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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第三章 ダンジョン採取
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ダンジョンで朝食を



「ふぅ~まさかダンジョンで風呂に入れるとは驚きなのじゃ」


「私も血まみれだったので助かりました……」


「ここの休憩ポイントは特殊な場所で、地面にアイテムを放置してもダンジョンに吸収されないからね。クロにシールドで囲いを作って貰えば肩まで湯に浸かれるんだよ」


 ロザリアとルビーにエルフェリーンが湯気を上げ濡れた髪を拭きながら現れ、クロは冷やしたペットボトルの紅茶を魔力創造で作ると三人に勧める。


「おお、冷えた飲み物まで出してくれるとは気が効くのじゃ」


「何から何までありがとうございます」


「次はビスチェにアイリーンが入ってくるといいよ。ゴクゴクぷはぁ」


 腰に手を当て紅茶のペットボトルを呷るエルフェリーン。


「クロは覗くんじゃないわよ!」


≪クロ先輩のえっち!≫


 ビスチェは指差し、アイリーンは魔力で生成した糸を宙に描く。


「そんな事はしないから早く行け、ダンジョン内だから注意はしろよ」


 手をひらひらさせクロが二人を追い払う。

 飲み会から軽い仮眠を取りこの辺りには飲み会参加者しか居らず多少気を抜いているが警戒を続けるクロ。ドワーフの二人は酒瓶を抱えてまだ寝ており、コボルトの女冒険者三名は飲み過ぎるという事はなくクロの作った朝食を口にし、同じく老紳士のラルフもサンドイッチを口にしている。


「こりゃ美味いな」


「昨日も思いましたが、クロさんの料理は本当に珍しいものが多くて美味しかったですね」


「このサンドイッチも肉は少ないが食べ応えがあるわ」


 タマゴサンドに噛り付くコボルトたちは表情を綻ばせカップに入れたコーンスープに歓喜する。ラルフも無言で食べながらも味には満足している様で、時折目を閉じて頷くような仕草を取っていた。


「ははは、ラルフが目を閉じて味わっているよ。懐かしいなぁ、あの頃を思い出すよ」


 エルフェリーンの言葉にパッと目を開けたラルフは恥ずかしそうに微笑み、コーンスープで流し込むと口を開く。


「エルフェリーンさまが居ては、こうも年を取ったのに子供の頃を思い出しますな」


「はじめて会った時はまだガキンチョだったからね」


「爺さまがそんなに若い頃……エルフェリーンさまはどれだけの月日を生きておるのじゃ……」


 驚きの表情でエルフェリーンを見つめるロザリア。


「ロザリアさんたちも朝食を用意しましたのでどうぞ。ルビーさんはもう大丈夫か?」


「はい、ご迷惑をおかけして申し訳ないです。着替えまで貸して頂いて……」


 申し訳なさそうに頭を下げるルビーは血まみれだった服を着替え、ビスチェの着替えを借りており鮮やかな緑のワンピースと踝まで隠れるパンツ姿である。靴には血が付着していなかったのでそのまま自身のブーツを履き、顔を上げると着なれない格好で恥ずかしいのか、ほんのりと頬を染めていた。


「よく似合ってるよ。さあ、冷える前に食べてくれ」


 その言葉に真っ赤に頬を染め、エルフェリーンとロザリアはタマゴサンドに手を出し口に入れる。


「何これ、美味しい」


「うんうん、今日もタマゴサンドは美味しいね。スープはコーンスープだよ~僕はコーンスープが大好きだよ~」


「確かにこのスープは美味しいですな」


「美食家の爺が褒めておるのじゃ……どれ……おお、まったりとしながらも甘く温まる味じゃの。これは黄色い果実を潰したスープなのじゃな」


 コーンスープを口にするロザリアの口にも合ったようで自然と表情を溶かし、ラルフもその様子を見ながら頬笑みコーンスープを飲み干す。


「僕たちはヒカリゴケの採取に来たけど、ラルフたちは何かお目当てがあるのかな?」


「我らは調査に来ております。近頃、王都やその周辺国で違法薬物の取引や、鎖に繋がれている男女が目撃されましてな。どうにもこのダンジョンで栽培されているという噂を耳に致しました。まだ確証は持てませんが……」


