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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十四章 シャロンの子育て日記
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幼女を拾ったのだ



 国王が宰相と近衛騎士に運ばれるのを笑いながら手を振るエルフェリーン。クロは呆れ顔の執事の男に一礼すると咳払いをして皆を案内しながら城の中へと足を進める。


「国王さまも大変ですね」


「そりゃそうだよ~一国を預かるのは大変だぜ~僕も少し前に手伝ったけどアレは地獄だね。印を押すだけの簡単な仕事とかそそのかされて大変な目に遭ったよ……」


「ママもおさを継ぎたての頃は、いつも疲れた顔をしていたわ。数年で手を抜くことを覚えたのか逃げ出すようになったけど……」


「我も気持ちが理解できるのじゃ……国に仕えるということは自分を殺し民に仕えるということ……今のような好き放題できる方が楽だし楽しいのじゃ」


 それぞれトップの気持ちが分かるエルフェリーンにビスチェとロザリアが口を出し、クロは自分には絶対に王さまには無理だろうと腕組みをしながら思案し、到着した王族専用のサロンで女神の小部屋の入り口を発動させる。


「あの、到着しましたが……」


 声を掛けると卓を囲み麻雀をしている王妃二人とメイド長に専属メイドの一人。アリル王女は到着したという声に目を輝かせ走り出しそれを追うハミル王女。


「キャロットと白亜にお城を案内するのです!」


 クロの横を抜け叫ぶアリル王女は目を輝かせるキャロットと白亜を連れ部屋を出て行き、それをおうハミル王女。更に二人の専属メイドが後を追い「迷惑かけるなよ~」と叫ぶクロ。


「ピィッ」


 クロの声に目を開き辺りをキョロキョロさ目覚めたフィロフィロはシャロンに撫でられ目を細める。


「ロン! これで逆転して南入ですわ!」


 第二王妃カミュールの声にまだまだ麻雀が続くと判断したクロは、女神の小部屋の入り口を開けたまま放置しソファーに腰を下ろす。


「お茶のご用意を致します」


 深く一礼した執事とメイドたちにクロは会釈を返し、それならお茶請けをとアイテムボックスに入れてある洋菓子や和菓子をテーブルに広げた所でひそひそと話すメイドたちの声に「あの、よかったら皆さんでお召し上がり下さい」と適当に個包装されている箱を選び近くにいた執事へと渡す。


「これはご丁寧に感謝いたします」


 執事の表情が微笑みへと変わり、お茶の用意をするメイドたちも気持ちスキップしているような身軽さが見て取れ微笑むクロ。


「ふぅ~ん、やっぱり胸の大きなメイドたちが好きなのねぇ~」


「うむ、クロの視線は大きな胸に釘付けなのじゃ……」


「あはははは、クロも男の子だからね~」


 ビスチェとロザリアからは軽蔑の視線を受け、エルフェリーンは笑顔を崩さず口にしながら和菓子の包装紙をビリビリと破り、メルフェルンは自身の胸に手を当て眉間に深い皺を作る。


「酷い言われようだな……」


「そりゃそうだよ~女の子はみんな嫉妬深いんだぜ~クロはみんなに優しくするから嫌味のひとつも言いたくなるのさ」


 小さく呟いたクロに笑顔を見せながら開封した最中を手渡すエルフェリーン。ビスチェは顔を赤く染め、ロザリアはニヤニヤとクロを見つめ、メルフェルンは鬼の様な形相を浮かべる。


「お熱いのでお気を付け下さい」


 メイドたちから紅茶が振舞われ個包装された最中もなかを口に含むクロ。ややくどい甘みと口内の上に張り付いた皮に、最中を食べているなぁ~と思っていると執事と視線が合い最中をひとつ進める。


「自分たちだけで食べるのは少し気まずいので、おひとつ如何ですか?」


「有り難く頂だい致します。先ほどから木片のように見える不思議な食べ物に驚いておりましたが……濃厚な甘さは紅茶とよく合いそうです」


 クロから受け取った最中を口に入れ表情を溶かす執事。


「うんうん、少し甘すぎる気もするけどまわりがパリパリして美味しいね~メイドさんたちも良かったら食べてくれよ~」


 最中が入った箱を差し出すエルフェリーンにメイドたちからは歓声が上がりキャッキャと集まってはひとつ取り開封して食べ始め、執事は素早く食べ終えると紅茶を入れに動きメイドたちの分も用意し始める。

