エイプリルとその母とアイアンアント
魔道駆動の保管はエルフェリーンがアイテムバッグを貸しその中に入れ保管する事となり、クロがアイテムボックスのスキルを使い取り出しメイド長が軽々とバッグへと入れる。その間にもエイプリル王女はキャロットたちとお菓子を口にして笑顔で皆を癒し、仲良くなったアリル王女やハミル王女と姉妹のような笑みを浮かべている。
「子供はすぐに仲良くなれて良いわね~」
「まったくですね。それにあの笑顔……王宮での暮らしには必要な癒しですわね」
王妃二人は子供たちの笑顔を見つめ、メイドたちも同じように癒されながら給仕を進める。
「白亜を見て驚かなったのか?」
クロが疑問に思っていた事を口にすると白亜は首を傾げキャロットが口を開く。
「白亜さまが見つけたのだ! ウロウロしてたのを見つけて白亜さまに近づいてきたのだ!」
「エイプリルさまから近づいて来たのか」
「はい、ドラゴンは可愛いです」
お菓子を飲み込んだエイプリル王女がそう口にすると白亜の尻尾が左右に振れ喜んでいる事が窺える。
「カヌカ王国は竜を崇拝しているからね~僕も昔ドランたちと一緒に行った事があるけどドランがモテモテだったぜ~ドワーフの国と近くてドワーフから鱗を売ってくれとせがまれていたね~あの時はドランが早く出発しようと毎日言っていたよ~」
肩を揺らしながら話すエルフェリーン。キャロットも自身の祖父の出来事にケタケタと笑い声を上げる。
「ドランさま!? ママがお話してくれた英雄さまです! 大昔にアリ退治をしてくれた英雄さまです!」
キラキラした瞳をエルフェリーンへ向け大きな声を上げるエイプリル。片や首を傾げるエルフェリーン。
「ドランがアリ退治? あったかな……」
「その話は我も知っておるのじゃ。エルフェリーンさまとドランさま方がカヌカ王国の採掘場に巣食ったアイアンアントと数種類の亜種を討伐したと爺さまから聞いたのじゃ。ミスリルアントが数種確認されカヌカ王国が繁栄する切欠になったと自慢げに話しておったのじゃ」
ロザリアからの言葉に思い出したのかハッと顔を上げるエルフェリーン。
「あったね! そんな事もあったよ! アイアンアントの群れの中でも輝きが違う個体がいて、シルバーアントやゴールドアントなんてものいてね~クイーンアントは一軒家ぐらい大きなサイズで驚いたな~」
思い出すように語るエルフェリーンに顔を引き攣多らせるクロやメイドたち。逆に尊敬の瞳を向ける者もいるが王女や王妃は引いていた。
「家ほどの大きさとか、もう絶望だろ……」
「そこはドランが頑張ったぜ~クイーンアントと殴り合いの喧嘩だったね~あの頃のドランはまだ若くて今よりも腕力が強かったからね~」
「エルフェリーンさまも英雄さまなの?」
遠い目をしていたエルフェリーンの前に歩きながら興味深げに見つめるエイプリル。
「エルフェリーンさまは流行り病のお薬も作ってくれた英雄さまです!」
「ふわぁ~凄いです! 英雄さまです!」
「それにクロさまも英雄さます。ダンジョンを単独突破し、マヨをこの世界にもたらした英雄さまです! 他にも玉子の有用性やフレンチトーストの素晴らしさに、先ほど食べた美味しいお菓子も作れる真の英雄です!」
アリル王女がエルフェリーンの偉業を伝え歓喜するエイプリル。ハミル王女はクロを持ち上げるが後半の方が力の入った説明、というか演説に近い声を上げる。
「確かにクロの用意してくれたお酒は英雄といって差し支えないわね」
「実際にドワーフの国王が自らこの地へクロを尋ねに来たのじゃ……」
「クロは凄いのだ! どんなお肉も美味しくするのだ! クロに任せれば大丈夫なのだ!」
