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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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昼食はおにぎりと豚汁で



 長い廊下を抜け案内されたのは多くの会議室を抜けた先で、途中にアイアンアント対策本部を銘打たれた案内板がありそこへ向かうのかと思われたが素通りした先の部屋である。

 会議室と銘打たれた部屋であるが美しい絵画やソファーなどが並ぶ部屋で、薄暗さはあるが逆に居心地の良さを感じる一室である。


「どうぞ、お好きに座って下さい」


 案内をし終えたアレンジール王子の言葉にソファーに腰を下ろす一同。ターベスト王国の兵士は数も多く別室に案内され休憩を取っている。


「ここにもドランの絵や彫刻がいっぱいね。それに師匠たちの絵もあるわ」


 ソファーに腰かけながら部屋を見渡し大理石を削り掘り出されたドランが魔化した姿だろう物や、炎のブレスを吐いている油絵などが飾られ居心地の悪さを感じるドラン。


「こっちは師匠ですよね。アリの魔物に向かって魔法を使っていますよ」


「爺さまが戦っている絵はないのじゃ。どれもスッと立っている姿だけなのが気になるが……キャロットは本当にもう腹を空かせているのじゃな」


 ロザリアが自身の祖父であるラフルの若い姿を探しどれも立ち姿なことが気になるが、それ以上に隣でグルルルと唸るように鳴くお腹の音にキャロットへと視線を送る。


「今日はすぐに戦うと思って朝食を控えたのだ!」


 その言葉に朝食の風景を思い出すクロ。モリモリとご飯を食べおかわりをするキャロットが浮かび上がるが、珍しく目玉焼きが残った事を思い出す。


「いつもなら目玉焼き五個は食べるのだ! 三個までに抑えたのだ!」


「それでも三杯は食べたのかよ……まあ、いいか。まだ時間があるようでしたら先に昼食にしますか?」


 師であるエルフェリーンとこの場の責任者というべきアレンジール王子へ視線を向けるクロ。すると、キャロットが大きな声で「もちろんなのだ!」と口にし、肩を揺らすアレンジール王子。


「そうしていただいて構いません。こちらで用意するとなると少し時間が掛かりますが」


「料理は作り溜めて持って来ていますので大丈夫です。宜しければご一緒に如何ですか?」


 アイテムボックスから大量のおにぎりと大きな寸胴を用意するクロ。寸胴の蓋を猫耳眼鏡という変装姿で開けたメリリがテキパキとお椀に豚汁を注ぎ入れ、ビスチェは紙皿と割りばしを開封し配り、ルビーはしれっとウイスキーのボトルを開封し、ドランもアイテムバックからゴブリンたちと一緒に作った日本酒を入れた壺を開封し、呆れた顔を浮かべるクロ。


「見慣れない料理ですが味噌を使った料理の香りがしますわ」


 アレンジール王子を押しのけ豚汁の香りに反応するファラン王妃と、見慣れぬ料理の登場に目を丸くするエイプリル王女。


「味噌を使った豚汁と呼ばれるスープに、米を炊き成形して作ったおにぎりと呼ばれる料理です。おにぎりは中に具が色々と入っているので楽しめると、」


「シャケなのだ!」


「キュウキュウ~」


 クロがまだ説明中なのだが空腹に耐えかね、おにぎりを口にして叫ぶキャロットと白亜。


「シャケというのは魚の身を解したものです。他にもおかかや昆布に牛時雨しぐれなどを入れておりますので手掴みでどうぞ」


 その言葉にエイプリル王女がパッと表情を明るくし手招きするロザリアの元へ向かいおにぎりを受け取ると大きな口を開き齧り付き、ファラン王妃も優雅にソファーに腰を下ろすとメリリから豚汁を受け取るとスプーンを持ち口にする。


