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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十四章 シャロンの子育て日記
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料理の宝箱とアレンジール王子



 先ほど降っていた雨も上がり、バルコニーへと足を運ぶ一行。

 王城ということもありバルコニーは広く取られそのまま屋上へと抜ける階段もありフィロフィロは走り出しそれを追うシャロン。クロも追おうとするがビスチェに後ろ襟を取られ「私が追うわ」と口にし、期待した瞳を向ける王妃たちの相手をしないさいと言わんばかりに親指でクイクイと指差しビスチェに任せて準備を始める。


「こうやって蓋を開けるとカットされた肉が乗った皿とトングにフォークやタレが入れられたボトルを取り、この編みの上で肉を焼きます。こちらのボタンを押すと網の下が温まりますので、手を翳して熱く感じたら肉を焼き始めます。基本時にこれらの宝箱には内蓋に説明書きがありますので目を通せば誰でも作れると思いますよ」


 料理ができる宝箱の説明をするクロに王妃たちは食い入りながら聞き、ハラミだろう肉を網に乗せるとジュゥーと心地の良い音が響きすぐに肉の焼ける香りが漂い始める。


「ただ肉を焼いている訳ではなさそうね」


「肉自体に下味が付けられていますから焼くと香りが立ちますね」


「この香りがダンジョン内で発生しては鼻の良い魔物に襲われる危険とかないのかしら?」


「それは大丈夫だとダンジョン神とダンジョン農法神が言っていたね~宝箱の周囲には魔物を近寄らせない効果があるし、食後には口臭を抑えるガムと呼ばれるもの噛むからね~食べられないけど口の中で味がなくなるまで噛んで最後は紙に包んで捨てるんだぜ~」


「服に付いた焼き肉の匂いは落ちませんが、冒険者ともなればそんな匂いを気にするような装備をしていませんよね」


「そうだぜ~僕はアイリーンに浄化魔法を掛けてもらうけど、一般的な冒険者は武器を手にしていれば油の匂いが染みつくし、革製品の鎧は臭うからね~何日もダンジョンに潜っていたら体臭だってきつくなるから、寧ろ焼き肉の香りの方が良い香りだぜ~」


「何日もお風呂に入れないと思うとダンジョンとかには潜りたくないですよね」


「それはあるね~アイリーンが設計したお風呂は最高だし、湯に浸かると疲れが取れてぐっすり眠れるからね~」


「あの岩風呂は確かに最高でしたわ。この城にも自慢の風呂がありますが、岩風呂は見た目も珍しくウッドチップなる香りが楽しめる木材が置いてありリラックスできましたわ」


「そろそろ焼けたかしら?」


 冒険者談義からお風呂の話へ脱線するが肉を裏返したクロへ顔を近づけるカミュール王妃。クロは近いなと思いながらも最初に裏返した肉を皿へ移す。


「こちらの焼けたお肉をタレに付けて食べてみて下さい」


「先に頂きますわね。あむあむ……」


 第一王妃リゼザベールとファラン王妃に断りを入れフォークで刺してタレに付け口に運ぶ第二王妃カミュール。口に入れ目を閉じて味を確かめ、自然と笑みを浮かべる。


「素晴らしいわね! 目の前で焼かれているだけあって熱々を食べられるのはもちろんですが、香ばしく焼き上がった肉にタレを纏わせると最高に美味しいですわ! 冒険者の方々は疲れた時にこれを食すのでしょうから、今よりも、もっと美味しく感じるはずですわね」


