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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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北の村へ向かったアイリーン



 ドランとキャロットが暴走する少し前、アイリーンは糸を使い北へと飛び出していた。


 鉱山のまわりにはキャロットさんとドランさんが行くだろうし、エルフェリーンさまもそちらに向かったら私の出番とかないですよね~北の町を警備している兵士さんたちに物資を届けたら適当に見回ってアリ探しを開始ですかね~


 空へと糸を放出し固定させゴムのように引っ張り戻る力を利用して空を行くアイリーン。目的の北の町が見え10名ほどの兵士たちが寛ぐ広場へと降り立つ。


「何者だ!」


 声を上げる兵士にビクリと体を震わせるアイリーン。他の兵士も寛ぎモードから素早く槍を構え臨戦態勢を取る。


「物資の補給です。それと大規模なアイアンアントの討伐が開始される報告もあります」

 

 そう口にしながら蝋封のされた書状をアイテムバッグから取り出すアイリーン。兵士たちはその言葉に胸を撫で下ろしながら書状を受け取り指揮官へ渡し、アイリーンは食料などの物資が入った木箱を足元へと並べてゆく。


「おっ! 酒樽まであるぞ!」


 近くにいた兵士が声を上げると一斉に集まり和やかな雰囲気へと変わる広場。


「では、お届けしたので私は失礼しますね~」


 笑みを浮かべ手を振り飛び去ろうとしたアイリーンに和やかだった兵士たちは敬礼で見送くろうとするのだが、大きな爆発音が響き再度警戒態勢へと変わる兵士たち。


「こ、鉱山が赤く輝いて……」


 いち早く異変に気が付いた兵士の言葉に視線を向ける一同。遠目に見えていた鉱山の色が変化しており、只事ではない雰囲気にガタガタと震える兵士や槍を構えたまま固まる兵士などアイアンアントがいつ襲って来るか解らない現状に恐怖する。


「ああ、今のはエルフェリーンさまの魔術ですね~アイアンアントには雷系の魔術が効果的だと言っていましたし、キャロットさんとドランさんも魔化してブレスを吐きまくっているようですよ……鉱山から離れたアリを討伐する予定だったのに、巣穴から追い出して狩るとか卑怯なことを考えますね……」


 目に魔力を集め視力を強化し現状を報告するアイリーン。


「英雄ドランさまや帝国潰しのエルフェリーンさまが参加して下さると書かれているが、予定では明日にだと……」


 兵士長が手にしていた書状に書かれていた内容を口にし、申し訳なくなるアイリーン。


「順を追って説明しますと、『草原の若葉』としてアイアンアントの討伐を受けまして、今日は巣穴から出ているアイアンアントの討伐をしようという流れから誰が一番多くアイアンアントを狩れるか勝負していまして、キャロットさんとドランさんにエルフェリーンさまが張り切って巣穴をモロに攻撃したみたいです……山が赤く見えるのはアイアンアントの甲殻が熱で溶けたのだと思います……ご迷惑を掛けてすみません」


 丁寧に頭を下げるアイリーンに兵士長は顔を引き攣らせていた。

 山全体が赤く輝くほどの数のアイアンアントをブレスで融解させる実力。敵に回せばその時点でこの村が、この国が、滅ぼされるだろうと……


「伝説の英雄方の凄さが理解できたよ……頼もしい限りだ……」


 兵士長の言葉に顔を上げるアイリーンは引き攣らせた頬に気が付き、話している事と表情の違いに罪悪感を覚えながら「私もアイアンアントの討伐に向かいますので失礼します」と口にし逃げるようにこの場を後にする。


