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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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メリリとアイリーンの模擬指導



「ハァァァァァァァッ!」


 槍を構えたエルタニアが気合を入れ渾身の突きを放ち空を切る音だけが響き、避けられるのが分かっていたのか真横に薙ぐ。が、それすらも余裕で回避し笑みを浮かべるメリリ。


「うふふ、騎士としては合格ですが、冒険者としてはまだまだですねぇ。攻撃が素直過ぎて簡単に読めますし、遅いです」


 余裕の笑みを浮かべるメリリがエルタニアの弱点である騎士らしい戦い方を指摘すると、歯を喰いしばりながら眉間に深い皺を作り一気に加速する。


「冒険者になる前から騎士ですし、今も騎士ですわ!」


 一気に加速したエルタニアの槍を受けることなく三撃その場で身を反らせ、最後には槍を掴まれ空へと投げ飛ばされる。


「きゃあぁぁぁぁ」


 絹を切り裂くような悲鳴を上げたエルタニアだったが、メリリに優しくキャッチされ顔を真っ赤にしながらお礼を口にし模擬戦が終了する。


「メリリお姉ちゃんは強いのですね!」


「うふふ、これでもメイドですから~メイドは最強にして最高の職業です。相手がご主人さまならご主人さまが求めるものを、相手が敵であれば敵が求めないものを提供するのがメイドですから~」


 目を輝かせたアズリアに間違ったメイドの説明をするメリリ。『赤薔薇の騎士』にも元メイドが三名おりその者たちは首を横に振りながらも、メイド服に猫耳を付けて戦うメリリの凄さに圧倒されていた。


「メリリさまに訓練をお願いして正解でしたわ。エルフェリーンさまとビスチェさまにお願いしようと思いましたが御二人は鉱山の補強でお忙しそうですし、クロさまとルビーさまには断られ……キュアーゼさまには何というか……女として勝てる気すらしません……」


「うふふ、それで私に模擬戦を頼んだのですね~私は優しいので怪我無く訓練致しますよ~」


 微笑みを絶やさず話すメリリに実力差がそれほどまでに開いているのかと落胆するエルタニア。


「それに体を動かさなくてはダイエット週間という地獄が……」


 先ほどの模擬戦よりもダイエットに恐怖を感じているメリリは両手で顔を隠しながらも指の隙間から料理の下準備をするクロへ視線を向ける。大きなボールを前にひき肉をパンパンとひとりキャッチボールをして空気を抜く姿にハンバーグだと察し、その味と肉汁を想像して胃が動き出すのを感じると顔を覆っていた手を元メイドたちへと向けて口を開く。


「次はあなた達ですね~まとめて訓練致しましょう」


 微笑みながらも自身の脂肪を燃やす為に瞳も燃え上がり、悲鳴を上げそうになる『赤薔薇の騎士』の元メイド三名は盾と槍を構えメリリとの模擬戦に自分たちの力の無さを思い知らされるのであった。






 一方、ツバキもアイリーンを相手に苦戦していた。


「くっ! また糸でっ! 炎よ!」


 ライターほどの小さな青い炎が数個浮かび上がり自身を遮る糸を焼き払う。


「綺麗な炎ですね~」


「綺麗だけじゃないっすよ!」


 ライターほどの炎が一気に成長し野球ボールほどの大きさになりアイリーンへ向かう。が、アイリーンはその場には居らず空を切る青い火球。


「くっ! また変幻自在に移動するっすね!」


 難度も回避されては見えづらく細い音を放出し動きを封じてくるアイリーンの戦い方にツバキは焦りを覚えていた。ツバキの体には無数の糸が動きを阻害し取り払おうにも粘着質を持つ糸で左手は自身の腹にくっ付いたまま離れず、これ以上糸を受けない様に燃やすしか選択肢がなく現状はジリ貧である。


「変幻自在に空を移動するのが私の特技のひとつですからね~それよりも、そろそろ終わりにします?」


 糸で宙に浮いたアイリーンが白薔薇の庭園に手を掛けツバキは顔を引き攣らせながらも先ほど放出した青い火球を操作しアイリーンの死角から狙い撃つ。


「なっ!? どうして躱せるっすか!?」


 真後ろから狙い撃ったにも拘らずその場で宙がえりして火球を躱したアイリーンは親指を立てて口を開く。


「今のは自分的にも最高にカッコイイと思いました! 死角からの攻撃は素晴らしいですが、私はこの空間に糸を無数に張っていますので、どこかの糸に振れたり燃えたりすれば回避できますからね~では、これで終わりです!」


