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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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クロとルビーの戦いと助っ人



 ルビーが魔道槌を下段に構え走り出しながら魔力を込めると次第にそれが大きく膨らみ、ある事に気が付くクロ。


「石畳が槌にくっついているのか」


 舗装された石畳をゴリゴリと吸収し膨らみ、比較的に小さい種族であるルビーの体躯よりも大きな物へと変わりそれを振り上げる筋力にまわりの冒険者からは歓声が上がる。


「どりゃぁぁぁぁ!」


 力任せに飛び上がり振り下ろした魔道槌の一撃はアイアンアント自体よりも大きく、鉄が潰れる音とクレーターを作り出す。


「あれだけの威力があるならデカイ方を任せたいのにな」


 ルビーが問題なくアイアンアントを倒せると確信したクロはアイアンアントソルジャーに視線を向け、秘密兵器を最大まで伸ばし引き金を引く。と、同時に爆音が響き噴霧される音がかき消されながらも、クロはトリガーから手を放さずにアイアンアントソルジャーの目や口に殺虫スプレーを噴霧し続ける。


「おい、鉱山が!」


「赤い……鉱山が赤く染まってやがる!」


「鉱山の形も変わっているぞ!」


 ドランにキャロットとエルフェリーンの暴走により爆発と鉱山が崩れ誰もが視線を向ける中、ルビーは二匹目に狙いを定め魔道槌を持ち上げようとする。が、クレーターを生み出したそれは地面に埋まり引き抜くことができずに苦戦し、ゆっくりとだがルビーに迫るアイアンアント。


 クロは噴霧を数秒ほど遅れてアイアンアントソルジャーが苦しみ出し暴れ始め、地面を転がるように左右に動きシールドを発動させアイアンアントソルジャーの体を固定しようと試みるがガラスのように割れ顔を引き攣らせる。


「クロ先輩! 助けて! 抜けません!」


 ルビーから救援を求める叫びにクロは急ぎクレーターへと足を向けるが目の前を紺と白の影が躍り、二本の閃光がルビーへ近づくアイアンアントの頭部を瞬時に落とし舞うメイド服。


「うふふ、大丈夫ですか?」


「メリリさん!」


 優しい笑みを浮かべるメリリにルビーは魔道槌から手を放し抱きつき、恐怖から救ってくれた事を感謝しながら涙を流す。


「怖かったでずぅぅぅぅぅぅぅぅ」


「あらあら、何事も経験ですが一匹は退治したのです。誇って下さいね」


 涙するルビーを優しく抱き締めるメリリ。メリリは狩り勝負には参加せず朝早くからクロを手伝い借りている部屋で昼寝をしていたのだが、エルフェリーンが行使した雷の魔術の爆音に目を覚まし急ぎ外へ出てルビーの叫びに駆けつけたのである。


「メリリさん、こっちもお願いしたいのですが」


「うふふ、頼られるのは嬉しいですねぇ。ルビーさんは強い子です! 私はクロさまのお手伝いをして参りますので、一人で大丈夫ですか?」


「は、はい……ありがとうございました……ぐす……」


 鼻を啜り涙を拭きながら答えるルビーに笑顔を返すと瞬時に目の前から姿が消え次の瞬間にはアイアンアントソルジャーの頭部がゴロリと転がり、胴とは反対方向へと数メートル進み停止する。体の方も動きが止まると母性全開で両手を広げてクロを待つメリリ。


「助かりました。あのままだったら炊いている米や料理に被害が出る所でしたよ」


 メリリの思惑は外れお礼を口にしたクロは料理を再開しに竈へと戻り、広げた手をゆっくりと戻すと大きな欠伸をして近くに置いてある椅子に座るゆっくりと目を閉じる。


「い、今の動き凄かったっす……気が付いたらアイアンアントの頭が落ちてたっす……」


「私もですわ……初動すら……見えなかったですわ……」


「鉱山の崩壊も気になるが、こっちに残ったメイドさんも恐ろしく強いか……」


 冒険者の中には今の戦いを見ていた者たちもおり、ツバキやエルタニアはすぐに助けに入ろうと爆音が響きながらも足を進めていたが、それを追い越し助けに入ったメリリの恐ろしく早い行動力と素早さや剣技の腕に放心していた。


