できる量が明らかに増え、薄っすらとではあるがここ通日は毎日のように精霊たちが見えているのだ。
結果として食べ放題、飲み放題に変わっているといっても過言ではないだろう。
「あの子はプロペラが好きみたいなのよ。変な形をしているけど風を生み出しているじゃない。家の天井にも同じプロペラで地下から涼しい空気を持ち上げて、不思議よね……」
不思議だというビスチェだが、クロからしたら精霊の方が不思議の塊で魔力量が増えないと見えないことや、鳥や蛇にカエルなど自然に存在する生物の姿をしていることや、一方的に精霊に気に入られ契約することなど、不思議の塊だと思っている。
「宙返りしたのだ!」
「キュウキュウ~」
キャロットと白亜が翼を広げ空へ上がりグライダーを追い掛けその様子に自然と笑みを浮かべるクロとビスチェ。そこへ転移の門が現れ姿を見せるエルフェリーンとルビー。
「帰ったよ~」
「王都も暑かったです……」
天魔の杖を振りながら元気に話すエルフェリーンとは対照的にルビーは肩を落としてフラフラと家へと向かい、クロは師であるエルフェリーンへと歩幅を合わせながら口を開く。
「ルビーに何かあったのですか?」
「うん? ああ、色々と大変みたいだぜ~武具の女神フランベルジュから加護を貰った事がお世話になっていた伯父ばれたみたいでね~ぷくく、拝まれたらしいぜ~」
「拝まれるって……」
「ドワーフにはドワーフの信仰があるからね~拝んで自分の鍛冶の腕が上がるなら手も合わせるさ~それよりも、王都は凄かったぜ~」
笑みを浮かべながら話すエルフェリーンに流行り病の話ではないなと思いながら凄かったという事を尋ねる。
「何が凄かったのですか?」
「実はね、王都を囲む城壁を新たに広げてね、サーキットコースを作っていたよ。王妃がやる気を出して公共事業としてカートのレースを取り仕切るらしいぜ~僕にはエンジンの製作をお願いされたから錬金ギルドに作り方を教えちゃったよ~」
「そうなると馬を使わない馬車も開発されそうですね」
「そうだね~魔石を使った物へ変わり新たな時代の幕開けかもしれないね~」
ターベスト王国の王妃リゼザベールはレーシングカートを気に入りエルフェリーンに懇願しカートを購入して帰ったほどである。コースを作り公共事業としてターベスト王国でこれから流行ることになるのだろう。
「風の精霊が帰って来たわ」
大空を精霊と共に舞っていたグライダーがクロの胸元へ飛来しキャッチするとキャロットと白亜も同じようにクロの元へと飛来し、慌てて避けるクロだったが間に合わず白亜とキャロットに抱きつかれ二人と一匹はその場バランスを崩して転がり、痛みを押さえて顔を上げたクロの目の前には大きな尻尾と大笑いするキャロット。
白亜もクロのお腹の上で笑い、つられて笑うエルフェリーン。ビスチェだけは冷たい視線を向けているが、クロも笑い出しキラキラと光りそのまわりを飛ぶ風の精霊。
「クロが受け止めてくれなかったのだ!」
「受け止めるとか無理だからな! キャロットは俺よりも……ん? ラライたちかな?」
まだ転がっている事もあり視界が逆さまなのだが敷地の入り口から手を振るラライたちオーガとそのまわりを楽しそうに飛ぶ妖精たちが目に入り口にするクロ。
「あら、流行り病の報告かしら?」
「あの様子だと問題はなさそうだね~僕が迎えに行ってくるから冷たい飲み物を頼むぜ~」
エルフェリーンがラライたちオーガを迎えに動き、クロはキャロットが退くと立ち上がり急いで家へと向かい、後を追う白亜とキャロットにビスチェなのだった。
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