 本来なら客の前で執事やメイドが飲食を共にするようなことはないのだが、王家が頭の上がらないエルフェリーンから勧められては断るのも失礼にあたると判断し、執事が食べたのなら私たちもとメイドたちは最中を口にしたのである。


「うふふ、私の一人勝ちでしたわ」


「最後に箱るなんて……」


「メイド長が上がる時はどうして毎回裏ドラが乗るのかしら……」


「やっぱり私は将棋の方が肌に合っていますわ……」


 麻雀を終えた王妃たちが現れホクホクした笑みを浮かべるメイド長。どうやら彼女の一人勝ちのようで王妃たちは俯きながらソファーへ腰掛け、執事は紅茶を追加で用意する。


「魔道駆動はどこに出しますか? 重さがあるので保管場所に運びますが」


 クロが付いてきた目的のひとつであるレーシングカートの動力部の搬入を申し出ると第一王妃リゼザベールは顔を上げ曇っていた表情が一瞬にして変わり笑みを浮かべながら顎に手を当て搬入場所を考え、紅茶を配り始める執事。


「そうね……価値を考えれば宝物庫に入れた方が……でも、すぐに鍛冶師たちに説明しなければ……」


「一度宝物庫に入れると書類が面倒ですものね」


「入るだけでも陛下と宰相のサインを求めなければなりません。これは王妃様でも従っていただきます」


 メイド長が第一王妃リゼザベールへ釘を刺し眉間に皺を寄せて考え込み、あまりレーシングカートに興味がない第二王妃カミュールはテーブルの上に広げられた菓子を口に入れる。


「ここに来る前に鍛冶師に説明してくれば良かったね~あむあむ」


 お気楽にクッキーを口にするエルフェリーン。


「ルビーの叔父に頼めばといってたのじゃ。腕は確かなのじゃろう?」


「ドワーフの武器屋なら任せて問題ないね~設計図と材料も持ち込みだから余程腕が悪くなければちゃっちゃっと作ってくれるよ~このクッキーは美味しいね!」


「うむ、ナッツの風味がよいのじゃ」


「私はこっちのお菓子がいいわね。葉の形をしてるのが面白いし、中の餡も甘すぎなくて食べやすいわ」


「シャロンも食べるか? 欲しいのがあったら取るぞ」


「いえ、僕は大丈夫です。それよりもキャロットさんと白亜ちゃんが迷惑を掛けてないかが少し心配で……」


 アリル王女と共に走り去ったキャロットと白亜を思い出し、確かにと思うクロ。そんな心配をしているとアリル王女とハミル王女を両手で抱き上げたキャロットが戻り、背中には白亜を付け、肩車される見知らぬ幼女が一人増えていた。


「拾ったのだ!」


 元気な声がサロンに響き皆の視線を集め肩車された幼女はキャロットの角を確りと握りキャッキャと笑っている。五歳ぐらいの幼女はヒラヒラとしたドレス姿でどう見ても貴族といった装いに拾ったは嘘だろうと思うクロ。


「えっと、まずは王女さま方を降ろそうか」


「わかってるのだ! 走り回って疲れたから抱っこしたのだ! 褒めてもいいのだ!」


 両腕からハミル王女とアリル王女を下ろし白亜も空気を読んで背中から離れ、肩車する拾った幼女を丁寧に下ろすキャロット。


「楽しかったの! ツノのお姉ちゃんありがと!」


「楽しかったのなら良かったのだ! あっちに甘いのがいっぱいあるのだ!」


 幼女の手を引きテーブルへと走るキャロット。面倒見の良さがあるのはいいが、どうしたものかと執事へ視線を送るクロ。


「あのお姫さまは陛下と今対談されておられるカヌカ王国のアレンジール王子のお子様であるエイプリルさまでございます。私がこの事を伝えて参りましょう」


 一礼をしてサロンから退出する執事。


「ふわぁ~おいひい~あむあむ」


「こっちも美味しいのだ!」


「キュウキュウ~」


 魔道駆動の保管場所の話を忘れ、子供たちの笑顔に癒される大人たちなのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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