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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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キュアーゼとロザリア



 魔化し飛び立ったキュアーゼがコウモリの様な広げ目に魔力を収集し、木々の間を見つめてアイアンアントを探しながら北上する。


 キャロットやドランさまは西に飛び立ったし、ビスチェは南の町が気になるって言っていたから私は北にしたけど……


 キュアーゼはサキュバスの中でも素手での格闘に才覚を発揮し、母であり師であるカリフェルから一人前と認められたと自負していた。


「やっぱり私も西にすればよかったかも……」


 が、キュアーゼは自身の力の無さを嘆いていた。


「イナゴの時は後れを取ったけど……」


 約半年ほど前に起こったイナゴの大量発生の討伐では自身が思っていたほどの功績を上げることができなかったのである。『草原の若葉』やオーガにエルフの力を借りてイナゴの討伐に挑み死力を尽くして戦ったが、巨大イナゴの一匹はエルフェリーンやドランたちが打ち獲り、もう一匹の巨大イナゴはクロがほぼ打ち取ったのである。


「アリ退治……今度は上手くやらなきゃ……」


 木々の間から光が反射し目を凝らすキュアーゼ。


「見つけた!」


 一気に急降下して視界に入れたアイアンアントへ向かい勢いそのままに蹴りをお見舞いする。

 大きな衝撃音と共に大型バイクほどのサイズを誇るアイアンアントの頭が地面に沈み、キュアーゼのブーツの跡がくっきりと残った頭部のそれはビクビクと体を揺らし倒れ、もう一匹いたアイアンアントは両腕と体を起こして襲い掛かる態勢を取るがその場には姿はなく、首を左右に振り後頭部への衝撃を受け前のめりに倒れる。


「昨日も思ったけど鉄を纏っているせいか動きが遅いのよね」


 倒れながらも丈夫な甲殻を持つアイアンアントには先ほどの一撃のような威力はなく、体を起こそうとするが力が入らず手足をバタバタとさせ藻掻き苦しみ、その背の上に足を置き優越感に浸るキュアーゼ。


「動けないでしょ。これがサキュバスだけが使えるスキルエナジードレインよ。はぁ、私はなんでアリに対して説明しているのかしら……」


 バタバタとさせていた手足の動きが弱まると目から光が失われ息絶えるアイアンアント。鉄を摂取し甲殻に強度を得たアイアンアントだが自身の重さを支える為には多くのエネルギーが必要で、キュアーゼが使ったエナジードレインはそれを奪い取る。結果として動けなくなり最後の一滴まで搾り取られたアイアンアントはその短い生涯を終える。


「えっと、討伐証明には右の牙だったかしら?」


 競争と言うこともあり討伐証明を持ち帰る為、慣れないナイフを取り出しアイアンアントの鋭い牙を剥ぎ取ろうとするがナイフが上手く入らず苦戦する。


「う~ん、これならクロを連れてくれば良かった……もう、力任せでいいや」


 そう口にすると魔力を両腕に集め力任せにアイアンアントの鋭い牙をゴギリと武骨な音を立ててむしり取る。アイアンアントソルジャーほど立派ではないかショートソードほどはある牙を力任せに捻じり切る腕力はカリフェルに次ぐ力の持ち主だといえよう。


「ふぅ……素材としては最悪でも一匹は一匹よね……」


 手にしたアイアンアントの牙にはキュアーゼの手の形に凹み牙だとは思えないほど変形しているがそれをアイテムバックに入れ、頭部が埋まったアイアンアントへと視線を移し両手で地面に埋まり凹んだ頭部を持ち引っこ抜くと同じ作業を繰り返して討伐証明の牙を回収する。


「一位には何匹狩ればいいかしら……優勝しなくてもクロにお願いすればケーキの一つや二つ食べさせてくれるだろうけど……勝ちたいわね。待っているシャロンにも活躍した事を自慢したいしぃ~」


