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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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作戦会議の始まりと現場の冒険者たち



 食事を終えた一行は隣の会議室に向かい敬礼を受けながら入室する。巨大なテーブルには大きな地図が広げられアイアンアントの巣である鉱山と近隣の村に印が刻まれ、この国の兵士たち配置などがどれだけ配置に付いているかが一目でわかる。


「現状の報告を頼む」


 国王の言葉に敬礼していた軍服の男が口を開く。


「アイアンアントは三匹で行動し村の家畜や近隣の魔物などを捕食しております。特に中央のリンセンの村の家畜が襲われており村人は全て避難させました。残る二つの村も避難させている途中であります」


「うむ、それが良かろう」


「それと、冒険者ギルドからの報告ではアイアンアントが巣から出てくる数が増えているそうで腕利きの冒険者を派遣し少しでも個体数を減らすべく討伐していますが、討伐数は百にも満たない現状です」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら話す男はこの国の軍部のトップである。


「それは問題ない。ドランさま方がアイアンアントの討伐を引き受けて下さったからな。それに武具の女神フランベルジュさまも同行して下さるとのことだ。お前はケイシーと共に復興の準備をしておくがいい」


「はっ!」


 深く頭を下げる軍部のトップ。

 この男の名はシュナイダー・ブラック・ミスリル。鉱山を所有していたケイシーの兄で、この度のアイアンアント討伐に向いち早く行動を起こしたが王命で連れ戻され渋々指揮を執っている変わり者である。


「戦う事は我らに任せるがいい。エルフェリーンさまも御一緒されるしの」


「うんうん、僕らは虫退治が得意だからね~」


「うむ、爺さまがいたら真っ先に戦いたがるじゃろうが、アイリーンやキュアーゼが一緒なら大船に乗った心算で待つといいのじゃ」


 ドランとエルフェリーンにロザリアからの発言にその場で敬礼をするシュナイダー。


「感謝いたします!」


 部屋に響く言葉を受け本格的な作戦会議が始まるのであった。








「おい、見ろよ……」


「ありゃソルジャーアントだよな……」


「あんなに大きくなるなんて……」


 冒険者たちは唖然としながら体を小刻みに揺らす。彼らは冒険者パーティードラゴンテイル。ドラゴンの尻尾を追い、いずれはドラゴンをも超える事を目標とし名付けられた四名のCランクの冒険者である。


「通常のアイアンアントの倍以上の大きさにあの顎だ……」


「俺の大楯でも簡単に真っ二つにされそうだな……」


「それにあの前足の爪はサーベルにしか見えない……」


「弓が刺さるのは関節ぐらいか?」


「当たればな……一度引き上げよう。俺たちの任務は討伐だがアレを相手にするのは軍の仕事。偵察も立派なお仕事だからな」


 四名の男女が頷き合い偵察していた木々の間から姿を消し東映拠点として使っている村へと走る。アイアンアントが確認され家畜の被害が出てからは村人の避難を最優先にし、防衛拠点として三つの村には軍が派遣され二度ほど軍が出向きアイアンアントの討伐が行われたが多大な被害を出しただけで逃げ帰る始末である。


 アイアンアントは固すぎるのだ。


 アイアンアントは元から硬い外殻に覆われているが、この鉱山の鉄と地脈から湧き出るマナを栄養とし更なる力を得て、外殻は鉄を超える合金へと変化している。軍が使用する鋼鉄製の剣すらも弾き、矢などは全く通用しない防御力を誇っている。


