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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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言い訳とカヌカ王国へ



 ターベスト城内ではルーデシス国王が筆を執りサラサラと書状をしたためそれをメイドへと渡し退出する。教会と警備の者たちへの説明が書かれたそれはメイドから兵士に渡され速やかに町の外へと送られる事だろう。


「ふぅ……これで街の外の問題は片付くと思うが、ハミルにアリルよ」


 クロが持参したスナック菓子を食べていたハミルとアリルは国王に呼ばれ立ち上がる。


「今回はエルフェリーンさま方に付いて行くことはできぬからな」


 その言葉に頭を下げるハミル王女。アリル王女は絶望したかのように口をパカパカしており、その口のまわりに付いた青のりをおしぼりで抜き取る専属メイドのアルベルタ。


「にゃにゃにゃ、にゃぜですか!?」


 口のまわりも拭き終わり口を開くアリル王女。ビックリするぐらい噛み二人の王妃に加えエルフェリーンたちが肩を揺らし、友達になったばかりのエイプリル王女は傍へ駆け寄り抱き着く。彼女なりの優しさなのだろう。


「う、うむ、今回はアイアンアントなる凶悪な魔物を相手にするのだ。エルフェリーンさま方がいるとはいえ危険には違いないのだ。この度の討伐が終わり安全が確認できればダリルを連れカヌカ王国へ足を運びなさい。もし、復興に必要な物があれば我が国で調達し届けるとしよう」


 国王なりの配慮にアリル王女は抱き締められているエイプリル王女と顔を見合わせて笑顔を浮かべ、アレンジール王子とファラン王妃は深く頭を下げる。


「討伐が終わったら僕らでその情報を持ち帰るぜ~」


「宜しくお願い致します……エルフェリーンさまの転移魔法以上に早く情報が伝わる方法を持ってはおりませぬ」


 ルーデシス国王も深く頭を下げエルフェリーンはドヤ顔を浮かべる。


「うんうん、任せてよ! ハミルとアリルにはお土産も持ってくるからね~良い子に待っているんだよ」


「はい、旅の安全をお祈りしております」


「私も! 私も! 安全第一!」


 アリル王女の機嫌も治り、そろそろカヌカ王国へ転移しようと場所を変える一行。




 薄曇りの中庭ではカヌカ王国の兵士と馬車がずらりと並び、その中にはターベスト王国の兵士や近衛騎士たちの姿もある。長い片道の旅の終わりを信じられないと言った表情を浮かべるカヌカ王国の兵士と、これから戦いに赴く凛々しい顔を浮かべるターベスト王国の兵士たち。


「いいかい、転移魔法のゲートを開いている時間は多くの魔力を使うから僕がゲートの確認をしたらすぐに進むように! ぼけっとしていると背中を押されて転ぶから急ぐんだよ!」


 エルフェリーンの説明に半信半疑で応えるカヌカ兵。ターベスト兵は気合の入った地鳴りのような勇ましい声を上げ、エルフェリーンは転移魔法を発動すると先に進み、すぐに戻ると「素早く前進!」と手を上げて叫び兵士たちが前進する。


「いつまでも変わらない街並みは素晴らしいね~一目見ただけで色々と思い出したよ~」


 足を進める兵士たちを見つめながらクロの横で口を開くエルフェリーン。その表情はとても穏やかであったが肩を揺らし始め、白亜を抱くキャロットの横にいるドランへ視線を送る。


