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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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隠れて食べるご褒美



 ヤカンにお湯を沸かしたクロは一人夕食の準備に取り掛かり多くの野菜をカットしていると『ドラゴンテイル』の面々からの視線を受けて顔を上げる。


「なあ、確かクロって名前だったよな? 『赤薔薇の騎士』を知らないか?」


 その言葉にドキリと心臓が早まるが平静を装って口を開く。


「知っていますよ」


「おお、どこへ行った? あいつらは村の警備担当だったろ?」


「今は村長の家に行っていますが師であるエルフェリーンさまから極秘の話し合いがあるとかで一緒にいると思います。『漂う尻尾』も一緒にいると思いますが極秘らしいので会えないと思いますよ」


「わふぅ!」


 クロの横で伏せていた小雪が鳴き声を上げ『ドラゴンテイル』のリーダーが体をビクリと揺らしながら驚き、大楯の男は肩を揺らす。


「おお、そうか……極秘の話し合いって何だろうな」


「さあ、極秘ですから秘密だと思いますけど……」


 適当にはぐらかすクロは手元を見つめて野菜のカットを再開し、『ドラゴンテイル』の者たちは首を傾げていたが礼を言ってその場を去り安堵するクロ。


「今頃は隠れて食べているのだろうけど……喜んでいるといいな」


「わふぅ!」


 ゆらりと尻尾を揺らし小さく吠える小雪にクロはカットしたキュウリを投げ、口でキャッチし食感を楽しむ。






 一方、乙女たちはといえば村長宅に集まり歓喜していた。


「こんなの初めてっす!」


「う~ん、見たこともない果実がどれも美味ですわ」


「お皿かと思ったけど下も甘くて美味しい!」


 村長の家の内部から強力な結界を張り窓から中が見えないのはもちろんだが、防音を施し内部の事情を完全に遮断した乙女たちはクロが魔力創造で創り出したフルーツタルトを口に表情を溶かしていた。これは狩り勝負を優勝したキュアーゼからのリクエストであり、フルーツがたっぷりと乗ったフルーツタルトを初めて食べた『揺れる尻尾』と『赤薔薇の騎士』たちは歓喜しながら口にしていた。


「お昼を少なくして大正解でしたね~」


 アイアンアントの討伐で『赤薔薇の騎士』たちとよく話すようになっていたアイリーンからの言葉に、うんうんと首を縦に振りながらもフルーツタルトを口に運ぶアズリア。元メイドたちもその味に大満足なようで、サックリとした食感のタルト生地と間のカスタードの甘さと風味にフレッシュな果実の酸味と香りに夢中でフォークを進める。


「狩りの勝負をしていたのは知っていましたが、私たちが頂いても宜しいのかしら?」


「そこはクロ先輩に感謝して下さいね~」


「大感謝っす! クロさんは料理の天才っす!」


 『揺れる尻尾』の面々を誘ったエルフェリーンはツバキたちが喜ぶ姿に笑みを浮かべ、ビスチェはなぜだかドヤ顔をしている。


「私が優勝したのだけどみんなで食べるのね。てっきり私が一人で食べるものかと思っていたから、みんなで食べられて良かったわ」


 キュアーゼがいうように一位には特別なデザートを用意すると約束したクロだったが、優勝者だけがケーキを食べるのは忍びないだろうと数個のホールケーキを用意して皆に振舞ったのである。


「優勝者は好きな甘味を選べるというルールに変わりましたね~あむあむ」


「うふふ、私は参加すらしていませんでしたね~」


「私もです。このフルーツタルトにはウイスキーが合うかもしれませんね!」


 『草原の若葉』の中でも狩り勝負に参加していなかったメリリとルビーもこの場でフルーツタルトを食し表情を溶かしている。


「俺でもわかるが、これってかなりの高級品だろ?」


 『漂う尻尾』のケットシーの男が口にした言葉に無言で頷くツバキ。


「それは間違いありませんわ。珍しい果実もそうですが多くの砂糖を使い芸術作品のように仕上げておりますわ。ひと箱買うだけでも金貨数枚は飛んで行きますわね」


「金貨……最近は稼げるようになったが金貨数枚……」


 元貴族なだけあってエルタニアは物の価値を理解しており、見たことのない果実を生のまま乗せたフルーツタルトに金貨数枚の価値を見出し、その発言に驚いた『漂う尻尾』と『赤薔薇の騎士』たちのフォークが一瞬止まる。