「伝説の『草原の若葉』が来てくれたのはいいが、まさか山の形が変わるとは……」


「英雄ドランさまの雄姿を見てみたいと子供の頃に思いましたが……」


「これだけ離れていても震えが止まらない……」


 兵士たちは遠くに見える鉱山が形を変えてゆく姿に恐怖しながらも、アイアンアント討伐は今日中に終わるのだろうと期待するのであった。





「あっ、また岩肌が崩れた……これじゃアイアンアントの討伐じゃなくて鉱山の破壊ですね~私も討伐しないとですね!」


 北の村から離れながら鉱山の様子を窺うアイリーンは気持ちを切り替え木々の少ない森を眼下にアイアンアントを目視で探索する。北の町では採掘された鉄鉱石から鉄を取り出すために炉で熱しているのだが、その燃料に使われる特殊な木を育て伐採しており背の低い木々が多く森の割に見晴らしが良く、アイアンアントがいれば空からでも視認できるだろう。


「アイアンアント~アイアンアント~どこですか~」


 適当に口遊みながら場所を変えつつ眼下の森に視線を走らせる。すると、三匹のアイアンアントを木々の間から発見し急ぎ移動する。


「昨日討伐されたアイアンアントソルジャーを見ましたが、やっぱり関節部分が弱点ですかね~」


 アイアンアントの頭上へと移動したアイリーンは魔力で強化した糸を首目がけて飛ばし空間に固定する。


「やった! 上手くいきました!」


 強化された糸の強度は鉄ほどではないが糸というだけあって細く、首の関節に嵌った事に気が付かず前進するアイアンアントの頭部がゴトリと落ち数メートルそのまま歩き続け体が地面に倒れ込む。最後尾を歩いていた事もあり他の二匹は気が付かず足を進め、同じように残った二匹にも糸を放出し処理するアイリーン。


「関節を狙えば簡単に倒せますね~ん?」


 地上へ降り立ったアイリーンが討伐証明の牙を剥ぎ取ろうとした所で倒れている妖精がいる事に気が付き、近づき呼吸があるかを確認し胸を撫で下ろす。


「もしかしたらアイアンアントの頭が急に落ちて驚いたのかな? エクスヒール」


 特に目立った怪我などはないが回復魔法を唱え両手で優しく妖精の体を持ち上げ、辺りに仲間がいないか視線を走らせ声を上げる。


「妖精さんのお仲間はいませんか~いたら保護してあげて下さ~い」


 何度目かの呼び掛けに木々の葉が揺れ顔を出す妖精たち。ざっと三十人はいるだろうか、姿を現すとアイリーンの前でホバリングしながら口を開く。


「仲間を助けていただき感謝します」


 妖精たちのリーダーなのか第一声を口にして頭を深々と下げる妖精。それに続き他の妖精たちも頭を下げアイリーンは「いえいえ、こちらも驚かせたようで」と軽く頭を下げる。


「あ、あの、我々のような妖精を前にされても驚かれないのですね」


 妖精はあまり人前に姿を現すことがなく伝説的な生き物として扱われているのが一般的であり、錬金工房『草原の若葉』のように妖精が自由に屋敷へとやってきてクロに餌付けされているような事はまずないのである。


「うちのご近所にも妖精さんがいっぱい住んでいますからね~この前は蜂蜜から作ったお酒を貰いましたし、一緒にクッキーを焼いて食べる仲ですよ~」


 アイリーンの言葉に目をパチパチとさせ驚くリーダー。他の妖精たちもアイリーンに危険はないと感じたのかまわりを飛び回ったり、手で支えられている助けた妖精の肩を揺らしたりと警戒心が解け動き回っている。


「妖精からミードを受け取るほどの仲なのですか……」


「近くにいるキラービーやアラクネのアルーさんとも仲良くしていますね~蜂蜜はこちらから提供したものをお酒に加工してくれますよ」


「それは羨ましいですね……」


「羨ましい?」


「はい、この辺りではアイアンアントが現れキラービーなどが姿を消まして……多くの花もアイアンアントに踏み潰され……」


 目を閉じて悔しそうに話す妖精のリーダーに、アイリーンはにっこりと笑みを浮かべながら口を開く。


「それならうちに来ますか? 花はビスチェさんが育てていますし果樹園にも多く咲いていますよ~ルールさえ守ってくれるのなら、私がエルフェリーンさまに頼みます!」


 アイリーンの頼もしい言葉に妖精のリーダーは目を輝かせるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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