 急降下したアイリーンを迎え打とうと杖を持った右手を上げ、上げられず、次の瞬間には白薔薇の庭園を間近で見たツバキはその美しい桜舞い散る波紋を視界に入れ感動し、更には白薔薇の庭園に付与されているエフェクト機能で再現された桜の舞い散る風景に視線を釘付けにされ呆ける。


「綺麗っす……」


「よく言われますね~私には桜吹雪が良く似合うって……自分でいうと恥ずかしいですね……」


 白薔薇の庭園を納刀し自分で発した言葉が恥ずかしかったのか頬を人差し指でポリポリと掻くアイリーン。『揺れる尻尾』たちはツバキの戦いぶりよりもアイリーンの高い戦闘技術やバラが舞い散るエフェクトに感動したのか歓声を上げる。


「なにあれ綺麗……」


「リーダーが手も足も尻尾も出ないでやられたぞ!」


「アイリーンさんが強いだろうと思ってたが、みんなで挑んでも勝てる気がしない……」


「あの剣凄い! あの剣凄い!」


 完成を受けながら糸を解除しバランスを崩したツバキを支えるアイリーン。ツバキはアイリーンに支えられながらもお礼を口にし、尊敬の眼差しを向ける。


「ありがとうございました。勉強になったっす!」


「勉強になったのなら良かったですけど、ツバキちゃんの炎の魔術は凄いですね! 青い炎とか厨二心をくすぐられます!」


「厨二っすか? それはいったい……」


「ふふ、厨二とは思春期に暴走する思いを具現化しそうでしないものですね~ツバキちゃんの青い炎は厨二の具現化と表現しても問題ないです!」


 拳を握り締めて語るアイリーン。


「そこ! 変なこと教えるな! 終わったのならハンバーグを焼くから手伝ってくれ」


「は~い、では、私はこれで~」


 クロからの注意と料理の手伝いに呼ばれたアイリーンが手を振りながらその場を去り、『揺れる尻尾』たちはお礼を口にして頭を下げる。


「糸を使って宙に浮きながら動きを阻害し、まわりにも糸を巡らせて気配を察するとか凄いっすね……今の自分が勝てる要素はなにひとつないっす……」


 ガックリと肩を落とすツバキに仲間はうんうんと頷き、自分たちもコテンパンにやられ、更には糸を使うことなくやられた事に『草原の若葉』という冒険者の中でもトップクラスの実力を思い知る。


「私は素早い動きに翻弄されただけだった……」


「俺は散々攻撃を躱され、すれ違い様に地に伏せられた……」


「俺も似たようなもんだな……」


「リーダーは糸を使った攻撃を引き出しただけでも凄かったね」


「引き出したというよりも魔術士に対して近づかないで戦われただけっす……中遠距離は魔術士の本領……完全に自分の間合いで戦い制されたっす……」


 魔術を使う者にとって間合いは重要であり、戦士に対して接近戦で魔術を使うものは少ない。魔術を発動するまでの時間をどうするかが魔術士にとっての一生の課題であり、それを理解したうえでアイリーンは合わせて戦っていたのだ。完膚なきまでに敗北したといっていいだろう。


「パーティーで戦ったら勝てると思うか?」


「う~ん、難しいっすね……アイリーンさんの素早い動きもあるっすけど、あのほぼ見えない糸で動きを封じられたら前衛は意味をなさないっす。糸には炎が効果的っすけど、炎をずっと出していたらみんなが呼吸できないっすから……」


「素早さには自信があったけど上には上がいるもんだね……」


「メリリさんもそうっすけど、『草原の若葉』は実力者が多いっす……だからこそ目標になるっす!」


 肩を落としていたが顔を上げ手にしていた杖を強く握るツバキ。パーティーメンバーもリーダーの言葉に顔を上げ目標ができた事でやる気を出し尻尾を揺らすのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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