採掘には注意が必要です
「それじゃあ、僕たちは十二階層へ向かうからね」
「師匠なら問題ないと思いますが、御武運を……」
「色々ご馳走になりありがとうございました。地上であったら一杯おごらせてくれ!」
「わしらもウイスキーをありがとうな」
「風呂まで入らせて貰うなんてはじめてだよ。武器の手入れだけでもするから気軽に話しかけてくれよな!」
十二階層で出会った冒険者たちはここから帰る途中だったらしくクロたちと別れの言葉を交わし中に階層へと去って行き、クロたちは下へ続く階段へ向け足を進める。
「ここから先は完全に岩場だから足元には注意だよ。それとストーンゴーレムにアイアンゴーレムといったゴーレムが多く出てくる。力が強いが大ぶりな一撃で攻撃してくるから避けて膝を狙うのがベストだね。転んでしまえば胸の魔核を狙って攻撃するだけだよ」
階段を降りながらエルフェリーンの十三階層講義を耳に入れる一同。
「ゴーレムは積極的に狩るからね! ルビーが欲しい素材は鉄のインゴットも含まれるし、アイアンゴーレムからは様々なインゴットが手に入るわ。期待してなさい!」
「期待はしますがいいのでしょうか……」
「その分はヒカリゴケの採取を手伝ってもらうという事で、いいんじゃないか?」
「そうだぜ~ダンジョン内は助け合いの場だから助け合えるうちはお互いを信じて突き進む! それがダンジョンだよ!」
≪何かいま冒険者しています!≫
多少困惑気味のルビーだったが、その申し出の言葉に嬉しく思ったのか「お願いします」と頭を下げながらも頬笑みを浮かべる。
「師匠とビスチェは戦闘のプロだからな。そっちは任せてドロップ品の回収と素材の採取を頑張ろうな」
「はい、クロさん!」
≪おお、早くもルビーさんに手を出していますよ~≫
「これだからドスケベって呼ばれるのよね~」
あらぬ誤解を受けながらもクロの視線の先には十三階層と書かれたドアがあり、エルフェリーンが静かに開けると広く続く岩場が目に入る。
「ゴーレムも多いが黒い雲に覆われ薄暗いから足元には注意だよ! ごつごつした岩場で転べば怪我するし、足を捻る事もある。注意だからね!」
十三階層の空は黒い雲が多い尽くした岩場である。視界はそれほど悪くはないが薄暗く雷鳴の音は聞こえないが、自然界ならいつ雷が落ちて来ても不思議はない空をしている。更に深い階層では雷鳴が轟く階層もあるのだが、ダンジョンという不思議空間では科学的な法則を無視し積乱雲の下の様な景色でも雷が発生しないのである。
「ルビーに言っておくけど、あの爆弾は使用禁止だからね。仲間ごとと吹き飛んだら誰も救助できないし、戦闘は僕とビスチェに任せてよ」
≪私も戦いたい! この体にまだ慣れてないから頑張る!≫
エルフェリーンの前に魔力で生成した糸を出現させるアイリーン。
「ほぅほぅ、それならアイリーンが戦ってみようか。弱点は胸に剥き出しになっている魔石と関節だからね。一撃でも当たると骨がボッキリだから注意するんだよ」
≪任せて! 少し先に二匹発見、先に行く!≫
走り飛び上がったアイリーンは宙に糸を放出するとそれに捕まりブランコの様な振り子運動で宙を進み、新たな糸を放出するとそれに捕まり移動する。女神ベステルが話していたチート能力で先に移動し一気に距離が離れると、慌ててビスチェがあと追う。
「もうっ! クロはルビーを守りなさいよね!」
走りながら風を纏うと地面すれすれを飛ぶように進みアイリーンを追いかけるビスチェ。
「俺たちはゆっくり行きましょう。えっと、それって重くないですか?」
ルビーに声をかけるクロは、手にしているバトルハンマーと呼ばれる槍の先に槌の付いた物を片手で担ぐ姿に思わず声をかける。
「少し重いですけど、これが一番使いなれてて形見の品なので……当たれば一発でゴーレムの関節を破壊できます!」
気合を入れバトルハンマーをクルクルまわすルビーに、クロは巻き込まれたくないと少しだけ距離を置く。
「僕はクロたちにもフォローできるようにアイリーンとの中間から魔術を使うね。ルビーは後方警戒も忘れないように! クロはそのフォローを宜しくね!」
「キュッ!」
エルフェリーン声を上げるとリュックの白亜が顔を出し「後方は任せて」とでも叫んだのか泣き声を上げる。
「それじゃあ、白亜が後方警戒だ! 危険な時や魔物が近づいたら吠えること!」
「キュウキュウ」
仕事を与えられ嬉しそうに鳴き声を上げる白亜。それを珍しそうに見つめるルビー。
「テイムしているのですか? これって龍種ですよね?」
「ああ、白亜といって、白夜さんの娘さんだな。七大竜王と呼ばれる龍の娘だから変なちょっかいをかけない様にな」
クロの説明に顔を引き攣らせながらも「可愛い、けど……竜王の娘……可愛い、けど……竜王の娘……高級素材……」と呟きはじめ、恐怖を覚えた白亜はできるだけリュックに顔を入れると後方警戒しつつ、ルビーの言動にも注意を図る。
