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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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ミスリルアントとドランの頼み



「ヴァル~ごめんよ~僕が悪かったよ~」


「いえ、ヴァルは主さまの為に女神ベステルさまの命令に従ったまでです。どうか、涙を拭きますのでお顔をお上げください」


 大人と子供ほどの身長差のある二人のやり取りを耳にしながら、ヴァルからの説明を聞き終えたクロも涙を拭い料理を再開していると満面の笑みを浮かべたビスチェが村へ戻り、その横を付いて転がるアイアンアントの塊が目に入りギョッとする冒険者や兵士たち。

 複雑に絡み合ったアイアンアントのまわりにはキラキラと光る粒子が見え精霊に運ばせているのだろう。


「さっき鉱山が崩れ去ったけど、アレは師匠やキャロットが原因よね?」


 笑みを絶やさずクロへと話し掛けるビスチェに頷きながら炊き立てのご飯を撹拌して丼ぶりに移しアイテムボックスに収納する。


「大爆発で驚いたが、こっちにもアイアンアントとソルジャーも出て生きた心地がしなかったぞ」


「あの爆発は凄かったわね。でも、私はもっと凄いわ! アイアンアントとミスリルアントにゴールデンアント! 他にも珍しい鉱物を食べたアントを討伐して持って来たわ!」


 腰に手を当てドヤ顔をするビスチェの横には大きなアントの塊が三つ停止しキラキラと舞う精霊たち。


「ミスリルアントだって!?」


 ヴァルに抱きつき涙していたエルフェリーンが顔を上げ素早く涙を拭き取られながらも三つの大きなアントの塊にテンションを上げ走り出し、冒険者や兵士たちからも歓声が上がる。


「ミスリルアントが生息しているということは、まだまだ依頼が増えるぞ!」


「鉱山が崩壊してこの村は終わりかと思ったが、これから忙しくなるな!」


「ゴールデンアントとか俺がやりたかった! 甲殻が金のように柔らかく倒しやすいわりに高値で買い取ってもらえたのに!!」


 冒険者たちが三つのアントの塊に集まり始め、その中でアイアンアントよりも輝きを持つ銀に手で触れて魔力を流すエルフェリーン。魔力を流されたミスリルアントの甲殻が輝き歓声を上げる冒険者たちや兵士。

 その中でも一番大きな歓声を上げたのは指揮を執っていたカヌカ王国の軍部のトップたちであった。


「ミスリルアントが二匹も狩れれば停滞していた国費が賄える! 鉱山が吹き飛んだ時はどうなるかと思ったが、これで面子も保たれプラス収支は確実になる!」


「鉱山が崩壊したが溶けたアイアンアントからも鉄や魔鉄が採掘できるはずだ。回収のための人員を軍と冒険者から集めなければ!」


「崩壊したのは寧ろ好都合! ミスリルは地下深くからの方が採掘できるはずだ! これからは落盤に気を付け地下へ掘り進め採掘できるぞ!」


 以前にも鉱山からミスリルが採掘できてはいたが産出量は少なく、ミスリルアントが出現した事で多くのミスリルが地下に埋まっていると予想したリンセンの町の村長であるリグラが叫び、炊き出しを手伝っていた村の男たちや冒険者が叫びを上げ盛り上がる広場。


「ミスリルアントで間違いないし、こっちはゴールデンアントだね! ん!? こっちは羅漢石に夜光石も食べているよ! どれも貴重な鉱石を食べたアントだね!」


 エルフェリーンが目を赤くしながらも叫び、その叫びは冒険者や兵士たちにも伝染し更なる盛り上がりを見せるなか、空から降り立つキュアーゼは大きな胸を揺らしながら着地する。


「盛り上がっているところ悪いけど、これから忙しくなるわよ!」


 歓声に包まれていたがキュアーゼの着地に男たちの視線が集まり、静まり返った広場でその発言は集まっていた者たちの耳に届き次の言葉を待つ一同。


「鉱山が消失した影響かもしれないけど探索に出ていたアイアンアントが巣に帰っていたわ。中にいたアイアンアントほどじゃないけど、それなりの数がいたわ。私一人じゃ対処できないから、」


