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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第一章 王家の試練
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本日のデザートは金貨数枚!?



 薬草を使ったジェノベーゼ風パスタも食べ終わると、クロが人数分のパンケーキをテーブルに並べ始めるとビスチェを含めた女性たちから歓声が上がる。


 二段になったパンケーキの上には溶けたバターと蜂蜜がトロリと流れ、ホイップの上には新鮮な木苺とそれを使ったソースがたっぷりと添えられている。バターの香りに加え蜂蜜の甘い香りに木苺の酸味のある香りに、女性たちは食べる前から表情を崩していた。


「ご機嫌取りとはいえ、今日は豪華なランチになったね」


 エルフェリーンの言葉に目を細めるクロだったが、違いないと思い温かな紅茶を入れに戻る。


「それはなんだか申し訳ないな……」


 そう口にする第二王子ダリルだったが頭を傾げるエルフェリーンとビスチェ。


「ああ、違うのよ。今日は私がパンケーキをオーダーしたのよ。私のご機嫌取りね」


 そう微笑むとナイフでカットしたパンケーキを大きな口に滑り込ませ、頬に手を当てて表情を崩すビスチェ。


「そ、そうか……それなら構わないが……あむ、ううう、これは美味しいね。これ以上のデザートは食べた事がないよ」


 勘違いだと気が付いた第二王子ダリルだったが、そんな事も忘れるぐらいにパンケーキは甘く美味しいものであった。女騎士とメイドもひと口食べては頬笑みを浮かべクロが配りはじめた紅茶で甘味を流し込み、今度は紅茶の香りにホッとした息を漏らす。


「これを王都で食べたら金貨数枚はするかも」


 女騎士の言葉に一瞬手が止まるメイドともう一人の女騎士だったが、鼻を抜ける木苺の香りと紅茶の香りのマリアージュに、次の手が伸び口に入れ微笑む。


「ここでなら私のお願いをクロが聞いてくれるから、素材を取りに行くだけで食べられるわよ」


「それは素晴らしいのですが、この辺りの魔物はどれも強力です。一般の者などここへ来る事も叶わないのですが……」


「木苺の生える斜面は危険だし、鳥系の魔物は上空から襲ってくるから木苺に目を奪われていると自分が木苺の様に潰されるからね」


「はぁ……師匠のジョークは悪趣味ですよ。そうでなくとも魔物を引き寄せる呪いが掛かっていた第二王子さまに失礼じゃないですか」


 女騎士やメイドが赤い木苺のソースに手が止まり何とも言えない表情を浮かべ、クロがフォローを入れると第二王子ダリルは目を輝かせる。


「クロよ。私の事はダリルと呼ぶがいい。いや、呼んでくれ。君は命の恩人だし、純魔族に立ち向かった勇士。僕は君を尊敬している」


 イケメンスマイルでそう話す第二王子にクロは正直引いていた。なぜならビスチェと二人の女騎士が目を輝かせ鼻息を荒くしているのが目に入ったからであり、腐っていると理解したのだ。


「ダメだろうか……」


 数歩後ずさった事もありイケメンスマイルが崩れるダリル。


「それは不敬罪では……」


「そんな事はないよ。僕が許しているのだから誰にも文句は言わせない!」


 表情をコロコロ変え、意思の宿った瞳を向け宣言する第二王子ダリルにクロが折れ、「それならダリルさまと……」と妥協する。


「ああ、そうだね。本当ならクロの兄貴と呼びたいが、」


「キャー」


 三名の腐女子が息を合わせたかのように黄色い悲鳴を上げ、げんなりとした表情を浮かべるクロ。対照的にダリルはただただ急な悲鳴に驚いていた。


「どちらが兄貴でもいいが、食べ終わったら確認して来るから私を中へ入れてくれ。ここだと危険だから先ほどの荒野まで戻ろうか」


「まだ息があった時は怖いですから……というか、本当にあんなので消滅するのですか?」


「あんなのとはふぅ、相変わらず君は過小評価しているね。純魔族の弱点は聖属性だ。その聖属性で作られた空間を作り出せる君はどれだけ稀有な才能か理解しているかい? それこそオンリーワンの魔術だよ」


