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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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炊き出しと聖女じゃないですからね!



「うまっ! これ美味いぞ!」


 日も落ちた広場ではケイシー子爵領から提供される炊き出しと、クロが作る炊き出しが振舞われていた。


「色が不気味に見えたがスパイスを多く使っているのか味が複雑で癖になる」


「少しだけ辛いのもいいですわね。体が温まりますわ」


「煮込まれている肉も結構いい肉使っているっすね。筋っぽさがないし柔らかいっす」


 奇跡の体験をした冒険者たちは以前ライバル視しておりあまり仲が良くなかったが、互いに生還を祝い全快を喜び合った事もあり一時間もしないうちに打ち解け、クロが作る炊き出しのカレーを口にしている。他にも兵士たちがカレーをパンに付けて食べ始めてカレーの味に歓声を上げている。


「さっき、冒険者と絡まれてたが大丈夫なのか?」


 カレーの列に並んでいた冒険者に話し掛けられ大きな声で否定していたアイリーンを思い出し、その話題に振れるクロ。


「二組の冒険者からスカウトされたんですけど、さっき断ったのにまた誘われたので、絶対に無理です! って、声を荒げちゃいました~私は冒険者ではなく狩人剣士ですからね~」


 クロが料理する炊き出しの列を整理していたアイリーンに声を掛けたのはドラゴンテイルのリーダーで、治療後と先ほど声を掛けられ仲間になるよう言い寄られたのである。しかも、その際に「あの黒髪がどんな冒険者か知らないが、どうせ後方支援ぐらいしかできないだろ? なら絶対に俺たち一緒の方が、」と言い寄られ半ギレ気味に「絶対に無理です!」と声を荒げたのである。


「狩人剣士とか初めて聞いたが、アイリーンにピッタリだな」


 そう笑って答えるクロ。アイリーンも小さな胸を張りながら笑みを浮かべ「ですよね!」と機嫌よく返す。


「うふふ、アイリーンさまはモテるのですねぇ。私は不思議と声を掛けられることはなく、ジロジロと珍しい物を見るように見られますねぇ」


 顎に手を当て話すメリリ。ジロジロとはその大きな胸の事だろうと思うクロと、顔を引き攣らせるアイリーン。


「男たちの視線は嫌らしくて私も嫌いだわ。でも、クロの作るカレーは好きよ」


「クロのカレーは美味しいのだ!」


「キュウキュウ~」


 炊き出しで出しているカレーのおかわりにやって来たキュアーゼとキャロットに白亜。キュアーゼとキャロットもメリリと並び大きな胸の持ち主でそういった視線を嫌悪するのは仕方のない事だろう。


「本当はライスで出したかったが王さまから箱単位でパンを支給されたし、この人数分のライスを用意するのは難しいからな」


「あら、私はパンの方が美味しく感じたわよ。今日のカレーは水っぽい感じがして固いパンによく合うわ」


 カヌカ王国のパンは全粒粉のバゲット風の硬いパンで、それに合わせカレーもスープカレーに似せた作りになっている。


「あの、我々もそちらの料理を頂いても……」


 声を掛けてきたのはカヌカ王国の炊事兵の者たちでカレーの香りに興味を持ち列が途切れるまで様子を見ていたのだろう。


「まだまだありますので、宜しければどうぞ」


「これはご丁寧にありがとうございます」


 木皿に盛られたスープカレーを受け取った男たちは自分たちの炊き出し場に戻り、仲間と一緒に口に入れ表情を溶かす。彼らは串肉に味噌をつけ焼いており香ばしい匂いに釣られて多くの者たちが並ぶがリピーターはあまりいないのか暇をしていたのだろう。


「あっちの肉も美味しかったのだ!」


「ええ、味はそれほど悪くなかったけど、見た目がアレなのよね」


「真っ黒だったのだ!」


 キュアーゼとキャロットもそちらの炊き出しを口にしたのか感想を述べ、「味噌は焦げやすいからな」と呟きながらカレーを撹拌する。


「す、すみません。先ほどは回復魔法をありがとうございました……」


 カレーが焦げない様に撹拌するクロが視線を向けるとアイリーンがお礼を言われているのかペコペコと頭を下げる女性。その横には上半身をさらけ出している大柄の男がおり一緒になって頭を下げている。