「それなら僕が行くよ! 罪滅ぼしという訳じゃないけど、頑張ってアイアンアントを吹き飛ばし、」


「師匠! 吹き飛ばすのはなしにしましょう! 大魔法で龍脈を傷つけるのは……」


 キュアーゼの発言を遮り失点を取り戻そうと声を上げるエルフェリーン。だが、クロがすぐにエルフェリーンに待ったを掛け安堵するヴァルと冒険者や軍部の者たち。


「集まったといってもこれだけの精鋭がおれば容易いのじゃ」


「大魔法など使わずとも、ワシとキャロットのブレスで焼き払えば楽勝じゃのう」


「お腹が減ったのだ!」


「あの、私たちも力になりたいです!」


「ソルジャータイプは荷が重くてもアイアンアントならパーティーメンバーで対処できますわ!」


「なら、みんなで協力して残りを倒そうか!」


 エルフェリーンの案に声を上げる冒険者たち。キャロットはお腹を押さえてクロが用意している丼ぶりの白米を凝視している。


「ソルジャーは我やビスチェにアイリーンが受け持ち、残りはお主たちに任せるのじゃ」


 ロザリアからの視線を受け『揺れる尻尾』と『赤薔薇の騎士』に『ドラゴンテイル』が声を上げ、残りの冒険者や兵士たちもやる気を漲らせ準備を開始する。


「昼食は討伐後ですかね?」


「うん、そうなるかな~美味しい昼食を用意してくれよ~お酒もあると嬉しいな~」


「それなら帰って来たら宴会ですね!」


「宴会もいいけど狩り勝負はどうするのかしら? 私が一番だと思うわよ!」


 エルフェリーンが酒を求め、ルビーが宴会へと発展させ、ビスチェは狩り勝負のことを口にし、クロは狩り勝負の判定よりも炊き立てのご飯を丼ぶりに移す作業が忙しくいち早く飛び出したヴァルに手伝いをお願いするのであった。









「美味しいっす! 上の肉と野菜の味付けが最高っす!」


「米だったかしら? それに味が移って美味しいですわね」


「クロさまは料理の英雄です!」


 二時間後に村へと帰って来た一同はクロが用意したカルビと玉ねぎとニラを焼き肉のタレで炒めた丼ぶりを食し競い合うようにおかわりを求め、軍部からも討伐の暁には皆で飲むようにとカヌカ王から差し入れられていたワインや、クロが提供した缶ビールやウイスキーなどを飲み歓声を上げていた。


「崩壊した鉱山は明日からドランさまやキャロットさま方が掘りやすいよう岩や溶けて固まった鉄を片付けて下さるそうだ!」


「うむ、ワシとキャロットで力になろう……」


「楽勝なのだ! おかわりなのだ!」


「キュウキュウ~」


 魔化すればドラゴンとほぼ変わらない力を持つ二人が協力すれば崩落した鉱山もすぐに片付き、新たな穴を掘る事も可能になるだろう。二人とエルフェリーンが原因ということもあり、村長のリグラの申し出を素直に受けたのではあるが……


「カヌカの伝説は間違いなかった! ドランさまや『草原の若葉』はカヌカの英雄だ!」


 ウイスキーを片手に叫ぶ冒険者の男に、まわりからも叫びが上がり勝利に酔いしれる一同。ただ、ドランだけはちびちびとウイスキーを口に運びながら隣に座っている軍や村長へと視線を向けて口を開く。


「ひとつ頼みたい事があるのだが、よいかのう」


「はい、何でございましょうか」


「我々にできる事なら何なりとお申し付けください!」


「英雄ドランさまの頼みとあらば必ずや!」


 その言葉に口角を上げたドランはグラスを置いて口を開く。


「この度の活躍は我だけではなく『草原の若葉』や多くの冒険者に兵士たちが頑張った結果だろう」


「その通りでございます」


「戦い以外にもカヌカ王国からの支援や、今は避難しておりますが家々を提供してくれた村人たちもです」


「うむ、そうなのだ。アイアンアントの討伐には多くの者が関わり力の限りを尽くした結果に過ぎぬ……で、だ。我の石像やエルフェリーンさまの石像を建てるのはやめてもらいたい。カヌカ王にも、これ以上ワシの石像を建てる断りを入れておるからの」


「そ、そんな!? 英雄であるドランさまの像は魔除けにもなると多くの者たちが期待しておられるのですが……」


「この度のアイアンアントの討伐を記念に、広場には立派な石像を作り村おこしや観光の名所にしようと……」


 愕然とする軍部の男と村長のリグラ。


「はっきり言うが、ワシは恥ずかしい……若かれしワシが活躍したのは事実としても、数歩も歩けば自分の像がそこかしこにある現状……ワシではなく、お主らがそんな状況であったらどう思うか、一度考えてみてくれ……」


 飲みかけのウイスキーのグラスを手に取り残りを一気に煽ったドランは立ち上がるとその場を後にし、残された軍部のお偉方は腕組みをしながら思案し、村長であるリグラは「英雄さまにもそんな悩みがあるのか……」と呟くのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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