居残り組たち
「うふふ、やはり桃と梨は甲乙つけがたいですねぇ」
「私は桃~」
「僕は梨~」
「どっちも好き~」
一方、居残り組のメリリはリビングで果実を向きながら妖精たちと戯れていた。得意のナイフ捌きで梨を向き一口サイズにカットしては口に入れ表情を溶かし、雨でやる事の少ない妖精たちと分け合いファンタジー感溢れる休日を過ごしている。
「私たちにも取っておいて下さいね~」
「甘い香りがするなかで、この地味な作業は疲れるわね……」
「確り支えて下さい! 支柱の設置が一番重要です!」
他にも居残り組であるアイリーンとルビーにキュアーゼは溝を入れた支柱をリビングの端へ設置していた。
「わかっているわよ。七味たちも固定するのを手伝いなさい」
「ギギギギ」
キュアーゼの言葉に七味たちが動き出し四方から糸を吐き出し壁や床に固定する。
「七味たちナイスです! はじめから頼めば良かったですね~」
「下を固定したら次は二階に上がって二段目を設置しますから、アイリーンさんは準備して下さい。七味さんたちは支柱を糸で吊るして上へお願いします」
床と支柱をネジで固定するルビーの指示に従いアイリーンが天井へ糸を飛ばし、七味たちは協力して残り半分の支柱を二階へ運ぶ。吹き抜けになっている事もあり蜘蛛の魔物である七味たちには簡単な作業なのか、ネジを締め終わる頃には二階へと支柱を運び終え糸で接合部分近くに吊らされていた。
「七味たちは仕事が早いです。これからも高所の作業ではお手伝いしてもらいたいです」
「ギギギギ」
鳴き声を上げ両手を上げてお尻を振る七味たち。頼られることに喜びを感じるのは魔物でも同じなのだろう。
「それじゃあ、行くよ~」
アイリーンが上から叫びルビーの背中に糸が飛び一気に二階の高さまで運ばれ、「ヒッ!?」と短い悲鳴を上げるルビー。下から支えられている支柱にしがみ付きバランスを保つと、浮いているもう一つの支柱を手で手繰り寄せ接合部分を合わせネジで固定する。
「ふぅ……後は天井部分の固定と板をセットすれば完成ですね……」
大きく息を吐くルビー。二階からとはいえ細い糸でぶら下がりながらの作業は緊張を強いられ集中力も多く使い疲労した表情を浮かべ、そこに妖精たちが梨や桃の刺さった果実を持ち飛び回り声を掛ける。
「これあげる~」
「桃美味しいよ~」
「梨もあるよ~」
妖精たちからの気遣いに困った顔をするルビーは「これを設置したら頂きますねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」と声を残し天井付近へ急上昇し、その声の喜ぶ妖精たち。
「アイリーンさん……今のは態とですよね? 急な上昇は怖いって昨日話しましたよね?」
「あはは、冗談、冗談だよ~それよりも、ほら、早くネジを締めて下さい」
目の座った瞳にドスの利いた声で話すルビーに恐怖を感じたアイリーンは、背中を両手で支え作業がしやすい姿勢を保ちその瞳から逃れる。
「これはアイリーンさんが作ろうと言ったのにふざけないで下さい。ベビーベッドの失敗を取り戻す為に作っているのですよ」
「はい、ごめんなさい……やるなと言われると、どうしてもやれと言われているような気がして……ごめんなさい」
「アイリーンはたまに悪ふざけするからね~。そのうち本気で怒られたらいいわ」
一味に糸でぶら下げてもらい天井近くで作業する二人のもとにやって来たキュアーゼ。キュアーゼもベビーベッドの失敗を取り戻そうとアイリーンの提案に乗り居残り組として作業をしている。本来ならシャロンの傍から離れたくはないのだろうが、シャロンとフィロフィロの喜ぶ姿が見たいと泣く泣く残ったのである。
「ふぅ……これで締め終わりました。最後は板を設置すれば完成です」
大きく息を吐くルビーがネジを締めていた工具を腰の作業ベルトに収納する。すると、七味たちが気を利かせ一斉に動き出し、一階の床に置いてある板に糸を飛ばし回収し天井へと戻りルビーの近くに糸でぶら下げる。
「七味たちの仕事の速さに驚きです。この子たちのような助手がいれば作業が捗ること間違いなしですね」
「確かにそう思うけど、私を天井にぶら下げたまま居なくなるのはやめて欲しかったわ……」
