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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第三章 ダンジョン採取
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ドワーフの少女



 十一階層を進み十二階層への階段を注意しながら降りると体育館ほどの広さの開けた場所があり、所々に明かりを放つ水晶が置かれ数組の冒険者が腰を降ろし休憩していた。


「今日はここまでにしてここに宿泊するよ。ここはまわりの冒険者に気をつければ安全だからね。所謂、休憩ポイントだよ。ビスチェは光魔水晶に魔力を流してくれるかな」


「はーい」


 ゴツゴツとした岩の壁から顔を出す水晶に触れ魔力を流すと光が灯り辺りを照らし出す。近くにある二つの光魔水晶に魔力を込めるとクロはアイテムボックスから焚火台を取り出して薪を置き、エルフェリーンが火の魔術で薪に着火し、アイリーンはその場に座りながらまわりを見渡し魔物の気配がない事を確認しながら冒険者たちの小さな声に耳を立てる。


「おい、あれって……」


「ああ、『草原の若葉』だな……」


「暴風のビスチェ……」


「去年は二人だったが今年は五人もいるな……」


「寝ながら浮いているが……あれは?」


「あれはどういう魔術なのか聞いてみたいですね……」


 ドワーフの少女をシールド魔法に乗せている事に気が付いた者たちから奇異な目で見られながらも、クロはいつものことだと気に止める事はなく焚火台に鍋をセットすると水を入れナイフ一本で野菜を小さく切りながら煮込み始める。


「やっぱりクロがいるのといないのでは大違いだね! ダンジョンの中でも温かいものが食べられるのは本当に嬉しいよ」


「そこは認めるわ! だから美味しいものを作りなさいよね!」


≪少し冷えるから温かいものが恋しい≫


 焚火を囲み腰を降ろす女性たちに戦闘では一切活躍しなかったクロは多少思う所があるのか、手早く調理を進め湯気を上げる鍋からは食欲のそそる香りが立ち始める。


「最後に味噌を入れて簡単豚汁の完成だな。どれ……うん、美味い」


「あっ!? クロだけ食べてる!」


「これは味見だよ……すぐに分けるから休んでろよ」


≪豚汁とか嬉し過ぎる!≫


「僕も豚汁は大好きだよ~体は温まるし脂身の多いお肉は甘くてスープに使う味噌の香りも堪らないね!」


 クロが豚汁を分けるとビスチェはマジックボックスのスキルを使いスプーンを取り出すとハフハフと食べ始め、エルフェリーンは何度も息をかけ冷まし、アイリーンは魔力で生成した糸を箸の形に変えると≪いただきます≫と文字を浮かべ、ひと口食べると箸が止まり頬を伝う涙。


「おいおい、泣くほど美味しいとか言うなよ~おかわりはまだまだあるし、おにぎりもあるからな。コンビニのだけど」


≪色々思い出しちゃいました。凄く美味しいです≫


 浮かぶ文字を視界に入れたエルフェリーンはアイリーンの横に並び笑顔を向ける。


「困ったり悩んだりしたら相談してくれよ~僕はそこそこ賢いからね~力になるぜ~」


「私だって何かあれば手伝うから言いなさいよね。クロも困った事があれば話すといいわ! 後輩の面倒は先輩の務めだからね!」


≪師匠に先輩方ありがとう……≫


 浮かぶ文字にビスチェはドヤ顔をし、エルフェリーンは頬笑みながら豚汁を食べ始め、クロはモゾモゾと動きだしたリュックを解放し目を擦る白亜を股の間に置くと、自身が食べようとしていた豚汁を白亜用の容器をアイテムボックスから取り出すとそこへ入れ替える。


「熱々よりもこっちの方が冷めているからな」


「キュウキュウ」


 湯気を上げる豚汁に目を輝かせる白亜。どうやら腹ペコな様でスンスンと匂いを確認すると口をつけ食べ始める。


「まだまだあるから落ち着いて食べろよ。白亜は鮭のおにぎりが好きだったよな」


 魔力創造でおにぎりを作りフィルムを剥がすと半分に割り口にするクロ。残りの半分は更に乗せ白亜の横に置くとクロへ視線を向け「キュウキュウ」とお礼の言葉を口にする。


≪私は梅と昆布が欲しいです!≫


「僕はツナマヨの気分かな~」


「チューハンのおにぎりが食べたいわ!」


「チャーハンな、ほいほいほいっと。ん? 起きたみたいだな」


 魔力創造で作り上げたおにぎりを配り、意識を取り戻し起き上がったドワーフの少女へと近づき、アイテムボックスからペットボトルの水を取り出すと少女へ声を掛けながら手渡すクロ。


