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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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ヒーローと久しぶりの我が家



 巨大な鉱山が崩壊し標高がちょっとした丘へと変わり五日ほど経過した現在、鉱山の入り口では広く取られ、穴はアイアンアントソルジャーが通れるほどに巨大なのだが補強が必要と判断されエルフェリーンとビスチェが土の精霊にお願いして内部を補強している。

 それ以外の兵士や冒険者たちは鉱山の上部をハンマーで砕き北の町へと運び鉄を取り出すべく馬車を使い往復し、それとは別に王都から来た学者を連れた冒険者は森の調査へ出向いたり食料を調達したりと忙しなく動き回っている。


「クロさん!」


「フィロロロロロ~」


 アイアンアントの討伐が終わり一時的にエルフェリーンの転移魔法で帰省したクロとルビーに白亜とアイリーンにキュアーゼは、シャロンとフィロフィロに加え大人のグリフォンたちに出迎えられ抱擁を交わしていた。


「おうおう、フィロフィロも久しぶりに会う気がするが覚えていてくれたのか」


「ピィピィ」


 高い鳴き声を上げクロの胸に飛び込んできたフィロフィロを撫でるクロ。その後ろで若干目に涙を溜めながら再会を喜ぶシャロンと射殺さんばかりの視線を向けるメルフェルン。キュアーゼには愛機であるフィロフィロが再会を喜び甘えているのか首を下げ頬ずりをし、喉を撫でられ目を細め、アイリーンにはフェンフェンとファンファンの二頭が近寄り同じように甘え、そのまわりを妖精たちが飛び回りファンタジー感マシマシである。


「では、私は鍛冶場に行きます! 後の事はお願いします!」


 目を輝かせアイテムバッグを持ち走り出すルビー。


「ルビーさんが嬉しそうですね。やっぱりアイアンアントの素材で何か作りたいのですか?」


「ああ、ルビーは退治よりもアイアンアントの甲殻を剥ぎ取るのを手伝って、色々と相談というか欲望というかを語られたよ。アイアンアントの甲殻はミスリルほどではないが魔力を通しながらも硬くて鎧にすると最高クラスらしくてな。牙や爪も武器として素晴らしいらしい。俺には白亜の鱗で作ってもらったこれがあるし、武器もナイフがあれば十分だからな……全身鎧フルプレートとか動きづらいだけだろ……」


 アイアンアントの甲殻は鉄を摂取することで硬くなり鉄と同等かそれ以上の硬さを誇る。鍛冶師ならアイアンアントの甲殻を使った魔鉄を打ち鎧や盾を作る事は夢に見るほど憧れる仕事で、更に牙や爪は鋭利で切り裂くことに特化し武器の素材に使えば鉄よりも遥かに強力な武器が打てると歓喜するドワーフは多いだろう。


「確かにクロ先輩が全身鎧を着ても、その上からエプロンを付けそうですよね~くふふ」


 アイリーンの妄想にシャロンも肩を揺らし、殺意の籠った瞳を向けていたメルフェルンも吹き出して笑う。


「アイリーンこそ鎧を作って貰ったらいいだろうに。狩りに出かけるのにワンピースはどうかと思うぞ」


 普段から狩りに出るアイリーンはアイアンアントの討伐にもワンピースとちょっとした上着という軽装で戦いクロが提案するのは自然な事だろう。


「私は腕が切り飛ばされてもエクスヒールで回復できますからね~それに私はスピード重視の立体戦闘です! 当たらなければどうという事はないのです!」


「なら、せめてスパッツぐらいは装備しような」


 その言葉に顔を赤くするアイリーン。シャロンも同じように顔を赤く染め、今度はアイリーンへ眉を吊り上げるメルフェルン。


「うふふ、アイリーンさまの移送速度なら余程注意して見なければパンチラなど確認できませんよ~もちろん、私のメイド服にも同じことがいえますね~」


 その場でクルクルまわり連れてきた妖精たちと楽しげに踊るメリリ。


「アイリーンの装備の話かしら?」


「回復魔法で治せるにしても痛いだろうから鎧といわないまでも胸当てや脛当てを提案しようと提案したのですが」


「アイリーンに必要ないと思うわよ。ほら、今着ている服だって鉄よりも硬いとはいえないけど、相当丈夫に作られているわよ」


 キュアーゼがグリフォンたちとの抱擁を済ませ会話に混じりアイリーンの服装について指摘すると、アイリーンは目を見開く。


「気が付いていたのですか!?」


「そりゃあねぇ~その服はアイリーンが作った糸からできているのよね? それにエンチャントも掛かっているわ。目を凝らしてみればアイリーンの魔力と同調しているのがわかるもの」