一美も板を取りに行く事を優先し二本の糸でぶら下がっていたキュアーゼはそれなりに恐怖を感じたのだろう。ただ、キュアーゼが魔化すればサキュバス特有のコウモリ状の翼が生え飛ぶ事も可能であり、その事も考慮しその場を離れた一美である。
「この子たちの糸は丈夫ですからキュアーゼさんを五人は吊るせますよ~それよりもみんなで板を取り付けましょう!」
板は柱に横からスライドさせ入れる形となっておりハンマーを使い優しく叩けばすぐに取り付ける事ができアイリーンとルビーで協力し柱に板を設置する。キュアーゼは一美にお願いし下へと降りると大きく伸びをし、果物を持って現れた妖精たちと話しながら口で桃を受け取ると両手で頬を押さえてその味を楽しむ。
「宜しければこちらもいかがですか?」
後ろから一口サイズにカットされたフルーツを皿に盛りやって来たメリリ。
「梨と桃は絶品だったわ! 見慣れないものも多いわね」
「こちらがサクランボでパイナップルにパパイヤ。赤くツブツブがあるのがイチゴです。どれも甘みと酸味が絶妙でお勧めです」
「サクランボですと~」
糸を使い急速落下してきたアイリーンは叫びながら着地し、サクランボをひとつ口に入れ表情を溶かす。
「おいひぃですぅ~やっぱり私はサクランボが一番です!」
「あら、私はメロンが好きよ。前にクロがサキュバニア帝国へやって来た時に食べたけどアレは別格ね! 今日はないみたいだけど」
メリリが持つ皿を覗き込むキュアーゼ。心なしか肩と落としている。
「うふふ、メロンは地下の貯蔵庫にありましたのでお持ちしましょうか?」
「いいのかしら? これだけの果実でも相当高価なものでしょう?」
「ふっふっふ、そこは問題ないと思いますよ~だって、クロ先輩が作ったものですからね~あむあむ、おいひぃ~」
自慢気な表情をしたかと思えばサクランボを口にして表情を溶かすアイリーン。その顔の変化に思わず肩を揺らすキュアーゼとメリリ。
「クロさまからもキュアーゼさまはメロンが好きだと伺っております。お出ししても問題ないですし、私も食べたいですから」
そう口にしながらテーブルに皿置くとキッチンへと向かい地下室へ降りるメリリ。
「あれって、私がメロンを食べたいというと思っていたわね……」
「それもあるとは思いますけどクロ先輩はまめですね~みんなの好みを把握して果物を用意しておくなんて」
「それは言えているわね……あむ、あらパイナップルといったかしら? これ美味しいわ!」
「イチゴも美味しいですよ~小さい時は練乳とかかけて食べましたが、そのままの方が美味しいですね~妖精さんたちもイチゴはお気に入りですよね~」
「クロの果物はどれも美味しいから好き~」
「ねぇ~」
「プリンやケーキに飴も美味しいねぇ~」
テーブルに着地した妖精たちも会話に加わり好みの甘味を話し合っているとルビーが作業を終えゆっくりと一美に降ろされ着地する。
「見た事のない果実がいっぱいですね! これはウイスキーにも合いそうです!」
「合わせるとしたらブランデーじゃないかしら?」
「いやいや、お二人とも普通に食べましょうよ。このイチゴなんてきっと超が付く高級品ですよ。あむあむ」
「どれも貴族相手なら金貨で買い取りそうな味だものね」
「クロ先輩の料理や甘味を毎日食べられるのは幸せですね。王妃さま方も帰るのが嫌そうでしたし、メイドさん方も料理を覚えていましたよ」
朝方までこの場にいた王妃やメイドたちを思い出し口にするルビー。メイドとして料理をする事はないのだが、クロに料理を教わり王宮でも食せるよう王妃二人からの命令で色々と教わり、城に帰っても楽しめるよう今頃はコック長を相手に実演している事だろう。
「お待たせ致しました。こちらがメロンになります」
綺麗に皮を剥きカットされたメロンを見たアイリーンはある事に気が付き視線をキッチンへ向け、まな板の上にはまだ半分ほど残されたメロンがあり、メリリはカットされたメロンの乗った皿を置くとスキップでキッチンへと戻り半分を片手にスプーンで大きく口を開け食し身を震わせる。
「あれでは近々ダイエット週間に入りそうですね……」
そう呟くのだった。
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