 パンケーキを食べ終えたエルフェリーンの言葉に誰もが耳を傾け、クロだけは納得がいかないのか自分用に用意したパスタを口にする。


「教会関係者でもないのに聖属性……ああ、純魔族の頭を押さえたシールド魔法も聖属性の光に見えたね。女神さまの様な女性の顔が浮かんだシールド魔法は初めて見たよ」


「クロさまは魔法に料理にと多彩な才をお持ちなのですね」


「本職は薬草ゴリゴリ係だけどね」


 なぜかビスチェが胸を張り苦笑いを浮かべるクロ。それを見たダリルは嬉しそうに笑い、お付きの女性たちも笑みを浮かべる。


「それにしても錬金術師とはいえ、贅沢に砂糖や蜂蜜に木苺が使えるものだな。帝都で売ればそれなりの金になるが……」


「キラービーの蜂蜜がオークションに掛かれば、どれほどの金貨が積まれるか……」


「砂糖やバターもそうですが、薬草を使ったパスタの薬草だって高価なものではないのですか?」


「あれは裏庭で育てていますので、ビスチェの頑張りですよ」


 メイドの疑問にクロが答え胸を張るビスチェ。


「そうね。魔力草はもちろんだけど、麻痺に効果のある薬草や、塗り薬に使う薬草に、ポーション素材になる薬草も育てているものね。今日使ったのは魔力を回復させる魔力草でしょ。王都の錬金ギルドに卸せば麻袋ひとつで金貨五枚?」


「この時期だったらもう少し値が下がるだろうが、金貨は確実に貰えるだろうな」


 エルフェリーンが長年の経験から金額を予測するとメイドや女騎士は顔を青く染める。


「私の月収以上の料理……」


「私だって同じだぞ……」


「ひと月で金貨以上の額が貰えるメイドなどメイド長ぐらいだろう。近衛兵ならそれなりにいるが、私たちでは……」


 ちなみに銅貨一枚百円として、銀貨は一万円、金貨は百万というのがこの国のレートである。他国へ行けばまた違った相場になるが、王子付きのメイドの給料は月に銀貨五十枚ほどであり、近衛兵を務める二人の月給は銀貨七十枚ほどだ。卓越した技術に加え危険手当や名誉手当が含まれた王国の中でも憧れの職業なのである。

 但し、その分危険であり、近衛兵は最後の盾として撤退が許されず、最後まで戦い花々しく散る事が義務付けられている。


「料理のメニューはクロが決めた事だし、デザートはビスチェが決めた事だ。美味しかったのなら良かったではないか。それよりも白百合の花は明日の早朝から出掛ける事になる。今日はゆっくり体を休めるといい」


「うちには広いお風呂もあるから後でお湯を入れておくからね。クロは覗いたら死刑だから」


 笑顔で視線を向けるビスチェに「誰が覗くか!」といいながら顔を赤くするクロは皿を片付けはじめ、メイドの一人が「私も手伝います」と声を上げると機敏な動きで皿を集めキッチンへと運び、多少なり心を許してくれたのだろう。


「それが終わったら素材回収だからね~」


 そう声を上げ外へと向かうエルフェリーンは手に芸術作品の様な金の留め具に漆の様な艶のある煙管きせるを持ち出て行くと、魔術で火種を作り煙を吸いはじめる。


「ふぅ~~~あんなにも幼い子を呪うとは王国は変わらないな……また作った方がいいのかねぇ」


 吐きだした煙が空へと消えて行く様を見つめながら、これから手に入るだろう戦利品の使い道を思案するのだった。




 お読み頂きありがとうございます。

 

 とりあえずはここまでになります。

 

 次回は火曜日の十一時になりますので宜しくお願いします。


 ブックマークに評価にいいねも、宜しくお願いします。


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