「左腕を失ったから冒険者は引退かと思っていたが……助かった……礼は要らないと言われたが感謝の気持ちだけは受け取ってくれ……」


「えっと、それはいいですけど……」


「聖女さまがいなければ私たちは引退して、」


「ちょっと、待とうか!」


 お礼を口にしていた女性の言葉を遮るアイリーン。


「私は聖女じゃないですからね! いいですか! 聖女はもっと威厳があって、可愛くて、知的で、守ってあげたくなるような女性です! 私は聖女ではなく狩人戦士! もしくは侍ガールです! ですから、聖女とか呼ぶ人は今後二度と回復魔法を使いませんからその心算でいて下さいねっ!」


 聖女さまと口にした女性へ声を強めるアイリーン。

 その声は広場にいる者たちにも確りと伝わったのか静まり返り、アイリーンは女性と付いて来ていたゴツイ男に何度も謝罪されムッとしながらも「次からは聖女さまと呼ばないで下さいね!」と口にしてクロの後ろへと隠れるようにその場を去り、二人はクロへ頭を下げ自分たちの仲間であるドラゴンテイルの元へ去る。


「あんなに強く言わなくてもいいだろうに……」


 クロの後ろに隠れるアイリーンへと小声で話し掛けるクロ。


「いえ、こういう事はちゃんと否定しておかないと私が元聖女の愛理だとバレますからね~お礼を言いに来てくれた二人には悪いのですが利用させていただきました」


「エクスヒールの使い手なんて教会を探しても少ないだろうからな~それを限定的なエリアで使用できる術者は、それこそ聖女だろうに……」


「えへへ~褒めても糸しか出ませんからね~」


 クロの背中に隠れている事もあり表情は読めないが、ご機嫌であることは間違いないだろう。


「クロ~会議が終わったから僕にカレーをおくれよ~お腹ペコペコだぜ~」


「まったくなのじゃ……時間ばかり使う会議はこれだから嫌いなのじゃ」


「ワシも腹が減ったわい……先ほどからカレーの香りに胃が煩くてかなわん」


 エルフェリーンとロザリアにドランが戻り、その後ろにはこの度のアイアンアント討伐の指揮を執る兵士や貴族たちが付いてきており、クロは急ぎカレーを盛りつけメリリはバゲットを炭火で軽く温める。


「うんうん、今日はスープカレーだね! パンでも美味しいから僕はカレーが大好きだよ~」


「うむ、我もカレーは好物なのじゃ。ライスがないのが残念じゃが、これはこれで美味しいのじゃ!」


「カレーは美味いが酒には合わんのが……あちらの肉も取ってくるかの」


 領主が提供する炊き出しへ向かうドランにロザリアも続き、エルフェリーンの後ろに並んでいた者たちへカレーを提供するメリリ。


「見たことのない料理だが、香りが素晴らしいですな」


「会議の途中からこの匂いが気になって仕方がなかったです」


「スープのようだがパンを付けて食べるのだな」


「うふふ、こちらはカレーと呼ばれる料理で温めたパンをつけてお召し上がり下さい」


 メリリの営業スマイルに鼻の下を伸ばす男たち。女性はその大きな胸に鋭い視線を向けながらも本物だと気が付き、顔を引き攣らせながら受け取りそそくさと去って行く。


「あの~おかわりをしてもかまわないかしら?」


 空の器を持ち現われたのは金髪縦ロールを靡かせる赤薔薇の騎士のリーダーであるエルタニア。


「はい、まだまだありますので大丈夫ですよ」


「うふふ、パンのおかわりもありますが、如何ですか?」


 大鍋にはまだスープカレーが半分ほど残っており、このやり取りを耳にした冒険者や兵士が一斉に立ち上がり空の器を持ち走り出す。


「私はスープだけで大丈夫ですわ。それよりも、訪ねたい事があるのですか?」


「ん? カレーの作り方ですか?」


「それも気になりますが、あなたがクロ先輩なのでしょうか?」


 エルタニアからの出たクロ先輩というワードに後ろを振り返り呑気にカレーを食べているアイリーンへと視線を飛ばすが気が付くことはなく、視線をエルタニアへと戻したクロは長い列を作る冒険者と兵士たちに驚くのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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