「そうですね。疲れた時に食べれば更に美味しく感じると思いますよ。他のも焼き上がったので王妃さま方もどうぞ」


 そういって立ち上がるとトングを近くにいた執事に渡したクロは、アイテムボックスからBBQ用のコンロを取り出しテキパキと準備を始める。


「こっちでも焼くからキャロットは涎を拭けよ~」


「わかったのだ!」


 焼ける肉を見て涎を流すキャロットにクロがBBQの用意をしたのである。


「これは美味しいわね。あちらでも食べた事のない料理を色々食しましたが香ばしさをこれほど感じる料理は他になかったわ」


「熱々の料理を口にできるのは素晴らしいですね。それにこの甘さのある肉は止まらなくなりますわ」


 王族であれば当然のように毒見役が入り熱々の料理を口にする事は少なく、目の前で焼かれ毒殺の心配がなく熱々を口に運ぶことができるのは幸せな事なのだろう。


「メイドからの報告を聞いたが楽しそうな事をしておるではないか」


「ファランとエイプリルがご迷惑を掛けてはいないかい?」


 対談を終えたルーデシス・フォン・ターベスト国王とアレンジール・フォン・カヌカ王子が屋上に現れ焼きたての肉を口に入れながらも両手を上げて喜ぶエイプリル王女。王妃二人は急いで口内の肉を飲み込み会釈をし、アリル王女とハミル王女もカーテシーで挨拶を交わす。


「まさかと思ったがやはりアレン坊だったか、久しいのじゃ」


 そう声を掛けるロザリアに振り向いたアレンジール王子は顔をあからさまに引き釣らせる。


「ろ、ロザリア姫……なぜ、ターベスト王国に……」


「うむ、少々縁があって来城しておるのじゃが、美しい妻と可愛らしい子を持てて幸せそうなのじゃ」


「そ、それはもちろんです。世界一の妻と子だと思っておりますが……」


 二人のやり取りに色々察した者たちは距離を取り、ファラン王妃とエイプリル王女は逆に距離を詰める。


「貴方、ロザリア姫と聞こえたのだけどローゼタニアのロザリアさまなの?」


「パパ、このお肉美味しいよ! クロが焼いてくれたの!」


 訝しげな瞳を向けるファラン王妃。それはと対照的に小皿に入れられたハラミを持ちアレンジール王子へと差し出すエイプリル王女。


「うむ、その姫で間違いないが今は冒険者として活動しておるのじゃ。それよりも折角エイプリルが肉を持って来たのじゃし、冷める前に食されよ」


「そ、そうだな。そうしよう」


 エイプリル王女から小皿を受け取り楊枝に刺さったハラミを口にするアレンジール王子は目を見開く。


「これはなんとも味わい深い……肉にはスパイスを使う事があるが、それ以上に肉の上手さを引き立てている……これはダンジョン産の調味料が使われているのだろうか?」


「うむ、詳しくはクロに聞くといいのじゃ」


「クロ? その者はターベスト城に勤めるコックなのだろうか? もしそうでないなら交渉し我が国へ」


「それはダメなのじゃ。クロを引き抜くにはエルフェリーンさまが絶対に許可などしないのじゃ」


「そうだぜ~どこぞの国王だろうが王子だろうが、クロは渡さないぜ~」


 ゆっくりと歩きながら口にするエルフェリーンの姿に、アレンジール王子はルーデシス国王との会談で注意された事を思い出しすぐに頭を下げる。


「よいか、我が国には絶対に逆らってはならん者が三人おる。一人は我妻リゼザベール。もう一人は第二王妃カミュール。そして、エルフェリーンさま。

 エルフェリーンさまには建国からこの国を支えてもらい、流行り病の特効薬や我が国に巣食う魔族を滅して貰った恩もある。更にはハミルの呪いを解呪し、アリルとハミルが精霊と契約したのもエルフェリーンさまの御助力によるものだろう……

 よいか、絶対にエルフェリーンさまには逆らわないで欲しい……これはこの国の国王としての言葉ではなく一人の男としての助言だ……

 最後になるが噂ぐらいは知っておろう? 帝国潰しという異名を……」


 顔を青くしたアレンジール王子はすぐさま頭を下げて口を開く。


「知らなかったとはいえ、申し訳ありません。自分はこの料理が我が国の名物となれば昨今の金融危機が救えると……」


 急に頭を下げられたエルフェリーンはキョトンとした表情を浮かべ、「それでしたら簡単な作り方をお教え致しますよ」と口にするクロ。


「ほ、本当ですか!?」


 そう声を上げたのはファラン王妃であり、顔を上げたアレンジール王子は自体が終息した事に胸を撫で下ろし、エイプリル王女は両手を上げ跳ねて喜ぶのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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