リンセンの町へ
会議は二時間ほどで終わりドランとキャロットが魔化してリンセンと呼ばれる村へエルフェリーンを送り、転移魔法で城で待機する兵士たちを連れてくることと、アイリーンとクロが同行して治療と物資搬入をする事と決まった。アイリーンは回復魔法の最高峰であるエクスヒールが使え、クロは無限に近い収納量でありながら時間停止するアイテムボックスを使い食料や武器に医薬品を届ける任務を受けたのだ。
「ふわぁ~昼寝もしたし、いっぱい戦うのだ!」
「キャロットさんには首輪をつけた方が良さそうですね……」
「かっこいい首輪が良いのだ!」
呆れ気味に話すアイリーンの言葉を好意的に受け取るキャロット。横ではドランが苦笑いを浮かべ、クロは耳に入れながらも兵士たちからリンセンの町に届ける物資をアイテムボックスへと収納している。
「アリと戦うのはみんなが揃ってからだぜ~キャロットにもしもの事があったらキャロライナが悲しむからね~」
「うっ、婆さまに怒られるのは嫌なのだ……」
キャロットが一番尊敬し一番怒られたくない祖母を例に出して注意するエルフェリーン。
「我らが魔化すればドラゴン並みの鱗を持つがアイアンアントの牙なら貫通する。注意しなければならん」
「わかったのだ! 注意するのだ!」
元気に返事をするキャロット。それを見て不安が残るカヌカ王国の兵士や軍務の者たち。
「うふふ、キャロットさまが活躍するのはとてもいい事だと思いますが、我々が戦う分も残し頂かなければ困ります」
「そうよ! 私だってアイアンアントは楽勝だし、メリリは体を動かさないとまたダイエット期間に入って揚げ物禁止になるわ!」
「揚げ物禁止は嫌なのだ……」
「うむ、揚げ物禁止は我じゃの……じゃが、クロはメリリだけ除け者にするような料理を作らんから……」
「絶対に先に戦いに行かないのだ……」
「キュウキュウ~」
「白亜さまの為にもメリリを痩せさせるのだ!」
会話が脱線しメリリのダイエットの話になり肩を揺らす国王と王妃に軍務の者たち。メリリは顔を赤くしながらも内心では変装中だから気が付かれていないと自分に言い聞かす。
「これで全部ですね」
「はっ、最後にこの文を届けて頂ければ大丈夫かと思います」
すべての荷物をアイテムボックスに入れ兵士たちからは驚きの声が上がり、クロはエルフェリーンへと視線を向ける。
「それなら早く向かおうか。あっちに付いたらすぐに転移魔法を使うからね~」
「宜しくお願い致します」
深々と頭を下げる国王とミスリル兄弟にカヌカの兵士たち。
「雨が降っておるのう」
「行ってくるのだ!」
場所に中庭に変え魔化した二人の姿に地鳴りのような歓声が上がり国王であるケケルジールは涙を浮かべながらその勇姿を見つめ、クロがエルフェリーンとアイリーンにコンテナ状の雨風を除けるシールドを展開してドランが両手で持つと空に舞い上がり、キャロットも同様のシールドを展開したクロを両手で持つとドランの後を追う。
上昇するにつれ攻略目標の鉱山がはっきりと見え、その大きさに思わず感嘆の声を上げるクロ。
「中々の大きさの鉱山だな。それに農地もあるが木々が多い……ここを開拓した村の人は大変だっただろうな……」
飛び立った城からは背の低い木がちらほらある程度だったが、進むにつれ森は険しくなり背の高い木々が多くこの地を開拓した村人たちの苦労を自然に思い浮かべるクロ。
事実、このミスリル領と呼ばれる地は冒険者だった者が鉱山を発見し国に報告して貴族へと成り上がり、多くの冒険者と開拓民を募集し領民として村の開拓を一から始めたのだ。深い森に囲まれている事もあり開拓は苦労の連続で、多くの魔物、太く逞しい木々、重労働の連続に心が折られることも多かったがリンセンと呼ばれる村が完成するまで二十年の月日を要したのである。
そこからは鉱山への道と鉱山内を整備し、近隣にはその鉱石を運ぶために新たな村も作られミスリル領は大きな発展を遂げたのである。
そんなリンセンの村が視界に入り真直ぐに鉱山へ伸びる道に晴れ間が差し、クロは感嘆の声を上げる。
「おお、凄いな……虹も掛かって綺麗な……」
「町に降りるのだ!」
キャロットが一声かけフリーホールのような急降下で無重力を結界内で体験するクロ。急なドラゴンの登場に多く集まり武器を構える兵士や冒険者たちは震えながらも立ちはだかり、先に着地したドランが声を上げる。
「我はカヌカ王よりアイアンアント討伐を任されたドランである!」
魔化した状態での叫びは兵士や冒険者たちを竦ませたが、一瞬遅れて一人の冒険者が「ドランさま! 英雄ドランさま!」と叫びを上げ、その声は波となり一気に歓声へと変わり休んでいた兵士や冒険者も集まり、着地した広場はライブ会場のような盛り上がりへと変わる。
「何だか血生臭いのだ……」
魔化を解いたキャロットの第一声にクロは一人バックブリーカー状態だったがシールドを解いて立ち上がり、ドランに抱えられていたエルフェリーンとアイリーンも地上へと下ろされシールドを解除する。
「怪我した方が大勢いるようですね~私がちゃっちゃっと治療してきますね~」
スキップしながら近くの冒険者に怪我人がいる場所を聞きこの場を離れるアイリーン。
「アイリーンは良い子だね~昔に聖女をやっていたこともあってか行動が早いよ」
「自分も予定通りに炊き出しを始めますね」
「うんうん、任せたよ~僕は転移の門を作るからドランとキャロットはみんなに離れるよう伝えてくれ。いっぱいくるからね~」
「お任せ下さい! 者ども、これからエルフェリーンさまが転移の門を開く! 多くの兵士がこちらへ来るので場所を開けよ!」
魔化を解いたドランの声に集まっていた兵士や冒険者は一瞬意味が分からないといった表情を浮かべるがこの場を治めているだろう兵士の男が「ゆっくり下がれ!」と声を上げそれに従い広場空間が広がり、エルフェリーンは杖を掲げる。
「石畳だとペグが打ち込めないから、これでいいか」
そう口にしながらアイテムボックスから運動会などで多く見られるテントを出し、風で飛ばないよう重みのある鉄の塊や重量感のある酒樽などで支柱を縛り固定するクロ。
「キャロットも手伝ってくれ。間違っても様子を見に行こうとか思うなよ」
「わかったのだ!」
元気な返事をするキャロットも不器用ながらクロの作業を手伝い長テーブルや椅子に紙皿などを用意し、クロは予め用意していた簡易的な竈を二台置き近くの兵士に声を掛ける。
「あの、これを偉い人にお願いします。それとケイシー子爵からは許可を取っているのですが、簡単な料理を振舞いたいのですが大丈夫でしょうか?」
「ん? ああ、炊き出しなら大歓迎だ! ん? んんっ!? おい! この蝋封は!?」
クロが渡したのはカヌカ王国の紋章が浮かぶ蠟封でありカヌカ王家からの文である。
「ええ、国王さまから頼まれた物で、お願いできますか?」
「はっ! 大至急届けて参ります!」
敬礼付きで返事を貰い駆けだす兵士。クロはそれを見送ると先日アイリーンが罰として大量の玉ねぎをカットした袋を開け大鍋に入れ湯を沸かし、あらかじめ用意していた脂身のある肉やキノコなどを入れて煮込み始めるのだった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。