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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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カヌカ王国と今は亡き仲間たち



 カヌカ王国は鉄鉱石に加え胴や聖銀に金などが採掘できる鉱山を複数所有する資源国家であり多くの侵略戦争を受けてきた。が、すべての戦いで勝利してきた。それには複数の原因がある。

 カヌカ王国と他国とは深い谷と山脈に囲まれ、山には強大な力を持つ魔物が住み付いておりその行動範囲を正しく理解し適切な距離を保つ事で魔物とある意味での共存をしていたり、深い渓谷ではいつでも切り離せる橋や空を支配するワイバーンが好む香りを生み出すポーションを開発し侵略者に仕向けたり、オオカミ型の魔物を多く使役し広い森の中を見張らせている。

 また、人族以外の種族も多く、オーガやゴブリンなども町の中を自由に歩き回り自身の村で取れた魔物や育てている野菜などを物々交換で買い物をしている。これは情報交換という意味もあり森での異変などの話はできるだけ細かく聞き買取りに色を付ける事で細かな情報まで手に入れ、半同盟関係を築いてきたのだ。


 ドラゴン信仰がある中でもドラゴニュートの銅像を街中に多く設置しているのはこの国ぐらいであり、亜人種たちが接しやすい形態といえよう。


「ドランさまの像は十年おきに新しい物を中央広場に設置し、古いものは街中に飾られ今ではこの国のシンボルとして人々に人気の観光スポットになっております」


 カヌカ王国に到着したクロたちはドランの演説を聞いていたが、急ぎ城へ戻ったカヌカの兵が王家所有の馬車を持ち戻り演説終了後には馬車に乗せられ城を目指している。


 大通りにはもう数十体のドランの像が飾られ、本人は顔を赤く染め上げ両手で顔を隠している。元竜王国の国王であるドランの自国には自分の銅像などはなく、嬉しさよりも恥ずかしさが勝ったのが現状である。


「少しずつ形が違って面白いね!」


「はい、この像が設置されたのはもう三百年も前になりますので最低でも三十体は設置され、個人で像を寄付する者や自身の商店の前に設置する者もおりますので正確な数は国でも把握しておりません」


 今説明しているこの男はカヌカ王国の子爵で、鉱山を所有しアイアンアントに占拠された被害者である。

 ことの始めは数か月前に遡りアイアンアントの群れが鉱山を襲い占拠され、多くの冒険者や兵士が向かうもその数の多さと鉄壁といえる防護力に自身の領では対応できないと国に報告し、それを憂いたアレンジール王子が各国を旅して現在に至っている。


「まさか生きてドランさまにお会いできる日が来るとは……」


 その目には薄っすら涙を浮かべるケイシー子爵。ドラン的には今すぐにでも魔化して飛び去りたい気持ちを抑えるので精いっぱいでリアクションを取る事もなく両手で顔覆ったままである。


「ドランさまは我々の英雄です。もちろんエルフェリーンさまや他の方々もそうなのですが、ドランさまが巨大なドラゴンへ変化し女王アリと殴り合う姿を吟遊詩人が歌い広まったので、ドランさまを慕うものが多く……その、申し訳ありません……」


 どうやらドランが両手で顔を覆っている姿を見て喜んでいないと察したアレンジール王子が謝罪を口にする。


「撤去しろとはいわん……いわんが、これ以上数を増やすのは……勘弁してもらいたい……」


 両手で顔を覆い弱々しい声を上げるドラン。だが、馬車の進む騒音にかき消され届くことはなく、「またあったのだ!」と後ろを行く馬車で騒ぐキャロットの声に身悶えるドランなのであった。






「大きなお城だね~ターベスト城よりもふた回りは大きそうだよ」


 到着したカヌカ城は壮大という言葉がぴったりで、城というよりも岩山といった方が正しいだろう。事実、大理石のような断崖絶壁を掘削して部屋を作り装飾を彫り作られているのである。


「これはドランさま方!! ようこそカヌカ王国へ!!」


 城の入り口から姿を現しテンション高く口にしたのはこの国の国王であるケケルジール・フォン・カヌカ国王。その横では白髪交じりのスラッと美人であるガーネシア王妃が深く頭を下げている。


「王さまらしい王さまだわ。やっぱり王さまにはヒゲが重要なのかしら」


 トランプに描かれているキングのような風貌にビスチェが感心し、隣で肩を震わせるロザリア。


「うむ、ワシがドランじゃが、その、なんじゃ、あれほどの銅像は流石にやり過ぎではないか?」


 近づいて来たケケルジールへと苦笑いしながら話し掛け、ケケルジールは目を潤ませながら口を開く。


「生きてドランさまを拝める日が来るとは……うぐっ……うぐっ……今日はドランさまがカヌカ王国へ来法された記念日とする! うぐっ……」


 涙ながらに叫ぶケケルジール国王の言葉にまわりからは拍手が飛び交い、横にいるガーネシアはハンカチを取り出しケケルジールへと手渡す。


「うむ、それほどまでに喜ばれても……困るというか……うむ……」


 更に顔を引き攣らせるドラン。エルフェリーンはその気持ちが理解できるのか、ドランの腰を優しくポンポンと叩きながら口を開く。


「人気者は辛いね~僕もターベスト王国で同じような経験を何度もしたよ。最近は過激なまでの崇拝は受けてないけど建国当時は凄かったからね~」


 遠い目をしながら話すエルフェリーン。


「アナタの感激はわかりますが、雨も降っていますので、そろそろ中へ入って落ち着いて話しましょう。ドランさま方、どうぞ中へお入りください」


「そ、そうだな。ドランさまを中へご案内しろ。うぐっ……」


 ガーネシアの提案に兵士たちが動き出し城の中へと案内される一行。長い廊下を進む途中ドランの銅像や勇ましい油絵などが飾られ顔を赤く染めるドラン。


「ドラン殿の銅像や油絵が飾られていた事は知っておったが、改めて見るとこれほどあるのじゃな……」


「父が国一番のドランさまのファンで、事ある毎に増えていまして……申し訳なく思います……」


 過去にこの城を訪れたことのあるロザリアとこの城で暮らすアレンジール王子の会話を耳にしながら飾られている絵を見つめるクロ。そこにはクロの知る人物も描かれており足を止める。


「これは師匠とラルフさんに知らない人が何人かいますね」


「ん? ああ、大柄なのはケイランでミノタウロス、小柄の青い耳がサンショクでコボルト、フサフサの尻尾をしたのがエニシで九尾族だね~懐かしいなぁ~」


「うむ、皆はもう天へ召されたが楽しい時代でしたな……」


 エルフェリーンとドランたちが活躍した当時を思い出しながら過去の友の事を教え、その絵を皆で見つめる。


「エニシさまには何度か話を聞いたことがあるが、優しい人だったのじゃ……」


「私もエニシさまにはお会いしたわよ。金色の毛並みがとても美しくて抱きついたら怒られたわ……」


「ビスチェが草原の若葉に来たての頃だね~エニシは優しいけど尻尾の事になると怖いからね~」


「我も尻尾に泥が跳ねたとボコボコにされた事があったのう……見た目は優しく見えるのに九尾族の者は気が短いというか……それもまた懐かしく思えるのう……」


「ケイランなんてツノを折られて泣いていたからね~尻尾に悪戯したケイランが悪いけど……本当に懐かしいね……」


 エルフェリーンとドランが仲間たちの絵を見つめているとグルゥゥゥという呻き声に似た音が廊下に木霊し、発生源であるキャロットへと視線を向ける一同。


「お腹が空いたのだ!」


 その一言でしんみりした場が和み、再び長い廊下を進むのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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