エルフェリーンの狩り勝負
「ん? アイアンアントが3匹にソルジャーも一匹いるけど、あっ! 千寿草!」
村を飛び去ったエルフェリーンは魔力感知を使いながら森を上から散策していた。魔力を感じながらフラフラと飛び寄り多くの魔力が集まる方へと進み、眼下にはアイアンアントと3匹と遅れて進むアイアンアントソルジャーを視界に捉えるが千寿草という珍しい薬草の魔力を感知して視線を向ける。
「えへへ、まさか木の洞に生えているとは驚きだよ~もしかしたらこの木が魔力を吸い上げているのかな?」
千寿草を回収したエルフェリーンはサンプルに洞に溜まった土とその木を調べ始める。木としてはよく有り触れたものなのだが洞に溜まった土からは濃い魔力を感じ一つの結論に至る。
「う~ん、この上を通った上位の魔物か神獣がフンをして洞に溜まり千寿草が生えたのかもしれないね。白亜や小雪にはまだ無理だけど、今度検証してみた方がいいかも……はっ! 狩り勝負だった!」
アイアンアントの狩り勝負をしていた事を思い出し、先ほどすれ違ったアイアンアントとアイアンアントソルジャーを思い出すが姿はなく見なかった事にして空へと舞い上がる。
鉱山に近づくにつれ木々の数は減り剥き出しの岩場に白い影を発見したエルフェリーンはニヤリと口角を上げ、空中で静止すると魔力を放出してソナーのように岩肌へ魔力を流す。
「へぇ~岩場は洞窟になっているねぇ~それにアイアンアントとソルジャーにクイーンもいる。これは新しくクイーンになった個体が巣立ち新たなコロニーをここに作っているねぇ~ここを潰せばクロから褒められてご褒美が貰える!」
天魔の杖を手に岩場に降り立つエルフェリーンは注意を払いながら穴へと足を向け、魔術で作った光球をまわりに浮かべると姿を現すアイアンアントの群れ。
「ご褒美が向こうからやってきた!」
エルフェリーンの脳内ではアイアンアント+アイアンアントソルジャー+アイアンアントクイーン×討伐=クロから褒められるという図式が成り立っており、天魔の杖を掲げ詠唱を省略し魔術を放つ。
「サンダーアロー×15」
エルフェリーンから放たれた雷を纏った魔法の矢が放たれ、固い甲殻に守られたアイアンアントを感電させ後ろに続くそれらも含み暗闇に浮かび上がる。
「やっぱり鉄を含むだけあって雷系の魔術が一番効率いいねぇ。マジックアローに付与すれば煩くないし狙いも付けやすい」
ニコニコとしながら焦げた香りのする洞窟を進むと金属音がぶつかり合う音が遠くに聞こえ、まだ多くのアイアンアントがいる事を確信したエルフェリーンは天魔の杖を掲げながら風を纏い素早く移動を始める。
「これは我の一番が確定なのじゃ」
洞窟内から響く見知った声に驚きと焦りが生まれ急ぎ向うが大きな音を立ててアイアンアントクイーンの頭部が落下し、口をあんぐりと開け立ち止まるエルフェリーン。
「ん? 一足遅かったのじゃな。このクイーンは我が討伐したのじゃ」
腰に手を当てドヤ顔を暗闇で浮かべるロザリア。その目を細めエルフェリーンのまわりで浮かぶ光球が眩しかったが、我慢しながらも恰好を付けたのだろう。
「ううう、僕が見つけた出来立てコロニーが……」
「うむ、まだ若いアイアンアントクイーンだったのじゃ。この様子では他にも若いコロニーがあるかもしれん……」
ハッと顔を上げ「それなら急がないとだね!」と口にするエルフェリーン。
「うむ、急いだ方が……揺れておるのじゃ……」
「地震? ここにいたら洞窟が崩れるかもしれないから早く出よう!」
小さな揺れと共に小石が落下し、エルフェリーンは素早く転移魔法を使いゲートを開きロザリアと共に洞窟を後にする。
「転移魔法は本当に便利なのじゃ。我も覚えたいが……自身はあれが原因なのじゃな……」
エルフェリーンが入った洞窟の入り口に転移し、周囲を警戒するロザリアが強い魔力を感じ視線を向けエルフェリーンも苦笑いを浮か口を開く。
「ドランとキャロットが鉱山を襲撃しているね……」
「今日は下見と探索に出ているアイアンアントを狩るのが目的だったのじゃが……」
糖目に見える本来の攻略目標である鉱山のまわりを魔化したドランとキャロットが飛び、炎のブレスを吐き続けている姿に二人は呆れた表情を浮かべる。
「キャロットがアイアンアントの狩り勝負に暴走してドランが助けに入ったのじゃろうが、山肌がアイアンアントの甲殻で赤く変色しておるのじゃ……どれほどのアイアンアントを高熱のブレスで溶かしておるのか……」
遠目に見える山肌はオレンジに輝き、アイアンアントの甲殻に含まれる鉄を溶かし赤く変色しているのだろう。
「ハッ!? これじゃ、あの二人が優勝しちゃうよ! 僕たちがクイーンを狩ってもあれだけのアイアンアントを狩った方が印象強くて負けちゃうよ!」
「確かに山肌をアイアンアントの溶けた甲殻で覆うのは印象が強いのじゃ……」
「でしょ! 僕はイチゴが乗ったケーキが食べたいんだ! 負けたくないから先に行くね!」
天魔の杖を掲げ空に躍り出るエルフェリーン。
「うむ、我もチーズケーキの為なら、もうひと頑張りするのじゃ!」
足に力を入れて地を滑るように走り出すロザリア。
魔力で強化した視界の先には巣穴から多くのアイアンアントが溢れ、なかにはアイアンアントソルジャーの姿もあり威嚇しているのかガチガチを大きな牙を鳴らすが、空から降り注ぐ高温のブレスを受けて叫び声を上げる間もなく赤く変色し、その身を地に這わせ動かなくなる。近くにいたアイアンアントも同じように赤く変色しこちらの方が熱への耐性が低いのか体の半分は融解し、鉱山のまわりは溶けたアイアンアントで赤く変わり高温へと化し地獄絵図であった。
「近くで見ると……これほどまでに凄まじい威力なのじゃな……」
熱気が伝わる場所まで近づいたロザリアは目の前の地獄に顔を引き攣らせる。
「これでお肉が食べ放題なのだ~」
魔化したキャロットが勝利の雄たけびを上げながらブレスで一掃するアイアンアントに同情の視線を送るロザリア。ドランもまた歓喜の声を上げながらブレスを吐き続けている。
「これで妻に自慢できるわい! ガハハハ、若い頃に戻った気さえするのう! どれ、火力を上げるぞ!」
ドランのブレスが出てきたばかりのアイアンアントソルジャーたちへ向かい直撃を受けてその身がドロリと融解し真っ赤な鉄への水溜まりへと姿を変える。
「ドラン殿もノリノリなのじゃが……これでは今日中にアイアンアントをすべて狩り終え……なっ!?」
驚きの声を上げるロザリアの視線の先には魔力を極限まで高め空に浮かぶエルフェリーンの姿があり、天高く掲げた天魔の杖から高威力の落雷が何本も降り注ぎ慌てて高度を取って逃げるドランとキャロット。
「山の形が変わったのじゃが……」
雷とは呼べぬほどの高威力の雷を纏った輝く柱が降り注ぎ、山の形が半分ほど崩落した現場を目にしたロザリアは警戒を忘れ、あんぐりと口を開けたまま固まるのであった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。