 軍の中には魔導士もおり炎を使い数匹の討伐に成功するが、アイアンアントの数も多く一気に軍隊は押しつぶされ数百名の命が一瞬にして奪われ敗走したのである。


「追ってはなさそうだが……」


 後ろを振り返り様子を確認するリーダーの男。


「この街道のお陰でカヌカ王国が発展したが、ん?」


 鉱山と村を繋ぐ街道に違和感を覚えた弓使いの女が足を止め、それに気が付いた他の者たちも足を止める。


「どうした?」


「なあ、来たときはこんなに地面が柔らかかったか?」


 違和感の正体は畑のように柔らかな土へと変わった街道であった。歩けば数センチ足が沈み下手したら足を取られ転倒する可能性もあるだろう。


「柔らかいな……」


「嫌な予感がする。すぐに木に登れ!」


「きゃっ!?」


 リーダーの男の発言に急ぎ街道脇に丈夫な木に向かうが魔導士の女が土に足を取られ小さな悲鳴を上げ、慌てて大楯の男がフォローに入る。


「うおっ!!!」


 それは一瞬の出来事だった。柔らかな土から二本のサーベルが生え左右から閉じるように迫り、大楯の男は左手で盾を構え右手で手を貸していた魔導士の女を自身の後ろへと投げ飛ばす。


「きゃっ!?」


 二度の悲鳴を上げた魔導士の女の視界に映ったのは巨大なアイアンアントソルジャーと上下に別れた大楯。そして、片腕を失った男。


「ふざけんなっ!」


 リーダーの男が登っていた木から手を放しながら蹴りを入れ勢いをつけソルジャーアントへと体当たりをし、木を登り終えた弓使いはすぐに牽制の矢を放つ。悲鳴を上げた魔導士はすぐに詠唱に入り、態勢を整えたリーダーの男は片腕を失った大楯の男の後ろ襟を掴みながら木々の間に入り、弓使いが上から投げたロープを素早く結ぶと爆音が響き渡る。


「やったか!」


「それよりも早く上へ、他にもいるかもしれないよ!」


 リーダーの男は大楯の男を背に乗せ太い幹を登り上からロープを引く弓使い。その下には詠唱をしながらいつでも魔術が行使できるよう備える魔術士の女が控え、上がったことを確認すると自身も急ぎ上へと向かう。


「止血、ポーション、痛み止め」


 これ以上血を失わないようロープで縛り傷口にポーションをかけ、顔を歪める大楯の男に痛み止めを飲ませるリーダー。


「私のせいだ……」


 小さく呟く魔導士の女。弓使いは下で転がるソルジャーアントの足が動いた事に気が付き人差し指を立て、リーダーの男は止血を終え現状を打開するべく頭を回転させる。


 村までは五キロほどだが、あのアリ以外がいれば全力疾走でも追いつかれるか……それに街道が柔らかいのも走るには悪条件過ぎる……今のうちに転がっているアリに止めを刺した方が良いかもしれないが……


 魔導士の魔術を受けメタリックな頭部が黒く焦げうつ伏せに倒れているソルジャーアントに視線を向けるリーダー。


「止めを刺そうとか思っているのならやめておきな」


 弓使いはそう小さく口にすると自身の財布から銅貨を三枚取り出すと焦げたソルジャーアントの近くに放り投げる。


 金属と金属をぶつける音が響き顔を青くするリーダー。視線の先には焦げたソルジャーアントの頭部に新たな牙が地面から生え、数度噛みつきガギィーンガギィーンと高音を立てたのだ。


「下にはまだ他のソルジャーアントがいるよ」


「上から魔法で狙い撃てないか?」


「多分無理……今転がっているソルジャーアントも気を失っているだけだと思う……」


「くそっ……こいつを早く村に届けなきゃならないってのに!」


大きな声を上げ歯痒い現状を苦悩するリーダー。その声に地面が蠢き顔を引き攣らせる弓使いと魔導士。

 

「痛つつ、おい、今の太陽の位置はどうだ?」


 腕を抑えながら口を開いた大楯の男の言葉に一瞬意味が解らなかったが「もうすぐ正午だな」と口にするリーダー。


「なら、他の冒険者が偵察に来るはずだ……最悪の場合は俺を置いて行ってくれ……」


「できるか馬鹿! 今回の失敗は俺の判断力が原因だ。街道の下をアリが掘っていると気が付けたはず……お前は這ってでも村に届けるからな……」


「私も絶対に守るから!」


「頼むから静かにしておくれ。木の根が丈夫だろうけど、あの鋭い牙の前じゃあっさり斬られちまうからね……」


 リーダーと魔導士に注意をした弓使いはこちらへ向かって歩く一団を視界に入れ、急ぎ矢に文を付け力いっぱい弓を引くのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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