「気分が悪いとかないか? これ水な、上の蓋をこうやって捻ると開くからな」


「えっと……ありがとうございます……あの……ここは十二階層の休憩場所ですよね?」


 水を受け取ると辺りを見渡すドワーフの少女に頷くクロ。


「ここにはよく逃げ込んだことがあるので……何だか不思議な水筒ですね……柔らかいし透明だし……」


 視線をペットボトルに変えると、まじまじと見つめ蓋を開けて水を飲む。


「腹減ってるだろ。これは豚汁といって俺の故郷の料理だ。食うか?」


「いいんですか?」


「助けたのも何かの縁だからな。ちょっと待ってな」


 クロは焚火まで戻り豚汁を器に入れるとドワーフの少女の元へと戻りスプーンを添える。


「熱いから気をつけてな。それと、そこから一度降りても大丈夫そうか?」


 クロの言葉に頭を傾げるが視線が高い事に気が付いたドワーフの少女は浮いている事に気が付き取りみだし、落ちそうになるのをアイリーンが支えシールドからゆっくりと降りる。


「凄い魔法ですね……」


「ただのシールドだよ。それよりも熱いから気をつけてな」


「はい……ありがとうございます」


「こっちの焚火にあたりながら一緒に食べようよ」


「大爆発の話も聞かないとね! それとポーション代も!」


 食事中に無粋だなと思いながらも、はっきりとものが言えるビスチェが羨ましく思うクロ。


「はい、お話します……自分は――――」


 ドワーフの少女の名はルビーといい、王都の鍛冶屋で下働きをしながら冒険者として必要な素材を採取し生計を立てている。鍛冶屋の主人と亡くなった両親は親しく恩返しの為に冒険者をしながら素材を集めていた。

 シングルの冒険者としてやってこれたのは数年前に亡くなった両親が常日頃から彼女を鍛えていた事と、ルビーが努力を怠らない性格で危ない橋は補修してから渡るタイプのドワーフであった。

いつか自分の工房を立てるという夢があり、新しく開発した火薬を使ってストーンゴーレム相手に使い予想外の威力を発揮してしまったとの事だった。


「そっか……ポーション代はゆっくり返せばいいよ~クロ! 一杯だけ彼女にお酒を奢りたいのだけどダメかな?」


 両親の件でぽろぽろと涙を流し、自分の工房を持ちたいと語った時には何度も頷き頬に涙の跡を作ったエルフェリーンに、クロは難色を示しながらもアイテムボックスからウイスキーの瓶を取り出すと魔力創造で作った氷を入れガラスのグラスに注ぎ手渡す。


「これはクロの生まれた国で作っているお酒だよ。ドワーフの君ならイケる口だろ」


 グラスを手渡すエルフェリーンは頬笑みを浮かべ、静かに頷くルビー。


「ありがとうございます……」


「一気に飲まないで香りを楽しみながらゆっくり飲もうね」


 エルフェリーンがウイスキーに口をつけ、ルビーもひと口含むとトロリしたアルコール成分と鼻に抜ける香りに驚き、飲み込めば喉が熱く吐いた息は熱く更に香りが強く感じ取る事ができた。


「ぷはぁ、美味しいです……こんなにも美味しいお酒があるのですね……父さんと母さんにも飲ませたかったです……」


 ウイスキーのグラスを見つめるルビーにエルフェリーンは肩を寄せて口を開く。


「もしよかったら僕らの採取が終わったら一緒に墓参りに行こうよ。その時は墓前にこのお酒を供えさせてくれよ」


「そうね! 私も一緒に手を合わせるわ! クロ! 白ワインをちょうだい!」


≪私も御墓の掃除を手伝いますので、甘いお酒をお願いします≫


 何やら便乗し始めたビスチェとアイリーンに本気でダンジョンで飲酒をするのかと思うクロ。


「ここなら魔物も出ないし、少しだけならお酒も大丈夫だよ」


 エルフェリーンの後押しもあり魔力創造で白ワインとカシスオレンジを作ると目を輝かせる二人と、目の前に現れる新しいお酒に目を輝かせるルビー。


「白いワイン? これはどの様な味なのですか!? それにこの缶は一体!?」


 テンション高く驚くルビーにクロは思った。


 採取は明日以降になるだろうと……






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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