 そう独り言を呟くキュアーゼは空高く舞い上がり新たな獲物を探し目に魔力を集めるのだった。







「うむ、キャロットの後を追わなかったのは正解だったのじゃ」


 ロザリアの視線の先にはぽっかりと口を開けた洞窟があり、そこから数匹のアイアンアントが出入りしている事を確認し笑みを浮かべる。


「クロにはブランデーに合うケーキを所望するのじゃ」


 そう口にしてレイピアを抜き一気に速度を上げ見張りだろう一匹のアイアンアントの首を刎ねる。一閃されたアイアンアントの首がゴトリと落ち、甲殻にはレーザーでカットされたかのような綺麗な断面が浮かび上がっている。


「ルビーに新調してもらって正解だったのじゃ」


 本来レイピアとは突きを主体とする武器で今のように横一線に薙ぎ払うものではない。刀身が細く曲がるか折れるのが関の山だろう。だが、それを可能とするのはロザリアの剣の技能と、魔力の高さに、ミスリルと大ムカデの牙を使った合金で作られたレイピアという特殊な武具が揃っての事だろう。

 ミスリルは魔力伝導が高く身体強化の延長である武具強化を纏わせ素早く振り抜いた一閃は、文字通りロザリアの魔力で輝きを放って首を刈り取る。


「下へと続いておるが……ここを進めば鉱山に通じておるのじゃろう……」


 明かりのない洞窟を見つめたロザリアは躊躇いなく足を進め、中から聞こえる金属音に口角を上げる。


 鉄を食べたアイアンアントが歩けばどうしても関節付近がぶつかりカチカチと音を鳴らすが、むふふ、少なくとも五匹はおるじゃろう。


 耳障りな音が響く洞窟内を散歩するように歩けるのはロザリアがヴァンパイヤとう夜目に特化した種族であり、普通の冒険者なら松明や光球を浮かせる必要がある。しかも、暗視ゴーグルのような視界ではなく昼間と同じように見えるロザリアにとって洞窟内はアイアンアント自身が出す音により足音が聞き取りづらく奇襲にはもってこいであった。


 うむうむ、予想した通りに五匹がこちらに向かって来るのじゃ。


 レイピアを手に足に力を入れ洞窟内を滑るように走り出すロザリア。すれ違い様に魔力の光が走りゴトリと頭部を落とすアイアンアント。続けざまにレイピアを走らせ駆け抜け無駄のない動きで瞬殺し、洞窟内の開けた場所で足を止める。


 アイアンアントが巣くっておる鉱山へはまだ距離があるが……思っていたよりも多くおるのじゃな……


 洞窟内の広場には横穴が多くそこから数匹のアイアンアントが顔を出しロザリアを視認すると一斉に動き出す。


「ここは鉱山の蟻たちの分家なのかもしれぬのじゃ……」


 ロザリア目がけ穴から現れるアイアンアントを曲芸でもしているかのように避けながら首を刎ねて行く。その度に暗闇に浮かび上がる一本の光の筋。


 足場に注意しながらも十数匹ほど倒したロザリアは地面の異変に気が付き大きく後退すると、先ほどまで立っていた地面から大きく鋭い二本の牙が現れ、瞬時に閉じてギィーンと鉄同士がぶつかり合う音を立てる。


「ソルジャーのお出ましなのじゃ」


 二本の牙がゆっくりと現れその大きな体躯が姿を現し、ゴトリと頭部を落下する。


「出てくるまで待ってやる義理はないのじゃ」


 まだ体半分ほど地面に残していたが登場まで待ってやる義理はないだろうと一閃され、頭部が落ちたアイアンアントソルジャーを横目で視認し、奥に続く洞窟へ足を進めるロザリア。


「ソルジャーよりも一回りは大きいのじゃ……」


 そこには複数のアイアンアントとまだ若いアイアンアントクイーンの姿があり、その大きさに思わず驚きの声を上げる。


「これは我の一番が確定なのじゃ」


 驚きながらもブランデーの瓶が脳裏にちらつくロザリアはレイピアを構えながら魔力を高め、次の瞬間にはアイアンアントの硬い体を黒い影が走り貫き、それに驚く若いアイアンアントクイーンだったが魔力で輝く一閃が走り、他のアイアンアント同様にその首が狩られるのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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