「価格については気にしないで下さいね~これはクロ先輩からのご褒美ですからね~」


「そうよ! クロの好意に値段を付けるのはどうかと思うわ!」


「うふふ、美味しく召し上がって頂ければクロさまも喜ぶと思いますので、紅茶のおかわりも如何ですか?」


「そ、そうですわね……無粋でしたわ……」


 ビスチェからの指摘に素直に謝罪するエルタニア。


「ヴァルさんも初めて食べるフルーツタルトの味はどう……」


 アイリーンの横でフルーツタルトと睨めっこしていたヴァルだったが口に入れた瞬間に両翼が大きく開き薄っすらと輝く姿に呆気に取られ、他の者たちもあまりの神々しさにフォークを止める。


「これ程のものがこの世に存在するとは……流石は主さまです……」


 目を閉じて味を確かめるヴァル。


「悪くないが我は最中もなかがよかったのう……」


「なら私が食べるのだ!」


「キュウキュウ~」


 半分ほど食べたフルーツタルトを見て目を輝かせるキャロットと白亜に、ドランはフォークを置き孫娘の前に皿を寄せる。


「最中も美味しいけど、やっぱりイチゴショートが一番美味しいと思うぜ~」


「我はチーズケーキなのじゃ。確りと焼いてあるものも美味しいのじゃが、レアチーズケーキなるものも美味しかったのじゃ」


「パンケーキが一番ね! 上に蜂蜜とアイスを乗せて食べると幸せな気持ちになるわ! この前なんて妖精たちが私のパンケーキに群がって大変だったのよ!」


「このフルーツタルトも美味しいのですが、パンケーキには蜂蜜が使われるのですね!」


 アイリーンが保護した妖精たちもこの秘密の会合に参加しており大きなフォールサイズに群がり、あっという間に完食し蜂蜜を入れた紅茶を楽しんでいる。


「蜂蜜をたっぷりと掛けて食べると美味しいのよ! バターの塩気もあって最高ね!」


「パンケーキも美味しいのですがクリームたっぷりのロールケーキも美味しいですよ~果実やジャムをトッピングしたら最強ですね~」


「うふふ、私はプリンが好きですね。プルンとした食感に少しだけ苦いカラメルソースがアクセントになって美味しいです。それに果実や生クリームをトッピングしたプリンアラモードはまったく隙のない完璧なひと皿といえますね~」


「私はウイスキーボンボンが美味しかったです! チョコにお酒を閉じ込める発想は素晴らしいを通り越して驚愕しました!」


 『草原の若葉』たちが各々好きな甘味を言い合い、今食べているフルーツタルトの他にも最強や完璧といった単語で表現される甘味がある事に驚く。名前だけでははっきりと理解できないが、味の感想などでフルーツタルトに負けないぐらい美味しいものだろうと理解する『揺れる尻尾』と『赤薔薇の騎士』たち。


「あら、クロから新たに送られて来たわよ。むっ……」


 クロから送られてきたものを確認するビスチェの口が尖り緊張感に包まれる室内。


「これは二位のアイリーンへのご褒美ね……ロールケーキだわ……」


 アイテムボックスから長方形の箱を取り出すビスチェ。それを見てアイリーンはその場で跳ねて喜び箱を開封すると歓声が上がる。


「お姉さま、絶対に美味しいに決まっています!」


「凄いっす! 見ただけで美味しいのがわかるっす!」


 アズリアとツバキが叫び、イチゴや生クリームでデコレーションされたロールケーキを切り分けるメリリ。


「フワフワっす! フワフワっす!」


「赤いのが甘酸っぱくて美味しい! 姉さま、凄いです!」


「これは大満足ですね~私もハーフサイズのカツ丼にするべきでした……うぷっ」


 フルーツタルトとデコレーションされたロールケーキを大満足するまで食すのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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