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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十五章 カヌカ王国
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迷惑な大楯



 準備を終えたクロたちはエルフェリーンの転移魔法を使い王都の郊外へと転移し後悔していた。


「あれは正しく武具の女神フランベルジュさま!!」


「我らドワーフが称える武具の女神さまである!」


「おお、何とも凛々しく美しい女神さまである!」


 霧雨の降るなか、高い壁に囲まれた王都の外だというのに多くのドワーフと町の住民たちが膝を付き大楯姿の武具の女神フランベルジュに歓声を上げたり頭を下げて拝んだりと大騒ぎである。なかには屋台を町の外にまで持ち出し商売をするものや、教会の者だろうシスターや聖騎士たちも膝を折り拝んでおり唖然とする『草原の若葉』たち。


(私の神としての信仰心がこれだけの民衆を集めたのですわね!)


 大楯がやや反り吹き出しに文字を浮かべる武具の女神フランベルジュ。


「やっぱりアイテムボックスに入れてくるべきだったな……」


 苦笑いを浮かべるクロ。


「屋台から肉が焼ける匂いがするのだ!」


「キュウキュウ~」


 屋台から香る匂いにテンションを上げるキャロットと白亜。その横では走り出したい気持ちを抑える小雪がアイリーンの太ももに顔を擦り付ける。


「ん? 小雪」


「わふっ!」


 アイリーンが顔を下に向け小雪に気が付くと、小雪は抑えた鳴き声を上げて屋台へと顔を向ける。


「ああ、あの串焼きが買いたいのですね。それなら私も一緒に」


「ちょっと、待とうか。武具の女神さま担当はアイリーンだよな?」


 アイリーンの声に逃げ出そうとしている事に気が付き急いで肩に手をかけるクロ。


「担当ですか? いやいや、クロ先輩が預かって来たのだからクロ先輩が担当ですよ! そうですよ! きっとそうですよ!」


「ご本人は今の発言で少し傷ついたのか盾にヒビが入ったぞ。ほら、音が聞こえるだろ」


 クロが言うように大楯の所々に音を立ててヒビが入り顔はやや右下へと伏せられ(アイリーンは友達だと思っていたのに酷いですわ……うぇ~ん)と吹き出しに文字が浮かび上がる。


「ちょっ!? 今のは冗談です! 冗談ですから! それよりどうします? この状況は意外に危険な気がしますが」


 (ぐすん)と吹き出しに文字が浮かび上がる大楯から群衆へ視線を向けるクロ。祈りを捧げる集団だけならまだいいが、なかには子供やお年寄りなどの姿もあり、一気にこちらへ駆け出して来ては群衆雪崩などが起き命の危険につながるだろう。


「師匠、ここは転移で城へ向かった方が……」


「そうだね。その方が早いし安全だね」


 クロがエルフェリーンへ提案しエルフェリーンはすぐに転移魔法を使いゲートを出現させるとアイリーンは急ぎ糸を飛ばし武具の女神フランベルジュの大楯を押し込み、それに続き急いで足を進める一行。クロは鼻をスンスンさせる白亜を抱き上げキャロットを呼び止め、渋々といった表情でクロの後に続き転移する。


「マーヨマーヨマヨ~エルフェリーンさま!」


 転移先はターベスト城の中庭でハミル王女とアリル王女が声を合わせ音の精霊に歌を披露しており二人の間を光の粒子が舞いキラキラと輝いていた。


「ふぅ……集団心理とは恐ろしいものですね。皆さん仕事とか放り出してあの場に集まったのでしょうか……」


 大楯から手を放し一息つくアイリーン。足元には小雪がへっへしており、こちらへ駆け出して来たハミル王女とアリル王女の姿に尻尾を揺らしている。


「ドワーフなら確実に仕事を放り出してでも拝みに来ると思います。武具の女神フランベルジュさまはドワーフたちに最も尊敬され愛されている女神さまです」


 ルビーの言葉に泣き止んだ大楯へ視線を向けながらも大声で挨拶をしてくるアリル王女の幼くも晴れやかな笑顔に癒され、ハミル王女のカーテシーを受けアイリーンも微笑みながら会釈をして挨拶を交わす。


