準備と真白薔薇の庭園F
これより十五章の始まりです。 カヌカ王国でのアリ退治をメインに色々と深堀出来たらと思います。
「大量の殺虫剤に多くの料理と、もしもの為のポーション各種に毛布や清潔な布と、着替えに予備の武器……これで大丈夫だな……」
アイアンアント討伐に向け準備を進めるクロはアイテムボックスのリストを見直していた。
「クロ先輩! おやつは三百円までですからね!」
「ほぅ、それなら俺が用意したお菓子は要らないということだな?」
「いやいや、言葉の綾ですよ。三百円分の気持ちを持ってクロ先輩には感謝しています!」
揉み手をしながら近寄るアイリーン。その後ろでは七味たちも同じように揉み手をしておりアイリーンが教えたのだろう。
「あまり変な芸を教えるなよ……はぁ……それよりも、シャロンとメルフェルンさんにはこっちのバッグを預けますのでおやつにでも食べて下さいね。魚や鳥の缶詰はフィロフィロの好物なので目に見える所に置かないようにして下さい。缶の開け口は鋭いので怪我をする事がありますからね」
布製のリュックには大量のお菓子や缶詰にインスタント麺が詰められパンパンに膨れ今にもはち切れそうになっている。
「ありがとうございます。これから大変なのに……」
「大変かもしれないけどすぐに終わらせて帰ってくるから、フィロフィロも良い子にしてろよ~」
シャロンが抱き締めているフィロフィロの喉を優しく撫でるクロ。嬉しそうに目を細めるフィロフィロと、鼻息荒くそれを見つめる腐ったアイリーン。
「まるで新婚さんが出張へ行く姿ですね! ぐひひひ、朝から尊いものが見られましたよ! むむ、殺気を感じます!? とうっ!」
「………………アイアンアントは大変危険な魔物です。十分にご注意くださいませ……」
視線を強めアイリーンを天井へ撃退したメルフェルンはクロへ深く頭を下げる。普段ならシャロンに近づくとその強めた視線を向けるのだが今日は魔物退治という危険な場所に向かう事もありそういった態度は取らず、力いっぱい拳を握り締め耐えている。
「はい、冷蔵庫と地下室には料理と食材を作り置きしてありますから好きに食べて下さい。冷蔵庫の方から食べて下さいね」
「先ほどチーズを使ったケーキを確認致しました。本日のおやつ致しますのでシャロンさまも楽しみにして下さい」
「それは嬉しいね。チーズを使ったケーキは甘すぎなくて僕は好きだよ」
好きだよという単語に頬を染めるメルフェルン。その姿にシャロンが襲われないか心配になりながらもフィロフィロから手を離し最後の確認をするクロ。
「主さま、こちらもお持ち下さい」
そう声を掛けたのはクロの召喚獣であるホーリーナイトのヴァルで三等身のゆるキャラ姿である。手に元というよりも近くに浮かせている見慣れない大剣に首を傾げる。
「ん? これは?」
(真白薔薇の庭園Fですわ! ヴァルには無理を言って天界から取り寄せてもらいましたの! さぁ、クロを新たなる主として真白薔薇の庭園Fを使いこなして見なさい!)
勝手に天界から付いてきた武具の女神フランベルジュの大楯に浮かぶ吹き出しに、面倒臭い事になったと思うクロ。
天界から戻る際にもこっそりと教会へと転移し教会関係者から口をパクパクと驚かれ、詳細を説明するとその場で膝を付き拝まれたのである。聖女や教皇もその場で祈り続け帰るタイミングが中々掴めず、只々迷惑を掛け被ったのである。
「新しい白薔薇の庭園ですね! 今度は大剣、バスターソード並みに大きな剣ですけど日本刀モデルじゃないのですね~」
再度天井から降りてきたアイリーンはヴァルが支える真白薔薇の庭園Fを興味深げに見つめる。
「俺はいいからアイリーンが使ったらどうだ?」
「えっ!? 私はこの子がいるから別に要らないですよ~浮気する気にはないですからね~」
自身の腰に下げた白薔薇の庭園を撫でるアイリーン。
(それは正しい判断ですわ。武具にもその思いは伝わり一緒に成長するパートナーとなるのですわ!)
