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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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狩り勝負の結果



「で、クロは誰が一番だと思ったのかな?」


 手早くアイアンアントの分家の巣を潰して来たエルフェリーンは昼食の用意をしているクロへと笑顔で問い質す。が、クロは手を休めることなく動かしバッター液と呼ばれる小麦と溶き玉子に水混ぜたものに塩コショウをしたロース肉を付け、隣で作業するエルタニアへ渡し、エルタニアはパン粉を付け大きな皿へと移す作業をしている。

とんかつの下準備である。


「昨日のヤツですよね?」


「そうだぜ~誰が一番アイアンアントを狩れるかの勝負だぜ~」


 笑みを浮かべたままエルフェリーンが頷き、待ったの声を掛けるロザリアとビスチェ。


「それは違うのじゃ! 狩り勝負なのじゃが、言葉が足らないのじゃ!」


「そうよ! 偵察に出ているアイアンアント退治だったはずよ!」


「うん? そうだっけ?」


 首を捻り知らなかった風を装おうエルフェリーンに、吹き出しそうになるのを堪えるクロ。


「クロさま、ここはリズと交代して話し合われてはどうですか?」


 エルタニアからの勧めもありクロは『赤薔薇の騎士』の一員で元メイドのリズに頭を下げて交代してもらいこの場を後にし、広場の一角にあるベンチに座りそれを囲む乙女たち。

 はたから見れば冒険者パーティーのミーティングにも見えるのだが事情を知るエルタニアは大きなため息を吐き、今後のアイアンアント討伐から鉱山復興へと変わった作戦に支障が出ないことを祈りつつ作業をしながらチラチラと視線を向ける。


「えっと、まず確認しまずが、参加者は師匠にドランさんにビスチェとロザリアさん、キャロットとアイリーンにキュアーゼさん。あとはヴァルですね」


「うん、そうだね~ドランとキャロットにキュアーゼは鉱山だった岩の片付けが忙しいから、あそこで白亜と小雪と遊んでいるアイリーンとヴァルを呼ぼうか」


「アイリーン! ヴァル! ちょっと来なさい!」


 ビスチェが叫び二人の後を追って白亜と小雪も尻尾を揺らしながら現れ、クロの膝の上に乗る白亜。小雪もベンチに座るクロの太ももに自身の頬を擦り付け優しく撫でるクロ。


「クロ先輩が女性冒険者に鼻の下を伸ばしていた事を問い詰める会ですか?」


 アイリーンが場を盛り上げる為についた適当な嘘に目を細めるビスチェ。


「おいこらっ! 適当な嘘で俺を窮地に落とすのはやめろ!」


「えへへ、冗談ですよ~ほら、ビスチェさん。笑顔、笑顔~」


「その割にはさっき隣で作業していたクルクル女と仲が良さそうだったわ。それにツバキも興味津々でクロの事を聞いていたし……」


 話しながら口を尖らせるビスチェに、俺の知らない所で変な事を吹き込んでないよな? と思案するクロ。


「で、誰が一番だったかな? やっぱり巣ごとクリーンを討伐した僕だよね? ね?」


 グイグイと正面から身を寄せるエルフェリーン。それを膝の上から見ながら面白がる白亜は尻尾を揺らし、小雪は空気を読んでクロから離れアイリーンの隣へと移動する。


「師匠、落ち着いて下さい。実は順位は昨日のうちに決めました。改めて聞きますが、今回の順位は自分の偏見も含まれますから、そこは了承して下さいね」


「ん? 偏見?」


「クロ先輩にしては珍しいですね~」


「うむ、審査するのには数や質などもあるが、すべてが同じ個体という訳でもないし仕方のない事なのじゃ」


「で、誰が一位なのかしら?」


 腕を組みクロを見据えるビスチェ。ちなみにメリリとルビーはこの勝負に参加しておらず、メリリは『赤薔薇の騎士』たちと一緒にとんかつの下準備を手伝い、ルビーは討伐したアイアンアントの甲殻や牙の下処理をしている。