「あれがエニシさまのいた『草原の若葉』……」


 小さく呟くツバキの四本ある尻尾がピンと立ち目標である祖母の凄さを間接的にだが知る事ができ、拳を握り締め自身もその高みへ上がると決意を込めて心に誓い、エルタニアもメリリの凄さを目の前で体験し槍を力いっぱいに握り自身の不甲斐なさを実感していた。


「戦いとは無縁そうな優しい笑みを浮かべていたのに、あれほどの実力者だとは……」


「お姉さま、あれが一流の冒険者なのですね」


「ええ、『草原の若葉』は冒険者の中でもトップ中のトップですわ。エルフェリーンさまやドランさま以外にも、暴風のビスチェや影の英雄クロに先ほどのメリリさま……帝国潰しというのも頷けますわね……」


 妹であるアズリアからの言葉に笑みを浮かべ優しく口にする。


「わふっ!」


 そんな二人のやり取りに声を上げた小雪が走り出し、七味たちから新たに「ギギギギ」と叫びが上がりクロの目の前には文字が急停止する。


≪ソルジャー三体≫


 急ぎ皆に報告しようと声を上げるが視線の先の木々の一部が倒壊し、白くフサフサで巨大なそれが首のないアイアンアントソルジャーを前足で転がし、更には口に咥え開けた場所に置き、クロの元へと走り出すが遠近法が馬鹿になったと思うほどに近づくにつれその姿は小さく変化し、クロの足元に辿り着いた時にはいつもの成犬サイズへと変わる小雪。


「アイアンアントソルジャーが新たに三体! 討伐された?」


「わふぅ!」


「最近は大きくなれるとアイリーンに聞いていたが、成長が早いな」


「わふっ!」


 尻尾を揺らしクロに撫でられる小雪。


 だが、冒険者たちは思う。それは成長ではないだろうと……


「フェンリルだと聞いていましたが、あの子も強いのですね!」


「そ、そうですわね……昨日はアレに私たちのパーティーと『揺れる尻尾』に『ドラゴンテイル』が苦戦していたのですが……」


 小雪の活躍を素直に喜ぶアズリアはクロに撫でられている小雪の元へと向かい一緒に撫で笑みを浮かべ、エルタニアは昨日の失敗を悔やみながらも小雪の強さに驚愕する。


「クロ先輩! 魔道槌が抜けないので手伝って下さい!」


 アイアンアントの頭部ごとクレーターに突き刺さっている魔道槌の回収に苦戦していたルビーからのお願いに、クロが立ち上がりアイテムボックスへと収納すると料理を再開し、手伝っていた者たちも再度クロのまわりに集まり料理を手伝い始め、手の空いているルビーや冒険者たちはアイアンアントの解体に向かう。


「あ、あの、クロさまが使っていた武器はどのような物なのかしら?」


 『赤薔薇の騎士』で普段料理をしているリズと呼ばれる元メイドからの質問に、クロは現物をアイテムボックスから取り出し口を開く。


「これは殺虫剤と呼ばれる虫に効果がある毒ですね。前のイナゴ退治の時にはよく効きましたが今回は巨大だからあまり効果が出ませんでしたね。この棒を使うと安全な位置から噴霧出来て高い所の虫も退治できますよ」


「まるで通販番組の商品紹介ですね~」


 空から降り立ったアイリーンの言葉に確かにと思うクロだが、アイリーンのまわりには三十センチほどの妖精が頭にくっ付いていたり腕にぶら下がっていたり飛来しており、ツッコミ待ちかと思案する。


「妖精さんです! 妖精さんがいっぱいです!」


 初めて見る妖精たちに目を輝かせるアズリア。他の冒険者や兵士たちも妖精たちの登場に目を丸くし、なかには手を合わせて拝む者たちも出始めアイリーンに説明をしろと視線を送るクロ。


「妖精さんたちは私が保護しました! えへん!」


 小さな胸を反らせるアイリーンなのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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