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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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カヌカの王都はお祭り騒ぎ



「まるでお祭りですね~あっちの露店から美味しそうな香りがしますよ~」


 謁見を終えたエルフェリーンとドランはそのままカヌカ王国が主催する会食会へと誘われ『草原の若葉』と『揺れる尻尾』に『赤薔薇の騎士』も誘われたのだが、ビスチェが一言「嫌よ! 堅苦しいもの」と断りを入れ苦笑いする執事を余所に王都へと繰り出したのである。


「王さまからの誘いを平然と断るビスチェさんは凄いっす! 憧れるっす!」


「憧れるのは如何なものかと思いますが、私たちにあの場は眩し過ぎますわ……」


「うむ、貴族たちの集まる会食会の会話は耳に入れると食事がまずくなるのじゃ」


 ツバキはビスチェの凛とした態度に憧れ、エルタニアは元貴族という事もあり現役貴族たちとの食事に抵抗感があるのかビスチェの意見に乗り一緒に待ちへと繰り出し、ロザリアも貴族社会に嫌気がさし闇ギルドへ根絶を目標に動く祖父であるラフルと旅に出た口である。


「醤油や味噌の香りもちらほらあるな」


「肉がいいのだ! 大きな骨付き肉がいいのだ!」


「キュウキュウ~」


 カヌカ王国は鉱山と酪農が盛んで新鮮なチーズやヨーグルトなどの発酵食品も生産されている。他の国ではあまり発酵食品が存在しないこともあり輸出などはされていないがカヌカ王国の名物として有名で、「鉄と乳はカヌカから」という言葉もあるほどである。


「鉱山が見えなくなった時は驚いたが、ドランさまが鉱山をアリたちから解放してくれたってよ!」


「英雄ドラン! 二百年前の英雄は今も英雄だ!」


「英雄に乾杯!」


 アイアンアントの討伐が完了した事はカヌカ王国の国民たちにも知れ渡りカヌカ王からも国王として宣言され、国民たちは酒を飲み祝い祭りのような賑わいを見せている。この吉報に国王名義で酒が振舞われ、広場では多くの国民や鉱山の村から避難していた者たちが感謝しながら口にしている。


「ドランさんの人気が凄いですね~」


「そりゃ英雄ですもの」


「爺ちゃんの像がいっぱいなのだ!」


「キュウキュウ~」


 英雄ドランと呼ばれる事を本人は嫌がっていたが街を歩けば必ず目に入るドランの若かれし石造や、魔化したドランが大きな口を開けブレスを吐く石造にテンションを上げるキャロット。『揺れる尻尾』の男女も同じようにテンションを上げ尻尾を揺らして屋台から香る匂いに鼻をスンスンと動かしている。


「あの壺はいったい何を売っているのでしょうか?」


 ルビーが大きな壺が並ぶ屋台を指差しクロとアイリーンが看板に視線を向けるが文字はなく、代わりに壺と大きなスプーンが描かれている。


「あれはヨーグルトを売っているっす。乳を使って作る少し酸っぱい食べ物っす」


「へぇ~それは食べてみたいな」


「私も食べたいですね~ここは優しいクロ先輩のおごりで食べたいですね~」


 その言葉にジト目を向けるクロだったが普段から皿洗いという名の浄化魔法を連発してもらっている事もあり頷き、多くの壺が置かれる屋台へと足を進める。


「えっと、アイリーンの他に食べたい人はいるか?」


 屋台の前で立ち止まったクロが振り返り声を掛けるがアイリーン以外は手を上げることもなくツバキとアズリアは首を横に振る。


「あはははは、ヨーグルトは体に良いがあまり美味しいものではないからね~若い子たちには難しいさね」


 屋台の店主である老婆が笑いながら木皿にヨーグルトを入れクロへと渡し代金を支払う。価格はひと皿銅貨五枚で日本円だと50円ほどでかなりお手頃価格だろう。


「酸っぱいっすか? 酸っぱいっすか?」


 一口食べたアイリーンに感想を求めるツバキ。アイリーンにはそれほど酸味が強く感じられなかったのか「美味しいですよ~」と笑みを浮かべ「あ~ん」とツバキへスプーンを向ける。