「あの、本当に手を出すとヤバいですからね。それよりもアイリーンの戦いとまわりの警戒をお願いします」
「は、はい! 頑張ります!」
リュックからギリギリ顔を出す白亜から視線を変え、キョロキョロと辺りを見渡しながら足を進めるルビー。
「罠もあるらしいですから足元にも注意ですよ。出っ張った岩がスイッチになってる事が多いそうです」
「はい、注意します! わぁ~見て下さい! ここの岩にはアメジストが混じっていますよ!」
ルビーの足元には紫水晶が含まれているのか、紫色に見える半透明の細かいガラス状の石が岩石に混じって見える。
「ほらほら、警戒! 採掘は戦闘後に安全確保してから!」
「は、はい! そうですよね。注意します!」
顔を上げ空から玉糸を投げ付けるアイリーンへと視線を移す二人。
投げた糸の玉が開くと二体のアイアンゴーレムはそれを受けるがお構いなしにアイリーンを倒すべく動き出す。動きだすのだが手の届かない位置から糸の玉を投げ付けられ、手を伸ばし飛び上がるが重量のあるゴーレムのジャンプは一メートルも上がらず次第に糸まみれに変わり、動かなくなると注意深く近づき手にしたナイフで魔石を壊し光の粒子になって消える二体のアイアンゴーレム。
「蜘蛛らしい戦い方だったな」
「あれがアラクネ種の戦い方なんですね……何だか私がアイリーンさんと戦ったらああなりそうです……」
「俺だって同じだろうな……シールドで防いでもそのまま糸で固められそうだよ……」
鉄のインゴットと魔石二つを拾うアイリーンに追いついたビスチェがハイタッチを決め、ビスチェは急に飛び出して行ったアイリーンを責める事はせず、今の戦い方に何かしらの感銘を受けたのか凄いや偉いといった声が響き渡る。
「面白い戦い方だったね~でも、急に飛び出しちゃダメだぜ~」
≪はい、気をつけます!≫
エルフェリーンが追いつくとお小言を口にし、素直に頭を下げて謝るアイリーン。
「仲間って何だかいいですね……」
隣でポツリと漏らした言葉にクロは静かに頷き、自身もエルフェリーンとビスチェの姿にそう思い今では仲間として仕事をしているなと思いながらも、警戒の為に辺りを見渡すとリュックからミノと金槌を取り出して先ほどアメジストを見かけた所でしゃがみ込んでいるルビーの姿が目に入る。
「おいおい、勘弁してくれよ……」
慌てて辺りを警戒しながらもルビーも元に走り、アメジストの採掘を始めた所で息を切らせながらも待ったの声をかけるクロ。
「採掘は警戒しながらだろ! ひとりで先に行くのもダメだし、俺がルビーを任されたんだから最低限声をかける! 大丈夫だったら俺が警戒するし、許可も出すからひとりで行動しない! パーティーを組んで事にあたっている自覚を持つ! それが仲間だろ!」
やや厳しい口調で叫ぶクロに驚き、こういった事に慣れていないのか目が潤むルビー。戦闘を終えていた事もありクロの叫びは三人と白亜にも聞こえ何事だと集まってくると、ビスチェが口を開きアイリーンが文字を宙に描く。
「クロが生意気に叱っているわ! 何があった……ああ、採取してるし……」
≪クロ先輩がな~かした、な~かした≫
ビスチェは呆れた表情でミノと金槌を持つルビーに呆れ、アイリーンは小学生低学年である。
「ご、ごめんなさい、ゴーレムを倒したから安全だと思って……」
「安全かどうかはみんなで決める! この辺りは平地だが急に空から襲ってくる魔物もいるんだからな!」
声を荒げるクロにアイリーンは茶化すのをやめ文字を四散させ、ビスチェは涙が流れ始めたルビーの両頬を持って立ち上がらせる。
「クロが怒るのも無理ないわね。でも聞いて、これだけクロが怒るのは短い間とはいえ仲間であり命を預ける相手だからよ。ダンジョンでの個人行動はパーティーの死を意味するわ。今だって採掘する音に反応して、ほら」
三体のアイアンゴーレムがこちらへ向かってきており、右に二体、左から一体、走ってこちらに走る姿が目に入り、アイリーンは魔力で生成した糸を飛ばし時間稼ぎと動きを封じ、エルフェリーンは魔術で錐状の岩を飛ばし一体を光の粒子へと変え魔石とインゴットが地面に落ちる。
「もしも私たちが気が付かなかったら危ないかもしれない。それが理解できたかしら?」
「はい……」
肩を落として頭を下げるルビー。足元の岩場に数滴の涙がの後が付く。
そんな二人に、先輩らしく説教を始めたクロはビスチェに説教を奪われ、怒りにも似たやり場のないテンションを持て余し、「素材、取ってきます!」と声を上げると「気をつけなさい!」と応えるビスチェ。
クロは中途半端に説教する事でやり場のない気持ちを全力で走って消化しながら魔石と鉄に似たインゴットを回収するのだった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。