王太子の視察
アイアンアントの討伐が終わり鉱山内の補強の終わりが見えエルフェリーンたちは上機嫌で昼食のロコモコ丼を口にしていると、豪華な馬車と騎馬隊が広場へと現れずらりと並ぶ軍服の貴族たちと兵士たち。
「ん? 如何にも偉そうな人が来たみたいね」
「偉そうではなく偉い人っすよ!?」
「あれだけ装飾が施された馬車は貴族の中でもトップクラス……いえ、王族の可能性すらも……」
一緒に食事を取っていたツバキたち『揺れる尻尾』とエルタニアがリーダーを務める『赤薔薇の騎士』たちが素早く反応し食事の手を止め、馬車から降りてくるだろう権力者へ視線を向ける。
広場で昼食を取っていた兵士たちは既に手を止め立ち上がっており、冒険者たちも騒めきながらも立ち上がり降りてくるだろう権力者へ視線を向ける。
「キャロット!」
馬車から降りてきた少女の第一声にガツガツとロコモコ丼を口に入れていたキャロットは顔を上げ、白亜も馬車から飛び降りこちらへ走る少女を思い出したのか手にしていたスプーンを置き鳴き声を上げる。
「キュウキュウ~」
「エイプもぐもぐリルなのだ!」
アイアンアントの討伐のきっかけとなったエイプリル王女がキャロットと白亜を発見し一直線に走り、それを追う専属メイドと近衛騎士。遅れて出てきたファラン王妃とアレンジール王太子は優雅に広場に登場するが娘が走り出した事もありそちらへと足を向ける。
「キャロット! 白亜ちゃん! 来ちゃいました!」
笑みを浮かべるエイプリルに白亜は尻尾を振って再会を喜び、キャロットもロコモコ丼を食べながらスプーンを振って再会を喜ぶ。
「ほ、本当に鉱山が崩れたのだな……」
難度か視察に来たこともあり壮大な鉱山が視界から消え去った事に驚くアレンジール王太子。ファランはその隣に立ち呆気に取られているアレンジール王太子へ肘を打ち挨拶をするように促す。
「兵士並びに冒険者諸君! この度のアイアンアント討伐はカヌカ王国に於ける生命線である鉱山を取り戻……鉱山は吹き飛んだようだがアイアンアント討伐は国に於ける急務であった! 感謝する!」
大きな声で労いの言葉を掛けるアレンジール王太子。その声を聞き涙する兵士や冒険者などが現れるなか、キャロットと白亜はロコモコ丼を口にしながら隣に腰を下ろしたエイプリルに自身の活躍を語る。
「頑張ったのだ! もぐもぐ……いっぱい倒したのだ! もぐもぐ……」
アイアンアントを倒したというだけの説明にエイプリル王女は戸惑っていると、クロが目の前に現れハーフサイズのロコモコ丼をテーブルに置く。
「宜しければ如何ですか?」
「これはキャロットが食べているものです!」
「はい、ロコモコ丼といいます。メイドさんに兵士の方はどうしますか?」
自然に接客をするクロに一瞬頭を縦に振りそうになるがすぐに横に顔を振るエイプリルの専属メイド。近衛騎士も戸惑っていたが首を横に振り、見慣れる料理に毒見をするよう口にしようとしたがエイプリル王女は既に口に入れ表情を溶かす。
「美味しいです!」
その言葉に満足したクロは会釈をして炊き出しの持ち場に戻り、労いの言葉を掛けていたアレンジール王太子とファラン王妃もエイプリル王女が座るテーブルへやってきて頭を深々と下げる。
「ドランさま方、この度は本当にありがとうございます。聞けば、こちらへ向かった次の日にはアイアンアントを討伐されたとか……国を代表して感謝いたします……」
二人揃って頭を下げる光景に兵士や冒険者たちは驚きを隠せずに感嘆の声を上げ、現場を指揮していた貴族や軍部の者たちは涙しながら同じように頭を下げ、クロは追加でロコモコ丼をテーブルへ運ぶ。
