不機嫌なエルフェリーンとオーガの過去
「クロたちだけでお祭りを楽しんでくるのはどうなのかな? 僕はドランと一緒に面白くもない会食に出て、美味しくもない料理を食べて、貴族たちから散々自慢話を聞いたんだぜ~」
口を尖らせクロに詰め寄るエルフェリーン。うんうんと頷くドラン。更にその後ろではなんとも気まずそうな表情を浮かべる王族たち。
「それについては申し訳ありません。師匠とドランさんが会食に出席している間に色々と屋台料理を食べ、あっ!? 第二小隊さんたちからアイアンアントの討伐のお礼に屋台料理を奢ってもらいました。味噌に漬け込んだ鳥のもも肉を焼いたものなのですが美味しかったですよ」
謝罪と報告をしながらアイテムボックスの機能を立ち上げ取り出すクロ。王室専用のサロンに香ばしい匂いが漂いお腹を鳴らすドラン。
「確かに美味そうな匂いだのう……」
「美味しかったのだ!」
「キュウキュウ~」
「皮を香ばしく焼き上げ身もしっとりとしておったのじゃ。長い行列に並ぶ価値はあったのじゃ」
「ほぅ、それは我も食べてみたいな」
キャロットとロザリアの言葉にドランが手掴みで口へ運び、国王や王妃たちもクロが皿の上に乗せたが手掴みで口へ運ぶ。
「うむ、まだ熱々で美味い! これは酒が進む味だのう」
「確かにしっとりとして美味い。どんな酒にも合いそうだ」
ドランと国王からの催促にクロは立ち上げてあるアイテムボックスのリストからウイスキーと缶ビールと取り出しテーブルに広げ、真っ先に手を出す王妃たち。
「お義母さま、この缶ビールと呼ばれるものはとても美味ですわ。ターベスト王国で頂いたのですが多少の苦みとシュワシュワと喉を擽る味はどんな料理にも合いそうですわ」
「あら、そうなの。有り難く頂くわね」
「グラスをお持ち致します」
近くにいたメイドが動きワイングラスが届けられファラン王妃がガーネシア王妃へとお酌をし、ビールの泡が少し多めになっているがその美しい金色と泡立ちをうっとりと見つめる。
「見た目も美しいわ」
「黄金のような色をしておるの……我にも貰えるかな」
ケケルジール国王がビールを求めファラン王妃が同じように缶を開け注ぎ入れ、クロは催促される前に段ボールの箱に入れられたビールを二箱ほどアイテムボックスから取り出しテーブルの傍に置く。
「これは苦みがあると聞いていましたが……癖になる味ですわ」
「喉を刺激するのも心地が良いものだな」
自然と湧き上がる笑みを抑えることもせずビールを飲み屋台で買った鳥肉を口に入れる国王と王妃。それを恨めしそうな目で見つめながらカランとした心の良い音に視線をずらすエルフェリーン。
「師匠もどうぞ」
グラスに氷を入れウイスキーを注ぎ入れるクロに口を尖らせていたエルフェリーンは手掴みで鳥肉を口に入れる。
「うん、美味しい……美味しいよ……クロが美味しい料理を買って来てくれたから今回だけは、今回だけは、許すからね~グビグビ……ぷはぁ~ウイスキーともよく合うよ~」
不機嫌なエルフェリーンに青い顔をしていたアレンジール王太子は安堵の表情を浮かべ缶ビールを手にすると封を開けそのまま口に入れる。
「あ、あの、私たちがまだここにいても宜しいのでしょうか?」
不安げな表情をするエルタニアと尻尾をシュンとさせているツバキ。それに両名のパーティーメンバーも王族がいることもあり居心地の悪さを感じているのだろう。
「うん? 気にする事はないよ~ツバキにはこの城に飾ってあるエニシの絵を見せてあげたいしね~」
「ワシが約束したからのう。かまわぬかの?」
「それはもちろん構いません。エニシさまはエルフェリーンさまに並ぶ大魔導師として活躍された英雄。その孫が来てくれたことは我も嬉しく思う。エルタニア嬢たち『赤薔薇の騎士』の噂も聞いている。アイアンアントの討伐にも尽力され感謝しておるよ」