「ドランも楽しみにするといいよ! ぷくくくく」


「はて、エルフェリーンさまから笑われている気がするが……何かあったかの?」


「爺さまはいつも通りなのだ! それよりも婆さまが来なかった方が驚きなのだ!」


「妻は虫が嫌いじゃからのう……アイアンアントと聞いて鳥肌が立っておったわい」


 本来ならドランの妻のキャロライナも参加予定だったが虫系が苦手で、中でもアリが大の苦手だと今回の参加を見送ったのである。


「魔化した状態で恐怖に陥れば鉱山内で暴れかねないのじゃ。下手したらそのまま落盤に巻き込まれるか、ブレスによって蒸し焼きになるかじゃな……」


 腕組みをしながら最悪を想定するロザリア。その言葉にクロはキャロットへと視線を向ける。


「キャロットは大丈夫だよな?」


「私は大丈夫なのだ! アリは怖くないのだ!」


「キュウキュウ!」


 抱いている白亜も怖くはないと鳴き声を上げ勇ましさをアピールするが、どう見ても幼い古龍は可愛らしさがあり笑みを浮かべるクロ。


「白亜の気持ちも分かるが怖くなったら俺の所に来いよな。俺は戦わずに素材回収するからさ」


「キュウキュウ~」


「あっ!? 白亜さまがっ!」


 キャロットの腕から逃れクロの胸目がけ羽ばたく白亜をキャッチし優しく撫でるクロ。それを残念そうに見つめるキャロット。ドランは甘える白亜の姿に孫を見るような瞳を向け、ロザリアやビスチェも自ずと優しい瞳へと変わる。


「ほらほら、クロたちも行くぜ~転移魔法は魔力消費が多いから早く行かないと僕が倒れちゃうぜ~」


 和んでいた者たちへ声を掛けるエルフェリーンはその言葉通りに顔色が若干だが青く見えたクロは白亜を抱きながらもアイテムボックスから魔力回復ポーションを取り出し駆け寄り手渡そうとするが、エルフェリーンはその腕に手を掛けると素早くクロの背中に登り悪戯っ子のような笑みを浮かべる。


「僕は疲れたからクロで休むからね~」


「キュウキュウ!」


「あはははは、早い者勝ちだぜ~ほらほら、先に進まないと僕が倒れちゃうぜ~」


 クロの背中を白亜と取り合っているのか、この状況を楽しみながらエルフェリーンと白亜が声を上げつつも、クロは足を進めゲートへ進み一瞬にして変わる景色。


「遠くに見えるあれがアイアンアントに占拠された鉱山かな」


 転移した先はカヌカ王国の王都内の広い噴水のある広場で高い塀か囲まれているが、それよりも目を引くほどの大きさがある岩だらけの山が目に入り思わず足を止めるクロ。


「ほらほら、さっさと歩かないとみんなの迷惑になるわよ」


 ビスチェから背中を押されながらそのまま足を進めるクロ。多くの石が採掘できるのか街中は石のタイルが敷かれ美しい街並みに見惚れながら進み、先にこちらへと転移していたカヌカ王国の兵士たちとターベスト王国の兵士たちは隊列を維持したまま待ち続け、全員が揃ったところでアレンジール王子が口を開く。


「この度の転移魔法……説明されていたとはいえ驚愕しました。本当に感謝いたします。それに加えターベスト王国の兵士諸君、改めて言わせてもらうがアイアンアントの討伐、どうか力を貸して欲しい」


 深く頭を下げるアレンジール王子の態度に敬礼を持って応えるターベスト王国の兵士たち。クロたちも軽くだが頭を下げ敬意を表すが、視界の隅に映る体格の良いドラゴニュートだろう男が拳を突き上げる姿の銅像を目に入れ変わり果てたドランへと視線を移す。


「髪がフサフサなのだ!」


 孫娘の言葉に厳かな空気は台無しになるが、ドランは顔を赤くしながらエルフェリーンへ視線を送り、助けてくれとでも言っているかのような表情を浮かべる。


「ほらほら、英雄からも言葉が欲しそうだぜ~まわりで興味深げに耳を立っているカヌカの民に一言あっても良いと思うぜ~」


「うぐっ、そ、そうじゃの……」


 エルフェリーンからのムチャ振りに顔を引き攣らせながらもアレンジール王子やカヌカ王国の兵士からの視線を受けて声を上げるドラン。


「わしはこれでも竜王国の元国王で諸国をまわり世界を見てきた。過去にはこの地でアイアンアントを討伐した。当時は若く激戦というほどではなかったが今はもう老いたからの。わしに代わり孫娘のキャロットが力を貸してくれるので安心するがよい!」


 兵士や民衆から歓声が上がりキャロットも拳を作り片手を上げ応える姿は英雄に見えたことだろう。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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