第一王妃リゼザベールにロザリアとキャロットから褒められ「どんな英雄だよ……」と口にするクロ。その横でなぜかドヤ顔をするビスチェ。白亜も嬉しそうに尻尾を揺らしながらクロの膝の上によじ登り甘えた鳴き声を上げる。
「お願いがあるのです! パパとママを助けて欲しいのです!」
和やかな空気を引き裂くような必死さの籠った声を上げるエイプリル王女にエルフェリーンは優しく問いかける。
「パパとママを助けるのかい? 何があったか詳しく話せるかな?」
エルフェリーンの問いかけにコクリと頷くエイプリル王女。
「それは私から説明させていただきますわ」
サロンの入り口にはドレス姿の女性と先ほどサロンを出て行った執事の姿があり、この人がエイプリル王女の母親なのだろうと推測するクロ。
「ファラン・フォン・カヌカと申します。この度は娘を保護して下さりありがとうございます」
改めて頭を下げるファラン王妃にクロたちも頭を下げる。が、保護というよりも拉致ではなかろうかと思うクロ。キャロットが見つけて保護して遊んでいたといえば聞こえがいいが、一国の王女を肩車して勝手にサロンへ連れ込んだとすれば不敬に……
「いいのだ! エイプリルとはもう友達なのだ!」
「はい、友達です」
「私も、私も!」
キャロットの横に座るエイプリル王女は微笑みを浮かべながら話し、手を上げて叫ぶアリル王女。ハミル王女はマヨのこと以外はそれなりに空気が読めるようで大人しく座り、王妃二人は肩を揺らしながらアリル王女の子供らしさを愛でている。
「実はひと月ほど前からアイアンアントが確認され鉱山の採掘が停止し、近隣の村では家畜が襲われる被害が出ており冒険者やドワーフに助力を求めたのですが……王太子の婚約を祝いそれに必要な武具の製作に国を挙げてしているとかで……」
「うむ、昔からドワーフの王族が結婚する際には国を挙げてコンテストが開かれるのじゃ。剣、槍、斧、鎧、盾と美しい武具を国中から募り品評し、優秀な武具を国に治めるのじゃが……」
「はい、その制作に集中しておりドワーフの冒険者から依頼を受けてもらえず、人族や亜人たちの冒険者もアイアンアントでは分が悪いと……」
「アイアンアントは鉄のように硬い甲殻に加え、ギ酸と呼ばれる酸を吐くからね~並の冒険者なら一匹をチームで相手するから巣穴の討伐とか無理だよ~」
エルフェリーンが言うようにアイアンアントは鉄が採掘される鉱山などに巣を作り繁殖をする。その 際に鉄を食べ自身の甲殻に鉄を浸透させ強固な外装を纏うのである。サイズも一匹が大型バイクほどの大きさであり強靭な顎は鉄すらも嚙み砕く力を持ち、ギ酸も強力で鉄製品に振れれば腐敗を促し、目に入れば失明する危険もある。鉄製の剣で戦うことを想定するなら一匹に数本は必要になるだろう。
「無理なのですか……」
ウルウルとした瞳を受けるエイプリルにエルフェリーンは優しく頭を撫でながら口を開く。
「並の冒険者では無理かもしれないけど、僕は超一流の冒険者だからね~それに君が仲良くなったキャロットはドランの孫娘だぜ~英雄と呼ばれるドランを超える日も近いかもしれないね~」
目を大きく開きキャロットへ振り返るエイプリル。キャロットは大きく身を反らせ「任せるのだ!」と口にすると、エイプリルはその胸に走り飛び込む。
「キャロット! ありがとーーーーー」
鳴きながら叫ぶエイプリルにキャロットはアタフタするが、隣に座るアリル王女に優しく撫でられ二人で視線を合わせて笑顔を浮かべる。
「本当にありがとうございます……」
ファラン王妃が深く頭を下げ良い雰囲気に場が治まったが、クロは思う。
アンデットならまだしも、アイアンアントとか俺には無理だろ……と。
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