「殿下、毒見などは宜しいのですか?」


 近くにいた近衛騎士からの言葉に首を横に振るアレンジール王子。


「それは問題あるまい、我々を助けに集まった『草原の若葉』たちの実力なら毒殺などせずとも瞬きする間に実行できるだろう……それよりも私も頂こうか」


 豚汁を食べ優しい笑みへと変わったファラン王妃の横に腰を下ろして豚汁を口にするアレンジール王子。すぐにその顔も解れロザリアに勧められたおにぎりを口にする。


「どちらも初めて食べるが優しい味なのだ」


「味噌はダンジョン産の物で作れるのかしら?」


「可能だと思います。作り方もそれほど難しくはないので、」


「まあ!? それならそのレシピを買わせて頂きたいわ! 味噌は肉の味付けに使う事はあってもスープに使用するとこんなにも美味しくなるとは驚きよ」


「おにぎりも美味しいです」


 クロの声を遮りファラン王妃からの提案に首を縦に振るクロ。エイプリル王女もおにぎりを食べ終え豚汁を口に運び自然と緩む表情に、配ったメリリがドヤ顔をしているがそこには触れず「クロ! こっちも美味しい!」と元気な声を受け微笑む。


「おお、何やら味噌の香りがするが……」


「本当ね。あまり味噌を使った料理は好きではないのだけれど……」


 先ほどドランに合い涙を流していたケケルジール国王と、部屋の香りに眉間に皺を作るガーネシア王妃。


「ばーば、これ美味しいよ! お味噌を使ったスープ!」


 立ち上がり豚汁の味を口にするエイプリル王女が普段王妃をばーばと呼んでいる事に仲の良い祖母と孫なのだろうと微笑みを浮かべる一行。


「あら、そうなの? 前に食べた味噌を塗った肉はあまり美味しくなかったから私も食べてみたいわ」


「私のも頼む。白い三角? そちらも見た事のない料理だが……」


 おにぎりの行列を見て首を傾げるケケルジール国王は軽く会釈をしてからソファーに腰かけ、エイプリルが皿に乗せおにぎりを運び二人に食べ方を教える。


「これはおにぎり! 手で持って食べるの! 中に色んな具が入っているの!」


「手で持って食べるとは面白いわね」


「おにぎりというのか、どれ」


 目に入れても痛くないだろう目後のエイプリルからのおにぎりを素手で口に運ぶケケルジール国王。メリリも豚汁を配りガーネシア王妃へ配り笑顔で受け取りスプーンを使い口に運ぶ。


「つぶつぶとした食感だが塩が効いていて美味いな。中には肉を煮たものが入って、まわりのつぶつぶとよく合うな」


「スープも味噌を使っているのに、とても美味しいわ。今日は少し冷えるから温かいスープは嬉しいわね」


「はい、温かくて美味しいです!」


 孫とのふれあいに笑顔を浮かべる国王と王妃はおにぎりと豚汁を気に入り、二人の間にエイプリルが座りおにぎりを口に運ぶ。


「アイアンアントが現れてからこのように家族揃って食事をするのは久しぶりな気がしますわね」


「うむ、アレの対応に追われ忙しくしていたからな。これもドランさまやエルフェリーンさま方アイアンアントの討伐依頼を受けて下さったおかげだな……」


「ターベスト王国からも兵士の応援がありました。そちらにはカヌカ王国の料理を食べ英気を養ってもらっております」


「うむ、後でそちらにも顔を出す。ターベスト王には本当に感謝しなければな……」


「エイプリルもアリル王女とハミル王女に遊んで頂きましたの。お二人は精霊と契約を成されており素晴らしい歌声を披露され、私は感動しましたわ」


「アリルとハミルがキラキラだったの! お歌も楽しかったの! 今度来てくれると約束もしたの!」


 アリル王女とハミル王女の話題になりエイプリルが楽しそうに話す姿に、国王と王妃は笑みを浮かべながら話を聞き和やかな昼食を終えるのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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