軽く頭を下げるケケルジールに慌てふためく『揺れる尻尾』と『赤薔薇の騎士』たち。国王が頭を下げて礼を言う事態になるとは思っていなかったのかワチャワチャした場に、クロがテーブルに料理を並べ始め更なる混沌が幕を上げるのであった。
「見てくれよ! 僕の二百年前の姿だぜ~どうだい! 今よりも若いだろ~」
「今と全く変わらないように見えますね」
「そうだろう、そうだろう……ん? 変わらない?」
場所を王室のサロンから広い貴族用の会議室へ変え、メイドや執事に兵士たちが城中の絵を集めそれらを鑑賞しながら夕食を取っている。夕食といってもクロが提供する料理とこの国の料理長が作ったおつまみ程度の料理で、ずらりと並んだお酒を口にしながら絵をみて当時の昔話をするドラン。
エルフェリーンも過去を思い出してしんみりしていたがクロに心配され明るく振舞っている。
「自分がお願いした事っすけど、お城の皆さんにご迷惑を掛けて申し訳ないっす……」
「ふははは、気にすることはない。城中の絵を見て貰える方が我としては嬉しいからな」
「それにこのような集まりは初めてじゃないのよ。この人ったら英雄の絵画を見せるのが好きで使用人や兵士たちも慣れているから気にしないでね。ほら、エニシ様の絵はこっちにもあるわ」
ツバキがドランに頼み城に飾ってある祖父の絵を見たいとお願いしたことから始まり、まさか城中の絵画を集める為に多くに人が動くとは思っておらず恐縮していると国王や王妃が笑いながら口を開いたのだ。
「父は昔からドランさまや『草原の若葉』の大ファンですからね。英雄たちが登場する書籍なども集めているから暇ができたら読みに来るといいよ」
「この城にある図書館は世界で最も英雄たちの書籍が多いのですわよ。私もエニシさまが活躍する物語は何度も読みましたもの」
「私もママに読んで貰ったよ! エニシさまが指揮を執って九尾族が活躍する大反乱のお話!」
「そんな話があるのかい? 僕は知らないな~どんな話なのかな?」
「えっと、九尾族がオーガたちから虐げられていたのですがエニシ様をリーダーにして反乱を起こすお話ですわ。レッドオーガたちに勇敢に立ち向かい弱気だった九尾族が力を取り戻して皆で反乱を起こしてレッドオーガを国から追い出すのですわ」
「そんな話は聞いたことないっす……九尾族の過去にそんな事が……」
自身の知らない歴史と虐げられていたという事実に尻尾をシュンと力なく萎めるツバキ。
「あははは、それは創作物だね~寧ろ九尾族がオーガたちを酷使していたはずだぜ~僕がオーガたちにお願いされて懲らしめに行ったからね~」
「うむ、九尾族の魔力の高さは獣人の中でもトップクラスじゃしのう……エニシの父親を懲らしめに行ったのう……そこからエニシがエルフェリーンさまを崇拝し弟子になったのじゃ。長も問題を起こした弟が継ぎオーガたちと手を取り今でも暮らしておるはずじゃろ?」
「そうっす。良き近所付き合いをしてるっす! 困った事があれば協力して魔物を退治したり、橋を掛け直したり、互いに祭に招待したり……」
「そうだぜ~九尾族たちは反省して協力することの大事さを学んだのさ。でも、その戦いで九尾族とこれ以上関われないと出て行ったオーガも少なからずいたんだ」
「そ、そうなんすね……」
「そのオーガたちは僕の家の近くで村を作って頑張っているぜ~」
「それって……ナナイさんたちかよ……」
錬金工房『草原の若葉』が住む近くの森に住むオーガたちのリーダーであるナナイたちの事であり、正解したクロへ優しい瞳を向けるエルフェリーン。
「うん、ナナイたちは自分たちで森を切り開いた開拓者だからね~まあ、あの頃のナナイはまだチンチクリンだったけど、立派に育ったぜ~特に胸とか、こんなんだからね~」
両手を広げて胸の大きさを伝えるエルフェリーンに笑い声が巻き起こるのであった。
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