赤薔薇の騎士たちとヴァルの存在
「行ってくるのだ!」
朝食を終え魔化したキャロットとドランが崩壊した鉱山の片付けに向かい、クロと白亜は手を振りながら送り出し、エルフェリーンとビスチェにロザリアもまだ討伐しきれていないアイアンアントの分家を退治しに向かう。
「師匠たちも気を付けて下さいね」
「うん、気を付けるよ~大魔法は使わずに剣で戦うからね~」
「クロは美味しい昼食を作って待ってなさい! またミスリルアントが見つかるかもしれないわ!」
「うむ、任せておくのじゃ!」
そんな三人の後を追うのはツバキをリーダーとする『漂う尻尾』たち。エルフェリーンたちの戦いを間近で見たいと懇願しエルフェリーンは快く了承したのである。
「先ほどまで二日酔いでダウンなさっておりましたのに、アイリーンさまの回復魔法は凄いですわね」
エルタニアは顔を青くするエルフェリーンやドランにエクスヒールを掛け二日酔いから回復させたのである。二日酔いに回復魔法の最高峰をお手軽に使うアイリーンに驚きよりも呆れていたのだが優秀である事には違いないだろう。
「是非、うちのパーティーに加入したい人材です!」
エルタニアの妹であるアズリアの言葉にアイリーンは困った顔を浮かべるが、そんなアイリーンはアズリ アを膝の上に乗せ優しく頭を撫でており、膝の上のアズリアは寄り添う小雪を優しく撫で尻尾を揺らしている。
「アズリアちゃんの気持ちは嬉しいですがダメですね~私には小雪の世話と七味たちの教育係に皿洗いのお仕事がありますからね~」
「それは雑用係ですわ……このような優秀な人材が雑用係として扱き使われているとは……」
「『草原の若葉』という冒険者パーティーのトップだからできる人材採用ですね……」
「あれだけの回復魔法が使えるのに……」
「皿洗いは雑用ですけどクロ先輩は喜んでくれますね~落ちなかったカレーの染みが落ちたとか、鍋の煤が綺麗になったとか、洗濯物が一瞬で綺麗になったとか、褒められるのは嬉しいものですね~」
そう口にしながらクロへと視線を向けるアイリーン。クロはというと白亜を椅子に降ろし数匹の妖精を頭と肩に乗せたままアイテムボックスのメニューを開き思案していた。
「昨日は肉で今朝はうどんとお稲荷さんだったから野菜が取れるメニューがいいが、運ばれていたのは干し野菜なんだよな~そうなるとスープ系になるよな~」
腕組みをしたまま考えるクロに呆れた表情を浮かべる『赤薔薇の騎士』たち。
「アイリーンさまが引き抜かれそうなのに昼食の心配とは……」
「アイリーンお姉ちゃんはうちに入った方が、もっと必要とされると思います……」
アズリアは撫でているアイリーンへ向き直り視線を合わせるが、笑みを浮かべたままその頬に両手を置いてグニグニと揉み解されアズリアも笑みを浮かべる。
「クロ先輩には大きな恩がありますからね~それに『草原の若葉』を離れたらクロ先輩の美味しい料理が食べられなくなりますからね~」
「確かに今朝の料理も初めて食しましたが、とても美味しかったですわね」
「お稲荷さんはとても美味しかったです! うどんは食べるのが難しかったですが体が温まってツルツルして美味しかったですね」
朝食を思い出し自然と表情を溶かすエルタニア。アズリアはアイリーンが頬を揉み解している事もあり既に表情は解けている。
「うどんは他の料理にも応用が利きそうです。麺という料理で小麦粉と塩でよく揉み成形すればどんなスープにも使えるそうです」
「スープに使われている醤油もダンジョンに潜れば見つかるそうです!」
「うふふ、麺料理は炒めても美味しくなりますねぇ。前に焼うどんをエルフの姉妹が修行をしにいらして食べ放題でしたねぇ」
「クランとフランが作った焼うどんも美味しかったですね~」
エルフたちの祭りである成樹祭で提供するメニューとして焼うどんを習得すべくクロの下で料理修行したフランとクラン。成樹祭では立派にその任を勤めあげエルフたちから一目置かれるようになった二人に婚約の申し出を多く受けたが、すべてを断りいつも通りの生活を送っている。
「あの時の焼きうどんならまだ大量に残っているぞ。試作と手順を覚える為に食べきれない量を作ったからな~」
最初の一日は二人の作った焼うどんを食事に使っていたが、三食とも焼うどんな事に誰もがうんざりするのは仕方のない事だろう。結果として二人が作った修行の焼うどんとから揚げはクロのアイテムボックスに保管されている。
「そ、それはいつの事ですの!? アイテムボックス内で腐っていますわ!」
「ああ、それは問題ないから大丈夫です」
眉間に深い皺を寄せ心配するエルタニアにクロは問題がないと口にする。事実、クロのアイテムボックスは時間停止機能があり数か月前に作った料理だろうが入れたままの状態で保管され、湯気を上げる料理をこの場に出す事も可能である。が、それがバレると大事になる可能性もありそこまで説明せずに会話を打ち切る。
「クロ先輩のアイテムボックスは特別仕様ですからね~私はアイテムボックスが使えないから羨ましいですね~」
「うふふ、そういうアイリーンさまはアイテムバッグを持っておられるではないですか」
「ありますけど、カッコイイじゃないですか~手品とかにも使えそうだし、大きな獲物を倒した時とかに便利ですよ~」
アイリーンが所有しているアイテムバッグは以前エルフェリーンがダンジョン内で見つけた物で開け口よりも大きな物を入れることはできず、狩りの際には引きずって回収している。内容量も物置ひとつほど入るのだが時間停止などの機能はなく定期的に手書きのリストの更新と片付けが必要になるのである。
「アイテムバッグを個人所有できるのも十分に凄い事ですわ。昔は国がアイテムバッグを管理し、ダンジョンから見つかった際には強制的に買い取られていたほどですわよ」
「今でもオークションに出品されれば金貨数百枚で売られるほどです。それを個人で持つことができるのは『草原の若葉』や限られた商人ぐらいです」
エルタニアと元メイドからの言葉に「へぇ~」と声に出すアイリーン。
「焼うどんが七十食も……昼食は焼うどんと野菜多めであっさりとしたスープにするかな」
「あっさりとしたスープは嬉しいですわ。昨日から美味しい料理ばかりで、自覚できるほど食べ過ぎていますもの……」
皆でうんうんと首を縦に振る『赤薔薇の騎士』の乙女たち。アイリーンもアズリアの頷きに合わせて頭を撫でる。
「それはそうと、クロさま、あの、昨日から気になっているのですが……その、」
歯切れの悪い声で口を開いたエルタニアにクロが視線を向ける。
「どう見ても天使さまですわよね? それに昨日はクロさまに向かって跪いていらしたのですが……もしかして、クロさまは……」
「ああ、あれはヴァルといって召喚の宝珠から召喚されたホーリーナイトが進化したワルキューレだっけ?」
説明しながら首を捻るクロに、思っていた答えと違うエルタニアは再度口を開く。
「いえ、そうではなく、天使さまに命令ができるのは神さまだと……いえ、クロさまは『草原の若葉』でしたわね……」
その便利な一言で片づけるエルタニア。『赤薔薇の騎士』の一同もその言葉に納得したのか追加の質問はなく、仁王立ちでランスを構え鉱山を見つめるヴァルの凛々しい後ろ姿を見つめるのであった。
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