「それなら俺は師匠とルビーが打ってくれたこれがあるから大丈夫ですよ」
腰に装備している魔剣仕様のナイフを抜き武具の女神フランベルジュに見せるクロ。
(確かにそれは丁寧な作りだわ。でも、アイアンアントを相手にするにはサイズが小さいのですわ。アイアンアントの働きアリ相手でも苦戦するでしょうし、兵隊アリなどには怯ませることすら難しいのですわ。大きな相手には大きな武器が必要ですわ)
「だからって大き過ぎだろう。俺じゃ持ち運びすら難しいと思うが……」
ヴァルが支えている真白薔薇の庭園Fへ手を伸ばすクロ。すると、大剣の方からクロの横へと移動し不思議な事に数センチ浮き続けている。
「何これ凄い……少しだけ床から浮いているけど、やっぱりこれは魔力を使って……ファンタジーだな……」
(真白薔薇の庭園Fはその大きさと重さという問題点を解決させたのですわ! 大剣はどうしても持ち運びに問題があり重さも相まって使う人を選びますわ! ですが、このように浮くことによって重さと持ち運びという欠点を補ったのですわ! 更に!)
長文の吹き出しが小文字で浮かび上がり必死に追いながら黙読するクロたち。
(鞘を工夫する事で自立し剣としてではなく、剣士として戦う事ができますわ!)
吹き出しの文字に反応しているのか鞘が光り左右に別れ刀身が現れ美しい光を反射させ、別れた鞘が棒状の人型に変わり床に足を付け大剣を握り締め上段で構える。構えるのだが床に付いた足からはミシミシと音が鳴り、アイリーンは素早く糸を天井へ飛ばして真白薔薇の庭園Fと丈夫な柱を繋ぎ重さを軽減し、七味たちもそれを手伝うべく重さを散らす為に丈夫な柱へ糸を飛ばして同じような処置を取る。
(天界では上手くいったのですが……ああ、私の工房の床は神力で補強されていたのですわ!)
「それって普通の床や地面だと足がめり込んで動けなくなるほど重いという事じゃ……」
(それは大丈夫ですわ! 重さを軽減させる重力反転という技術が使われ、なんなら空を飛ぶ事さえできますわよ! 浮くだけですが……)
最後だけ吹き出しの文字が小さくなり言葉を濁している気がするが重力反転という単語にエルフェリーンが目を輝かせる。
「それは凄いよ! 重力を与える魔術はあるけど反転させるのは凄いよ! 空を飛ぶのとは違うけど重さを減らし軽くすれば色々なものを浮かせることができるね! 飛行石を使った城も再現できるし、多くの人を乗せて大空を飛ぶ事もできるよ!」
テンション高く捲し立てるエルフェリーン。大楯の女神は食いついたエルフェリーンの言葉にドヤ顔である。
「まあ、取り敢えずは元に戻ってくれ」
上段で構え続けている真白薔薇の庭園Fに声を掛けると光が溢れ巻き戻すように鞘へと戻り浮かび、アイリーンと七味たちは糸を消失させる。アイリーンたちの糸いくつか種類があり、今回は魔力から作られた糸を使い自身のタイミングで消すことができる。逆に糸そのものを体内で作り放出したものに関しては消すことができず糸として残り、その糸を使い布や糸にして衣服を作ったりもできるのである。
「えっと、この床はどうしましょうか……」
くっきりと足跡の付いた床を見つめるクロは魔力創造で紙粘土を創造すると、慣れた手つきで凹んだ床に詰めその上に適当な小さな絨毯を置いて口を開く。
「これは帰ったら後で色を塗って補修しますからシャロンたちは気を付けてな。床と同じような色を塗れば誤魔化せるだろうし、後で床下から見てダメそうならここの板を変えなきゃだな……」
(その、申し訳なかったですわ……)
素直に謝罪を吹き出しに浮かべる武具の女神フランベルジュ。クロは真白薔薇の庭園Fをアイテムボックスに収納し、今度天界へと行った際にこっそりと置いて来ようと心に誓うのであった。
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