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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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退屈姉妹とヴァルの忠義



「姉さま、退屈です……」


 今日、何度目かの言葉にエルタニアは大きなため息を吐き、妹であるアズリアを宥めようと優しく艶やかな髪に振れ頭を撫でる。


「警備が暇である事は良い事なのですわ。アイアンアントが縄張りを作り魔物が近寄らなくなっている現状では退屈な依頼になりますが、忙しいのも考えものですわ」


 兵士数名と『赤薔薇の騎士』たちが最前線の村に残り、他の者たちは崩れた鉱山から溶けて固まった鉄を運びに動き回っている。運びやすいように溶けた鉄に切り込みを入れ運べるサイズに加工したり、ドランやキャロットにキュアーゼなどの力自慢は崩れた鉱山の岩を退けたり、クロやエルフェリーンはアイテムボックスに鉄を入れ鉱山と最前線の村を往復したりと忙しく動き回っているのである。

 そんな中、暇そうに椅子に座り警備をする『赤薔薇の騎士』たち。村の四方には七味たちが警戒し、小雪もフラフラと散歩しながら魔物の気配がないか目を光らせている。


「ん? クロさまたちですわ!」


 鉱山と最前線の村を行き来するクロを発見したエルタニアが口を開いて顔を上げ、今日、何度目かのクロの飛行を視界に入れる。


「空が飛べるのは羨ましいです!」


「確かに私もそう思いますわ。ですが、クロさまを見るとそう思えないのが不思議ですわね……」


 ぶらりと手足を下げながら空に浮きこちらへ向かって来るクロの姿に元メイドたちはコクコクと頷く。


「ヴァルさまに抱えられているのです! ヴァルさまの姿が見えないのも凄いです!」


 ヴァルがワルキューレに進化したことで身に着けた新たなスキル、潜伏は自身の姿を大気に溶け込ませ姿を認識させないというチート能力を発揮し、クロを後ろから抱え鉱山と最前線の村を往復している。

 最初は普通にヴァルが背中からクロを抱えて飛んでのだが、ビスチェが口を尖らせアイリーンに下卑た笑みを浮かべられたこともあってからクロは歩くからいいとヴァルに断りを入れ、それに対してヴァルは「大気に溶けた状態でもクロさまを送り届けて見せます!」とやる気を見せた結果が今の姿である。


「空を飛んでいるというよりも、運ばれているが正解な気がしますわ……」


 だらりと下げた手を振るクロを見つめ何とも言えない表情を浮かべるエルタニア。


「それでも飛んでみたいです!」


 アズリアにはそんなクロの姿でも空を飛ぶ事実が眩しく見えたのだろう。






「これで最後です。後は崩落した地下の確認と坑道の補修ですね」


 地上に降り立ったクロはアイテムボックスから大量の融解し固まったアイアンアントの甲殻だったものを広場の端に積み上げて行く。


「この量の魔鉄が市場に出回れば価値が下がりそうですわね」


「そうですね。サキュバニア帝国からも大量の魔鉄が、師匠やツバキさんたちも来ましたね」


 視界の隅にエルフェリーンたちを捉えたクロは話しを中断させ竈にヤカンをセットすると火を入れる。


「うふふ、何か手伝える事はありますか?」


「それでしたら自分も手伝いたいです!」


 エルフェリーンたちの中でも最後尾を歩いていたメリリが素早くクロの前に現れ手伝いを申しで、主に忠誠心を見せるチャンスを得たとヴァルも姿を現し懇願する。


「お湯を沸かすだけだから手伝いって程の事もないが、他の竈にもヤカンをセットして沸かせて下さい。ヴァルは普通の炎で着火してくれな」


「はっ! お任せを!」


 忠誠心溢れる返事をしたヴァルはヤカンを手に取り竈の前で身構え手にしていたランスを天高く上げ、「ちょっと待とうか」とクロに声を掛けられ「はっ!」と返事をする。


「普通に火をつけるのにランスを構える必要はあるのか?」


「もちろんです! 主さまの威厳に関わるため、できるだけ派手に炎を上げてから竈に火を灯そうと」


「そこから直そうか……竈に火を灯すのなら、ほら、メリリさんは俺が火をつけた竈に薪を入れて火を移しているだろ。派手に炎を燃やすことに俺の威厳とか関係ないから普通にしような。派手というなヴァルの真白な翼が派手だから、これ以上派手にしないでくれ」


 目立つことを嫌うクロらしい言葉にヴァルは歓喜していた。


 クロさまが自分の翼を褒めて下さった……女神ベステルさまからの使命には不覚を取ったが、クロさまはそんな自分を褒め……やはりクロさまは上に立つべくしてこの地に召喚されたのだ! その証拠に多くの者へ神々すらも虜にする食事を振舞っておられる! 茶などメイドであるメリリか、主様に仕えるべく存在する自分に任されば……それなのに自らの手で民たちを労わりたいのだろう……素晴らしきお心遣いです!


 そんな心の中など知れず、注意したのに笑顔を向けて来るヴァルにクロは思う。


 この子はもしかしたらアホ子なのかもと……


 三頭身の頃は性別が分からないゆるキャラであったヴァルが、急に八頭身へと種族を変え現れ扱いに困るクロ。


「ヴァルは普通に過ごす練習をしようか。ほら、こうやって少し細い薪を入れて火を移す」


 クロが見本となるように竈に細い薪を入れて火を移し、火を入れる竈へ燃えやすい落ち葉と組んだ薪を説明しながら作業を行ってヤカンを温め、ヴァルは一字一句見逃さないよう真剣な瞳を向けつつも心の中では喜びに包まれていた。


 主さまが自分の為に丁寧に説明をして下さる……今この瞬間だけは自分の為だけに時間を使って下さって……この喜びをどう伝えれば……


 普段は折り畳まれている翼を広げ天から光が舞い落ち輝くヴァルの姿に、振り返り「どうだ? こうやって竈に火を入れ……光っているな……」と呆れ気味に口にするクロ。


「も、申し訳ありません! 集中して聞いていたのですが、主さまが自分の為に時間を割き教えて下さる事が嬉しく……」


 薄っすらと涙しながら歓喜に震えるヴァルの姿に様子を見守っていたエルフェリーンたちは何やら様子がおかしいと思いながらもその事には触れず、アイリーンだけは口には出さないが≪な~かした~な~か~し~た~≫と文字を浮かべる。


「小学生でも今はそんな言い方しないだろに……はぁ……ヴァル、」


「はっ!」


「えっと、大丈夫か? 気分が悪いとかあったら言ってくれよ。それとも魔力不足とかか?」


「いえ、本当に嬉しいだけで……申し訳ありません……竈に火を入れる際は既に火の付いた竈から火を移す……確りとこの胸に刻み込みました!」


「お、おお、それは頼もしいな……」


「はっ! 次からは必ずやお湯を沸かせてみせます!」


 膝を付き宣言するヴァル。クロは引いていたが、アズリアはヴァルが翼を広げ傅く姿に目を輝かせ、自身と姉が義理の母から廃嫡はいちゃくされ貴族ではなくなったが、貴族と騎士のような関係を前に理想だと思ったのだろう。


「お姉さま、アズリアもあのような家臣が持てるよう頑張りたいと思います!」


「そ、そうですわね……貴族から抜けた身ですが、主とそれに使えるヴァルさまは……その、あれですわね……はぁ……」


 大きなため息を漏らすエルタニアなのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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