「うむ、多少やり過ぎてしまったがのう……」
「気合を入れすぎちゃったね~あはははは……」
富士山並みに聳えていた鉱山が丘程度の大きさに変わった事を気にしているのかドランは薄くなった頭を撫でながら話し、エルフェリーンは笑って誤魔化す。
「その事は問題ありません。学者たちの話では多少の気候変動があるかもしれないとのことですが、採掘は今までよりもスムーズに進むだろうと……」
「城からも見えていた風景が変わり皆驚いておりましたわ。遠くに見えていた鉱山が一瞬にして消え去ったと……あの、この料理は?」
マイペースに料理を運んできたクロへ疑問を口にするファラン王妃。
「ロコモコ丼です。エイプリルさまも食しておられますので……食べませんか?」
「もちろん頂きますわ」
「ああ、クロ殿の料理ならきっと美味しいのだろう。有り難く頂くよ」
開いている席に付き二人揃ってロコモコ丼を食し、冷静さ保っていたアレンジール王太子は次々に口に運びファラン王妃も優雅に口に入れ表情を溶かし、毒見だと言いそびれた近衛騎士は表情を曇らせるがメリリが次々にロコモコ丼を運び入れ困惑するメイドや近衛騎士たち。
「お前たちも食べるがいい。クロ殿の料理が食べられる機会などそうそうないからな」
アレンジール王太子の言葉を受け席に付くメイドや近衛騎士たち。それを確認したクロは「おかわりするのだ!」と声を上げるキャロットに笑みを浮かべるのであった。
「アイアンアントの甲殻が融解するほどのブレス……」
「これがミスリルアント……」
食事を終えたアレンジール王太子とファラン王妃が積み上がる融解した甲殻と解体されたミスリアルアントの甲殻を視察し驚き、エイプリル王女はキャロットからの自慢話を耳にしながら白亜を抱っこして撫で、横には小雪が寄り添い尻尾を揺らしている。
「短い期間でここまで仲良くなるのも珍しいな」
「子供は純真無垢ですからね~敵意がないから白亜ちゃんと小雪が友達認定するのでしょうね~」
食べ終えた木製の丼ぶりに浄化魔法を掛けるアイリーン。クロはそれらを木箱に片付けながら口を開く。
「そういや小雪が大きくなると聞いていたが、思っていた倍以上で驚いたぞ」
「あれは驚きますよね~車サイズの胴体とか抱きつくと最高ですよ~サラサラな毛並みは触り心地がいいですからね~」
「いやいや、触り心地とかじゃなくてだな、質量保存の法則とかさ、物理学を完全に無視して……まあ、エルファーレさまのところでも見たけどさ……」
「ファンタジー世界で物理学とか、夢がない事いわないで下さいよ~アイアンアントだって鉄を食べるし、ミスリルアントはミスリルを食べる世界ですからね~」
「確かにそうだが……」
「私だって魔力で糸を作れるじゃないですか~クロ先輩だってシールドを使っていますよね~」
「それとは違う気がするが……納得もできるか……」
若干腑に落ちないがアイリーンの言葉を受け納得するクロ。そもそも、キャロットやドランが魔化という魔力変化で巨大なドラゴンの姿になることを考えれば質量保存の法則など完全に無視しているといっていいだろう。
「クロは難しく考えすぎなのよ! 小雪が大きくても困ることないじゃない!」
ビスチェが腕組みをしながら口にした言葉に呼ばれたと勘違いしてへっへとやって来る小雪。それを優しく撫でる。
「確かに大きくなっても元に戻るから問題ないのか……」
「わふっ!」
小雪も「そうだ!」といっているような相槌が入り、食器を木箱に入れ終えたクロはビスチェの横にしゃがみ小雪の背を撫でるのであった。
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