「それでポーターの少年たちが注意喚起していたのかぁ。あむあむ」


「私たちもその噂は耳にしていますが、ダンジョンで植物を栽培するなど可能なのでしょうか?」


「ダンジョン内ではどんなに被害が出ても修復され、アイテムや装備品に遺体でさえ五分するとダンジョンに取り込まれる……栽培なんて時間が掛かるものは不可能ですわ」


「この場みたいな所で栽培しているとか?」


 コボルトの女性冒険者がいうようにダンジョン内に放置されたものは五分ほどで地面に吸収されてしまい、植物を育てる様な長期間地面に設置する事はできない。

 クロがいうように休憩場所のような場所であれば可能かもしれないが、植物に必要な光を確保するのは大変だろう。現にこの場では光魔水晶に魔力を通し光源を確保しているのだ。明るさもランプほどの光しかなく植物を育てるには膨大な数の光魔水晶や魔術で光源を確保する事は難しい。


「我もそう思い記憶にある三十階層までの五カ所を見てきたが、得るものはなかったな」


「三十階層だって!?」 


「たった二人でそこまで潜ったの!?」


「二十階層からはレッサードラゴンも出るというのに……」


 体を仰け反らせていいリアクションを取るコボルトの女冒険者たち、ルビーも驚きコーンスープで咽て、その背中をエルフェリーンが笑いながら摩る。


「ラルフは僕と一緒に四十階層まで進んだ経験があるからね。三十階層もボス部屋に入らなければ問題ないよね」


「はい、ロザリアは接近戦が得意ですし、私も思う存分魔術が使えストレス発散できましたな。あの当時を色々と思い出しましたよ」


 ヒゲを触りながら嬉しそうに語る老紳士のラルフ。横ではロザリアがタマゴサンドを口にしながら頷く。


「あの頃は自分たちの限界に挑戦している様で楽しかったなぁ。クロの力を使えば五十階層も目指せそうなのになぁ」


「絶対嫌ですからね。それよりもドワーフの二人は大丈夫でしょうか?」


「彼らはCランクの『熱い鉄』と呼ばれる冒険者だよ」


「ドワーフが酔い潰れるとかどれだけの酒を出したんだか」


 呆れら顔をするコボルトの女冒険者たち。


「ウォッカと呼ばれる蒸留酒で恐ろしく強いお酒ですね。温めると火がつくぐらいですから。ここだけの話、これよりも強いお酒はあるのですが流石にダンジョンじゃ危険かと思ってウォッカにしました」


 アイテムボックスから昨日提供したウォッカの瓶を取り出すクロ。それを見て苦笑いを浮かべる者たち。ただ、老紳士のラルフだけは目を光らせる。


「ほぅ、それは一度飲んでみたいものですな」


「爺さまが無理するでないのじゃ。そんな危険な物を飲んでは、いつポックリ行くかわからん」


 ロザリアの言葉に顔を顰めるラルフ。まわりの者たちは声を上げ笑い出し、エルフェリーンはラルフの背中をバンバンと叩き笑い声を上げる。


「あはははは、ヴァンパイアが酒の飲み過ぎでポックリとは面白いねぇ。ラルフは殺しても死ぬような奴じゃないよ。あはははは」


「いいお湯だったわ。『疾走する尻尾』たちもお風呂に入ったら」


≪クロ先輩のシールドは便利すぎる件≫


 お風呂に入り戻ってきた二人は湯気を上げ、髪を拭きながら声をかける。


「私たちまでいいのか?」


「別にいいわよ。ラルフのおじさまやドワーフたちにだって勧めるもの」


「それじゃ、お言葉に甘えようよ!」


「私も賛成! ここまで来るのにも汗かいたし、少しお酒臭いわ」


「ぬるかったら言ってよね。温めに行くから」


「感謝する。困った事があったら採取でも何でも手伝うから言ってくれ」


 そう言葉を残し、尻尾を振りながらお風呂へと向かうコボルトの冒険者たち。


「あっ! 今『疾走する尻尾』たちを見てお風呂姿を想像したでしょ!」


≪クロ先輩のドスケベ妄想やろう≫


 クロを指差しあらぬ誤解を与えるビスチェと、笑いながら宙に文字を浮かべるアイリーン。ルビーとロザリアが白い目を向け、肩をがっくりと落としながらもビスチェとアイリーンにタマゴサンドを渡すクロなのであった。





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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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