「お二人とも元気ですね~」


「ハミルとアリルは元気だと僕たちも元気になるよ~今日は勝手に入らせてもらったけど大丈夫かな?」


 アリル王女は小雪に抱きつき尻尾を揺らし、ハミル王女はエルフェリーンからの疑問に首を傾けて口を開く。


「エルフェリーンさま以外に転移の魔法を使える方を知りませんが、皆さまなら大歓迎です」


 傾けた頭が元に戻り笑みを浮かべるハミル王女。エルフェリーンにも自然と笑顔が伝染し、後から姿を見せた者たちも同じように笑顔を浮かべる。


「一時はどうなるかと思ったが、これで少しは落ち着けるな……はぁ……」


「うむ、城の中庭へ勝手に転移しては不法侵入に相当しそうじゃが、二人の許可が下りれば問題ないのじゃ」


「まあ、我らにとってはどんな所にも潜入できるがの」


 クロの横でロザリアが本来なら即始末されかねない状況だと説明し、呼ばれて付いて来たドランは自慢の髭を指で弄びながら口にする。


 実際、ドランやキャロットのようなドラゴニュートが魔化し最高の防衛機能を持った城へ突入されては防ぐことは難しいだろう。ただ、例外もあり草原の若葉の敷地に張り巡らされている防御結界は常識外で、地中に埋めた魔法陣が地脈の力を使い維持されドランやキャロットが踏みつけても無傷な使用になっている。それほど地脈から湧き出るマナの力は強く、同じ地脈から力を得たアイアンアントがどれほどの力を持っているかは戦って見るまで分からないのだろう。


「急に居なくなって町の外の人たちは大丈夫なのかな?」


 キュアーゼが人差し指を顎に当て口にするとエルフェリーンとロザリアがぱっかりと口を開き、クロも武具の女神フランベルジュを信仰するドワーフたちが急にその姿を見せなくなったと、罪の意識にさいなまれたり師であるエルフェリーンを逆恨みしたりするかもと思案する。


「逃げる事に精いっぱいで忘れてたよ~そうだね、今の国王に任せて適当な理由を付けてもらおう」


 丸投げであった……


「事の成り行きだけでも説明しないと……」


「うむ、それが良かろう。そもそも神を模した盾などを受け取ったクロが原因なのじゃからのう」


「うっ……それを言われると……いや、自分は要らないと言いましたけど!?」


「あら、それでも付いて来たのはクロの責任ね。飼うからには面倒と責任を取らないとダメよ」


 ロザリアとビスチェか責任を押し付けられ顔を引き攣らせ、アイリーンは先ほどの事もあり肩を揺らして笑い、つられて笑うアリル王女とハミル王女。


 そんな空気の中、国王や王妃にカヌカ王国の国王たちが中庭に現れ挨拶を交わし、クロは先ほど集まった群衆についての説明と解決策をお願いできないか説明すると快く引き受け胸を撫で下ろす。


「教会に武具の女神フランベルジュさまを模した大楯から後光が現れたという報告は受けておるよ。その原因は容易に想像が付いておったからな……ふぅ……兵を出して事の顛末を説明するが武具の女神フランベルジュさまの不祥事をそのまま伝える事はできんから、アイアンアントに苦しむカヌカ王国の為に力を貸し与えたことにすればよかろう……アレンジール王子もかまわぬかな?」


「はい、その様にして頂ければ我が国としても問題ないかと思います。が、本当に武具の女神フランベルジュさまが大楯になり顕現されるとは驚きです……

 それと、これは王子としての願いなのですが、隣国のドワナプラ王国は武具の女神フランベルジュさまを信仰しておりますのでアイアンアントの件が片付いた後はそちらにも顔を出して頂ければ……お願いします……」


 深く頭を下げるアレンジール王子。


「ドワーフたちに嫉妬されるのが怖いのであろう。エルフェリーンさま、我からも、どうかお願い致します」


 ターベスト王とカヌカ王子に頭を下げられエルフェリーンは困り顔を浮かべ、クロは口を開く。


「ドワナプラ王国に寄贈したら怒られますかね?」


 ピシリと音を立ててヒビが入る武具の女神フランベルジュの大楯であった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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