「流石はキュアーゼさんですね~この糸は普段使っている糸よりも魔力を込めていますからね~非常時には身体強化と同調させ鉄よりも硬くなりますし、こんな事もできます!」


 アイリーンが視認できるほど多くの魔力で体を覆うとワンピースだった服が全身を覆うボディースーツへ変化する。肩や腕に胸と足回りには多くの糸が集まり防御力を強化しているのだろう。


「まるで戦隊ヒーローだな……」


「コンセプトはその通りです! 悪を砕く系のヒーローです! それに糸の伸縮性を利用して人工筋肉のようなパワーも追加されていますからね~これを着ればクロさんだろうが余裕で勝利ですね~」


「着なくても俺には余裕で勝つだろうに……はぁ……」


 普段の戦闘訓練でクロとアイリーンが模擬戦をした場合、十割の勝率を誇るアイリーン。ナイフと日本刀という差も大きいが、アイリーンの高速戦闘とクロのナイフとシールドは相性が悪く、クロが勝利したことはないのである。それに加え筋肉の底上げが加わればクロが勝つことは不可能だろう。


「ふっ! これからはクロ先輩を守る立場になろうかと」


 掛けていない眼鏡をクイクイと上げながら上から話すアイリーンにツッコミを入れる気がないクロは「雨が降りそうだから屋敷に入りましょうか」と提案し足を向け、アイリーンも瞬時に糸の鎧を開放し後に続く。


 お茶を入れながらアイアンアントの討伐が終了し現在は内部の補強と崩壊した鉱山の片付け中と説明するクロ。お昼過ぎという事もありお茶請けに駄菓子や洋菓子を前に腰を下ろす一同と、その上を飛び回る妖精たち。


「あれ? 見たことのない同族がいる!」


「どこの森の妖精かしら?」


「クロ~飴ちょうだ~い!」


 アイリーンが保護した妖精たちとここの地で暮らす妖精たちが出会い、アイリーンが仲立ちになり説明し受け入れて欲しいとお願いする。すると、あっさり受け入れられ自分たちの家を案内すると外へと向かう妖精たち。

 その際にちゃっかりお菓子を入れた皿ごと持ち去る姿に肩を揺らしながらも「引っ越し蕎麦だと思えばいいですかね~」と口にするアイリーン。


「そうだな。何かしら持って行った方が印象もいいだろうしな。たまには和菓子を出すかな」


 アイテムボックスを立ち上げ以前魔力創造した和菓子を取り出し、皿に和紙を引き最中や一口サイズの羊羹に煎餅などを乗せ、緑茶と共に笑顔で運ぶメリリ。


「和菓子とか懐かしいですね~向こうにいた時はあまり美味しいとは思いませんでしたが、あむあむ……これですよ~この、最中もなかが口内の上にくっ付く感じが懐かしいです!」


「うふふ、和菓子は餡を使った物が多いですね~それに細工が見事ですね~」


「これは文字よね? 食べ物に文字を焼き入れたりするのは面白いわ」


 最中の皮には福という漢字が成形され、凹凸のある最中を手に不思議そうに見つめるキュアーゼ。


「これは福という漢字で運が良いことや幸せを意味しますね。ドランさんが狩り勝負で食べたがっていたのもこれですね。後でこっそり渡そうかな……」


「お茶の味がしますね。僕は羊羹とお茶を一緒に食べるのが好きですが、抹茶味だと仄かに苦みもあって美味しいです」


 ドランが食べたがっていた最中を口にしながら思案しているとシャロンが抹茶味の小さい羊羹を口にし、ふうふうと冷ましながらお茶を飲む姿に笑みを浮かべるキュアーゼ。メルフェルンも同じような笑みを浮かべるが鼻息は荒く危機感を覚えるが、いつの間にかシャロンに抱きつき寝息を立てるフィロフィロの純真な姿にメルフェルンも正気を取り戻したのか、最中を口に運びお茶で癒されホッコリと心を落ち着かせる。


「折角帰ってきまし、シャロンとメルフェルンさんのリクエストがあれば夕食にしますけど、何が食べたいですか?」


「はい! 温かいうどんか、ピリ辛の豚キムチとか食べたいです!」


 素早く手を上げ欲望を述べるアイリーンを無視してシャロンへと視線を向けるクロ。


「僕はクロさんが作る料理ならどれも美味しいので……」


「でしたら、お蕎麦などはどうですか? 妖精たちを連れてきましたし、今日は少し冷えるので温かいお蕎麦ならアイリーンさまの希望にも添えるかと」


 そう口にしながらも以前、クロへ平手打ちしてシャロンに怒られ凹んだ事を思い出すメルフェルン。


「うん、僕も温かい蕎麦が食べたいよ。メルフェルンが五杯もおかわりして動けなくなった事を思い出すね」


 笑みを浮かべて話すシャロン。メルフェルンはそっちを覚えているのかと顔を赤く染めるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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