過去の討伐と若かれしカリフェル
「ほう、エニシの面影があるのう……エニシよりも優しく良い子に育つんじゃぞ」
そう口にしながらエルタニアの拘束から解かれたツバキの頭を撫でるドラン。ツバキは戦士職であるエルタニアの剛腕から力の限り抜け出し肩で息をしていたがドランに撫でられ放心状態へと変わり、エルタニアは深く一礼をして敬意を示す。
「カヌカ王国の英雄であるドランさまをこんなにも近くで拝見できるなんて、幸せですわ」
「ああ、そう畏まらないでおくれ。英雄などと呼ばれるのはむず痒い。我は『草原の若葉』の一員としてアイアンアントの討伐に参加しただけだしのう。あのように多くの銅像を建てられておるとは知らんかったし、わしの許可を求めたのなら拒否しておったからのう」
右手でツバキを撫で左手で自身の頬を掻きながら口にした言葉にエルフェリーンが笑い出し、ロザリアやビスチェも肩を揺らす。
「お城にも爺ちゃんの絵がいっぱいあったのだ!」
「キュウキュウ~」
「うむ、エニシの絵も飾られておったぞ。我がカヌカ王へ進言すればお主も城の中にある絵を見る事もできるじゃろう。アイアンアントの討伐が片付いたら一緒に見に行くのはどうかの?」
「よ、宜しいのですか?」
「うむうむ、当時のエニシに似た絵もあればまったく似ておらん物もあってアレじゃが、楽しめるじゃろうて」
ニッカリと笑顔を作るドランに頭を下げてお礼を言うツバキ。その尻尾はブンブンと振れ喜びを表している。
「あ、あの、お婆ちゃん、エニシさまはどのような方でしたか? 私の知るエニシさまは凄く優しくて、強くて、魔力が底なしで、嘘をついてもすぐにバレて、温かくて……いっぱいいっぱい元気をくれました! エニシさまが『草原の若葉』ではどうでしたか?」
話しながら祖母であるエニシを思い出していたのか薄っすら涙を溜めドランやエルフェリーンへ視線を向けるツバキ。
「うむ、エニシは良くも悪くも一直線じゃったのう……優しくもあり厳しくもあったのう。酒の飲み方に厳しく、わしとケイランがいつも怒られていたのう……」
「そうだね~僕が飲み過ぎると必ず怒ってくれたし、炎を使った魔術の腕は僕の次にすごかったぜ~ああ、でも、青い炎を使って見せてくれた魔術は綺麗だったなぁ。夜空を青く染めるほどの火力で山が二つ灰になったけど……」
「私も会った事があるけどすごく優しい人だったわね。話していると心がポカポカするような感じかしら……それに光の精霊が嬉しそうに寄り添っていたわ」
ドランとエルフェリーンにビスチェからの三者三様の言葉に百面相をするツバキ。
「以前のアイアンアント討伐はどのように攻略なさったのですか?」
エルタニアの質問に近くで話を耳にしている冒険者や兵士たちも聞き耳を立てる。
「うむ、あの時は外に誘き出した多くのアイアンアントをわしとケイランで潰してまわったのう」
「最初に鉱山の穴に向かってエニシの大魔法を打ってからだね~生き残ったソルジャーアントやアイアンアントがわらわら出てきたのをドランとケイランが力任せに潰して、ラフルとサンショクが無駄のない動きでアイアンアントの首を刎ねたね~僕は土の精霊にお願いして転ばせたり敵の位置を把握したり頑張ったぜ~」
「うむ、爺さまならそのぐらいしてそうなのじゃ」
エルフェリーンの言葉にドヤ顔を浮かべるロザリア。自身の祖父の活躍が嬉しいのだろう。
「お母さまはアリ退治には参加しなかったのかしら?」
キュアーゼの疑問にエルフェリーンが口を開く。
「カリフェルはその後に仲間になったぜ~アイアンアントの甲殻の運搬と護衛を任されたからね~そこでラルフに一目惚れしたカリフェルと出会ったんだよ~あの頃のカリフェルは家出同然で追いかけて来てね~今とは大違いかな~」
キュアーゼの母親であるカリフェルの行動に口をあんぐりと開けて固まるキュアーゼ。
「ひとつ間違えば我とキュアーゼが姉妹じゃったのか……聞いて見ないと解らんことがあるのじゃな……」
ロザリアも衝撃の事実を知って頬を引きつらせる。
「ああああ、あの、そろそろ作戦を開始したいのですが、大丈夫でしょうか?」
朝食を済ませたエルフェリーンたちの元へやって来た兵士。作戦の指揮を執る軍部の者たちから指令を受け伝説と化しているエルフェリーンやドランに直接言葉を掛け緊張しているのか、あを連呼しながら話し、椅子から降りて笑顔を浮かべながら「ごめんごめん、すぐに開始しようか」と優しく言葉を返すエルフェリーン。
「今日は探索に出ているアリ退治と鉱山の下見じゃったかのう」
「はい、アイアンアントの行動範囲は調査済みですが、毎日五十匹ほどが巣から離れ探索し魔物などを捕食しております。ここ最近ではこの辺りに多く生息している狼や猪といった魔物が少なく家畜などにも手を出しており、出来る限り討伐して鉱山攻略の足掛かりにできればと」
「うんうん、それがいいね~アイアンアントは女王を潰しても脅威だからね~完璧に全滅させないとね~」
「そうなるとわしとキャロットは別行動で、」
「競争なのだ!」
ドランの言葉を遮って声を上げるキャロットに多くの兵士や冒険者たちが顔を引き攣らせる。アイアンアントは強固な甲殻に守られ鋭い爪や牙を持ち、並の冒険者ならパーティー単位で一匹を相手にするのである。それを競争して討伐すると高々に宣言したキャロットに冒険者や兵士たちが頬を引きつらせるのは仕方のない事だろう。
「うむ、我も参加するのじゃ」
「私もやるわね! 一番多く討伐したらクロに特別なデザートでも用意してもらえるのはどうかしら?」
アイリーンと共に片づけをしていたクロへ視線を送るビスチェ。
「僕はケーキが食べたいなぁ~イチゴの乗ったケーキが大好きだぜ~」
「わしは酒の方が嬉しいが、前に食べた大福や最中は美味かったのう」
「私はフルーツがたくさん乗ったやつがいいわね。前にお城で食べたけど、控えめに言って最高だったわ」
「チーズケーキを所望するのじゃ!」
「キュウキュウ~」
「白亜さまもケーキが良いと言っているのだ!」
「私もチーズケーキか迷うけど、パンケーキにするわ! たっぷりの蜂蜜とアイスを乗せてもらうの!」
勝手に盛り上がるエルフェリーンたちの言葉にどんな料理か理解できてはいないが、単語として出てきた蜂蜜という単語に甘い料理なのだろうと想像するツバキとエルタニア。
「あんなこと言ってますけど、私はロールケーキが食べたいです。フルーツたっぷりでお願いしますね」
使った木皿に浄化魔法を掛けながらクロへ向け両手を合わせるアイリーン。
「アイリーンも参加するだろうとは思っていたけど、毎回俺が優勝賞品を提供するのはどうなんだ?」
「それはクロ先輩が便利すぎるからでは?」
首を傾げながら答えるアイリーン。
「便利って言うなよ……」
浄化し綺麗になった木皿をアイテムボックスに収納するクロ。
「主さま、自分も参加したく思います。主さまの名誉にかけ、ヴァルが必ず優勝して見せます!」
テーブルの上で拳を上げやる気を見せる三等身のゆるキャラに「無理はするなよ」と声を掛けるクロなのであった。
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