いざ王都へ
「このようは魔法があるとは驚きね」
「完全な自分の部屋を作れる魔法とは便利で羨ましいわ」
「この部屋ならこっそりとマヨが楽しめますね……」
「女神さまがいっぱいです!」
女神の小部屋に入った王妃と王女たち。メイドたちも中へと入るとエルフェリーンの転移魔法で王宮へと向かうクロ。
雨季に入り王都は雨だろうと予想したエルフェリーンからの提案で女神の小部屋へと非難させ寛いでもらいながら王宮まで送る手筈となっている。内装も若干改装し、ソファーとテーブルを数個設置し温かいお茶が振舞われている。
「フィロフィロも獣魔登録をするから良い子にするんだよ」
「ピィ~」
シャロンに抱かれ嬉しそうに声を上げるフィロフィロ。その横でキャロットに抱きつき私も良い子にしていると甘えた鳴き声を上げる白亜。
「白亜さまも良い子なのだ! 私も良い子なのだ!」
「そうだな。最近のキャロットと白亜は手伝いもしてくれるよな」
自然にキャロットと白亜に手を伸ばして頭を撫でるクロ。撫でられた一人と一匹は目を細める。
「こうやって見ていると本当に父親ですね~」
「ああ見えてもキャロットはドラゴニュートの中では成人しているのよ。中身が子供なのかもしれないけど……」
後ろから聞こえるアイリーンとビスチェの声を聞き流すクロ。アリル王女を庇い抱き締めた姿をアイリーンに冷やかされた事もあり耳に入れないようにしている。
「それじゃあ、行くぜ~」
エルフェリーンの転移の魔法で王都へと向かうのであった。
王都の門が見える位置まで転移したクロたちは雨のなかを進み長い列を並ぶと、先に並んでいた商人の男に声を掛けられる。
「あの、ひとつ宜しいでしょうか? その半透明な服はいったい……」
「レインコートなのだ!」
「キュウキュウ~」
クロが答える前にキャロットと白亜が口にし、お気に入りのレインコートを自慢したいのかその場でクルクル回って見せる。
「ほお、水を弾く素材で作り、手が空いているのも便利ですね。それに黄色い靴も高さがあって仲間で水が入らない……素晴らしい! その商品はこの国の物なのですか? これは仕入れた方が……」
「レインコートはこの国では扱ってないぜ~これはクロが作ってくれてからね~」
エルフェリーンも白亜とお揃いの黄色レインコートと長靴を装備しており笑顔で口にし、商人はあからさまにガックリと肩を落とす。
「前が進みましたよ」
「お、ありがとうございます。その、手にしている不思議な雨避けも売っていないのですか?」
「これですか? えっと、入手先はすみません、お答えできません」
クロとビスチェとメルフェルンが差している傘を指差す商人にクロが魔力創造で創り出したとはいえず頭を下げるクロ。
「近い商品を見た事はありますが、透明な布を使う事で視界が保てるのは素晴らしいですな……」
そう呟きながら馬に引かせた荷車に手を置き先に進む商人。商人もレインコートのような服を着ているのだが撥水性が落ちているのかどう見ても重そうな印象を受ける。
「シャロンは寒くないか?」
シャロンは傘を使わずレインコートを着てその中でフィロフィロを抱いている。ちなみにフィロフィロにはブランケットを巻きお昼寝中である。
「フィロフィロが温かいので大丈夫ですよ。馬車が来ますね」
高い城壁に囲まれているターベスト王国の王都では入口と出口は少し離れた位置にあり入場する者を厳しく監視している。近隣の村や国から多くの商人が来ることもあり入国審査で発生する渋滞緩和を目的としているのだが、その馬車は入口に並ぶ者たちの横を通りこちらへ向かって来る事に違和感を覚えたシャロン。
「キャロットも危ないから道の端に避けような」
「わかったのだ!」
クロがキャロットの背中に自然と手を添え未知の端へと誘導する。するのだが、馬車は真横で停車する。
「エルフェリーンさま! お待ちしておりました!」
御者していた男が大きな声を上げ並んでいた者たちが一斉に振り返り、前を進んでいた商人も驚きの表情で目を見開いている。
「もう一週間経つからね~王さまが心配しているのかな?」
「それもありますがこの雨です。風邪を引かれてはターベスト王国の恥となります。どうぞ御乗り下さい……あの、王妃さま方はどちらに?」
王妃や王女にメイドたちがいない事に頭を傾げる御者。
「それは後で説明するけど三台も馬車を連れて来て……ああ、それなりの人数が来るから三台も馬車を寄こしてくれたのか」
「はい、その通りなのですが……このまま城へとお送りしても宜しいでしょうか?」
「うん、宜しく頼むよ~」
笑顔で了承するエルフェリーン。本来なら専属メイドが馬車内を確認し王妃たちが乗り込むのだが、その王妃たちと専属メイドがおらず馬車のドアはキャロットが開けご機嫌で一番乗りし、他の者たちが中へと続く。
そんな姿を目にしたレインコートを欲しがっていた男は伝説的な錬金術師が馬車に乗り去って行くのを見つめるのであった。
雨が降り続いている事もあり街中は閑散とし、屋台街に入ってもあまり人を見かけることはなく祭りの時との違いに寂しさを感じているとビスチェが盛大なクシャミをし笑いに包まれる馬車内。
「ほら、使えよ」
クロが差し出したテッシュを受け取るビスチェ。エルフという美人顔から垂れる鼻水のギャップに笑いを堪えながら渡し、ビスチェも恥ずかしいのか頬を染めながら盛大に鼻をかむ。
「ありがと、人がいないから馬車もスムーズに進むわね」
「祭りの時の人出が頭にあるから寂しく感じるな」
「あの時は多くの人が祭りを楽しんでいたからね~この前来た時はドワーフがいっぱいで驚いたけど」
酒を求め国王自らがこの街へと足を運び多くの兵士たちが屋台で酒を飲んでいた事を思い出すクロ。
「ドワーフは酒に目がないと聞きますが、王自らが動き交渉に現れたのですよね?」
「あの時は驚きましたが、王さまも天界へ行って驚いていましたね」
「天界……クロさん、フィロフィロを連れてくるように言われたのですよね? フィロフィロに何か問題が……」
膝の上で眠るフィロフィロを優しく手で包んでいたシャロンの細い声に、クロは笑みを浮かべながら口を開く。
「愛の女神フウリンさまがフィロフィロを撫でたいだけだと思うぞ。アリルさまやハミルさまも抱きしめて撫でていたし、可愛いもの好きなんだろ」
「へぇ~クロはアリルやハミルが好みなのね~」
「いやいや、愛の女神フウリンさまの話だろ。この前もアイリーンにいじられて傷ついたのに……はぁ……」
大きなため息を吐くクロ。そんな話をしているうちに城へと辿り着いた馬車はゆっくりと停車しドアが開かれ一番に降りるキャロット。
「着いたのだ!」
「キュウキュウ~」
雨にもかかわらず騎士たちが整列し、その奥では国王が宰相の男に背中を羽交い絞めにされ止められている姿を目にしたクロは顔を引き攣らせ、エルフェリーンやビスチェは肩を震わせる。
「ええ~い、放せ! 我は妻たちの顔を見るまで仕事などせん!」
「王妃さま方との仲が良いのは素晴らしい事ですが、来客がいる時はそちらを優先してもらわないと困る! 遠くから態々出向いて下さったのに無碍に扱われたと思われてはこの国の印象が悪くなる!」
大声を上げる両名の横で大きなため息を吐くダリル王子はクロを視界に入れると二人の事など忘れ走り出すのであった。
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