「確かに酸っぱいって程じゃないな。これならフルーツと合わせても美味しいだろうし……あの、持ち込んだ器に入れてもらう事もできますか?」


 一口食べたクロが大きな鍋をアイテムボックスから取り出し交渉すると目を輝かせる店主。ヨーグルトはフレッシュなものほど人気があり、酸味が強くなったものは破棄されるか店主の家族たちで無理して食べることもあってか上機嫌で鍋に注ぎ入れる。


「す、酸っぱいっす! 騙したっすね!」


「これぐらい普通ですよ~それに今度はクロさんがこのヨーグルトを使って美味しいものを作ってくれますからね~私的にはブルーベリーのジャムとか入れて甘みを足したり、ラッシーとかにしたり、シリアルとかと一緒に食べたいですね~」


 あ~んを受け入れたツバキは尻尾と耳をピンと立て抗議するがアイリーンはこのヨーグルトに合う料理を考え、クロはデザート以外にも使えそうだなと思案する。


「肉なのだ!」


「キュウキュウ~」


 白亜を抱いたまま走り出したキャロットにクロは顔を上げ急ぎ追い掛け、その後を追う一同。香ばしい匂いに尻尾を振りながら進むキャロットを慌てて避ける歩行者たち。


 そんな二人が辿り着いたのは看板に骨付き肉の絵が描いてある屋台で、他の屋台よりも繁盛しているのか長い列が視界に入り肩を落とすキャロットと白亜。


「急に走り出すなよ……」


 追いついたクロへ涙目を向けるキャロットと白亜。


「これじゃ、いつまでも食べられないのだ! クロの権力で何とかするのだ!」


「キュウキュウ!」


「俺に権力とか期待するなよ……ったく、他の屋台へ行くぞ」


「うううう、美味しそうな匂いなのだ……」


 諦めが付かないのか盛大にお腹の音を鳴らすキャロットと白亜に屋台の料理を買った男が近寄る。


「あの、自分は第二小隊者なのですが、先日はアイアンアント退治ありがとうございました! それに自分たちの隊長の治療まで……体長は自分を庇って足を失い……本当にありがとうございました! これは隊の買い出しで買った物ですが、良ければ皆さまでお食べ下さい!」


 敬礼をしながら口にする普段着の兵士に目を輝かせ涎もテロテロなキャロットと白亜。クロは申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「いえ、あれは依頼ですから……」


「ですが、助かったのも事実! これぐらいしか出来ないのが心苦しいのですが、受け取って下さい!」


 敬礼したまま話す私服の兵士にクロは頭を下げ、そんなやり取りを腐った瞳で見つめるアイリーン。


「シャロンくんには悪いですがこれはこれで……じゅるり……」


「せめて料金だけでも支払わせて下さい」


「いえ、これは経費で落ちますので問題ありません! アイアンアント討伐には特別経費が組まれておりますので、領収書を提出し必ず経費で落として見せます!」


 それは戦士のように凛々しい表情をする私服の兵士。クロは頭を下げ大量に購入した骨付き肉を受け取り、キャロットはクロへと詰め寄りながらお腹の音を鳴らし、輪唱のようにお腹の音を鳴らす白亜。


「隊の皆さまにも感謝しているとお伝え下さい」


「はっ! 必ず伝えると約束します! では、自分はまた並びますので失礼します!」


 屋台の最後尾へと駆け出す私服の兵士。それを見送っているとガサガサと袋を物色するキャロット。白亜の口には骨付き肉が咥えられ尻尾を揺らし、キャロットも大きな口を開け齧り付く。


「うふふ、鳥のもも肉ですね。食べ応えがあって美味しそうです」


「皆さんも冷める前にどうぞ」


 クロが差し出した袋をメリリが受け取り皆にまわし、口にした途端目を見開くツバキ。


「うまっ! これ美味いっす!」


「肉汁が溢れますわ!」


「うむ、味噌の風味がするのじゃ」


「確かに味噌の焦げた感じがしますね。味噌に漬け込んだものを焼いたのかな。他にもスパイスが使ってありそうだな……」


 大行列ができる味に満足する一同なのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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