「一位はキュアーゼさんですね」


「えええええええ!?」


 予想外の言葉にエルフェリーンとビスチェが驚きの声を上げ、ロザリアは「やはりそうなったのじゃな……」と呟き、アイリーンは首を傾げる口を開く。


「その心は?」


「謎かけじゃないからな。理由としてはヴァルがこの勝負を降りたから繰り上げでキュアーゼさんが一位です。キュアーゼさんは本来の目的通りに外に出ているアイアンアントを間引いていた事と、鉱山が崩壊した後、外に出ていたアイアンアントが巣の近くに集まっていた事を報告した事ですね」


「じゃあ、じゃあ、ヴァルが一位だった理由はどうしてだい?」


「それを師匠が疑問に思う事に俺はビックリしていますが、師匠が危険な大魔法を龍脈へ打ち込み体を張って防いだことです。召喚の宝珠という物がなければ確実に命を落としていましたし、それを知っていたとしてもマナの暴走から世界を救った英雄ですから……」


 女神ベステルから使命を受けエルフェリーンを止めようと動いたヴァル。今回のアイアンアント討伐競争を辞退はヴァル本人から復活後に、「私は主さまの名誉の為といいながら参加していながら女神ベステルさまからの使命を優先させました……主さまの期待に応えられなかった事が何よりも悔しく、自分はもっと主さまに尽くすためにも辞退させて下さい……」と拳を握り締めながら口にし、クロは「世界を救ったんだ。俺はヴァルを誇りに思う」と声を掛けられ涙したのが昨晩の事である。


「うっ!? そ、それを言われると……じゃあ、僕が最下位とか?」


 ウルウルした瞳を向けるエルフェリーンにクロは大きく頷き、その場に崩れ落ちるエルフェリーン。


「近い理由でドランさんとキャロットも失格ですね。巣穴から離れているアイアンアントを狩る勝負であって、巣穴にいるアイアンアントを出して討伐する勝負じゃないですからね。二位はアイリーンだな」


「ふぇ!? 私ですか?」


 予想外に名前を呼ばれたアイリーンは驚きのあまりに変な声が出て頬を染める。


「ああ、本来一位のヴァルは世界に住むすべての人を救って、一位のキュアーゼさんの報告は多く集まったアイアンアントの暴走からここにいる冒険者や兵士たちを救ったからな。アイリーンは妖精たちを救っただろ」


「救ったというよりも移住先を紹介しただけで……」


「それでも救っただろ。妖精たちはみんな痩せていたから心配だったが、明るい性格なのか飛び回っているな」


「最初は人間を恐れていましたけど、拝まれて驚いていましたね~アズリアちゃんと仲良くなっていましたよ~」


 アイリーンに保護された妖精たち。

 始めはビクビクとしていたが冒険者や兵士たちから両手を合わせ拝まれ、妖精信仰の話を聞き、人間は妖精を誘拐する怖い存在から、人間は自分たちを崇拝するチョロイ存在に変わったのである。それに加えてクロが出した蜂蜜やチョコや飴に歓喜し、一日足らずで元気を取り戻している。


「三位はビスチェだな。ちゃんと鉱山から出てきたアイアンアントと討伐して、更にミスリルアントや他のレアなアントを退治したからな」


「そうね! 人を助けたというよりも、ミスリル鉱山が眠っている可能性を示したことは確かに私の手柄だわ!」


 ドヤ顔を披露するビスチェ。その横で恨ましそうな視線を送るエルフェリーンとロザリア。


「次はロザリアさんで、四位。鉱山から分家したアントの大群を討伐したのは大きいと思いますが、巣穴ですよね」


「うむ、確かに巣穴なのじゃ……まだ若いアイアンアントクイーンの巣だったのじゃ」


「鉱山だけじゃなくアイアンアントクイーンがいるのは脅威です。早めに見つけた功績は大きいと思います。ただ、まわりがそれ以上の功績を上げていただけで、本来なら一位だったかと……」


 クロのフォローにニッカリと笑ったロザリアは「うむ」と頷き胸を張るのだった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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