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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十四章 シャロンの子育て日記
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一週間後



 王妃たちが来てから一週間ほど経過するとメイドたちはクロの料理を自然と手伝うようになり、キッチンでは多くのメイドが腕を振るっている。


「なるほど、こうやって水で接着するのですね」


「具を入れ過ぎてしまうと包むのに苦労しますね」


「見て下さい! これは上手くできました!」


「話しながらやればすぐに終わりますね」


「うふふ、この餃子と呼ばれる料理は焼いても揚げても煮ても美味しいのですよ。クロさまのいた世界の料理はどれも美味しいのですが、この餃子は群を抜いています」


 キッチンテーブルではメイドたちが餃子を包みながら会話を弾ませ、クロは夕食の準備をしながら居心地の悪さを感じつつもかしましく手伝うメイドたちに感謝していた。


 あれだけの人数が満足する量を作るとなると、ひとりで二時間は餃子しか作れないよな。市販品を魔力創造してもいいがやっぱり手作りの方が美味しく感じ……ん? フィロフィロ?


 クロの足元へやって来たフィロフィロは鳴き声を上げずに足に頬を擦り付ける。先ほどまではシャロンと一緒に昼寝をしており先に起きてクロの元へとやって来たのだろう。


「後は煮るだけだし、ほら、おいで」


「ピィ~」


 膝を折りフィロフィロを抱き上げると嬉しそうに鳴き声を上げ、クロはキッチンを離れリビングへと足を進める。

 リビングには麻雀を打つエルフェリーンにルビーと第二王妃カミュールとキュアーゼの姿があり、更に奥の炬燵エリアではハミル王女とアリル王女にロザリアと小雪がお昼寝中である。


「くっ!? 王手飛車取りとは姑息な!」


「あら、先ほど私の角を取ったお返しですわ」


 将棋盤を囲むのはアイリーンと第一王妃リゼザベール。他の者たちは麻雀に嵌っているが第一王妃リゼザベールは将棋の方が正確にあっているのか相手を誘い誰かしらと将棋を指している。


「アイリーンが押されているな」


 盤上へ視線を移したクロが呟くとアイリーンから睨まれ口を閉じ、フィロフィロの喉を人差し指で撫で上げる。


「フィロロロロロ~」


 目を細め心地の良い鳴き声を上げるフィロフィロ。アイリーンは王を逃がし飛車が取られるが、タダでは取らせないと角を指す。


「王手!」


「そんな付け焼刃の王手など……ん? んんん!? これも距離があるけど王手飛車取りっ!?」


 まったく同じ手を受け驚愕する第一王妃リゼザベール。片やアイリーンは口角を上げしてやったりの表情を浮かべる。


「帰ったのだ!」


「キュウキュウ~」


「ふぅ、雨が続くと排水の溝が詰まって大変だわ」


 キャロットと白亜にビスチェが屋敷へ戻りクロが以前魔力創造で創造したレインコートを脱ぎ、白亜は黄色い長靴を脱ぐとクロの元へと走る。


「今日はビスチェの手伝いをしたんだな」


「キュウキュウ~」


「水が流れる小さな川を作ったのだ!」


 キャロットもクロの元へと向かい手伝った事をアピールし、その後ろでビスチェはドヤ顔をしながら仁王立ちである。


「えっと、少し早いがお風呂を沸かすか」


「そうね! その前に温かい物が飲みたいわ!」


「ココアがいいのだ!」


「キュウキュウ~」


 クロの提案にビスチェが乗りキャロットがココアを所望し白亜が尻尾を振る。


「フィロフィロを頼むな~」


 ビスチェにフィロフィロを渡すとキッチンへ向かい、キャロットは風呂場へと走りお湯の用意をはじめ、白亜はココアが待ちきれないのかキッチンカウンターへ向かう。


「白亜ちゃんも帰ってきましたね~もう少しで完成しますから夕食は楽しみにして下さいね~」


 メリリの言葉にコクコクと頭を上下させる白亜。その目にはメイドたちが餃子を作る姿が写り、以前食べた餃子を思い出し尻尾が自然と左右に揺れる。


「こっちはもう煮えたな。ココアは他の人たちも飲むだろうし、師匠たちにも持って行くかな」


 お湯を沸かしながら弱火で煮ている鍋を確認するクロ。蓋を開けたことで香りがキッチンに広がりメイドたちからの視線を背中で感じつつも蓋を閉じ竈から下ろし、マグカップを複数用意し粉末のココアを入れる。


「餃子もすべて包み終えました~」


 アルベルタの声に振り返ったクロは「ご苦労様です。ココアを入れますが飲みますか?」と声を掛けメイドたちから歓声が上がり、アイテムボックスのスキルで包み終えた餃子を回収しマグカップの用意を増やす。


「ふふ、フィロフィロは可愛いわね~ほらほら、喉を撫でられるのが好きなのね~」


「フィロロロロロ」


 ビスチェがフィロフィロを抱き締めたまま白亜の隣に腰を下ろして喉を優しく撫で、白亜の興味は喉を撫でられているフィロフィロへと移り目をパチパチさせ笛のような鳴き声に耳を傾ける。


「白亜の声も可愛いけど、フィロフィロも鳴き声も可愛いわね。小雪はもう可愛いよりも勇ましくなっちゃったわ」


「それはありますね~出会った頃はこんなに小さく守るべき存在だったのに、今では立派なフェンリルちゃんです」


 将棋の対局を終え笑顔でビスチェの横に腰を下ろすアイリーン。その後ろではひとり将棋盤とにらめっこし考察を続ける第一王妃リゼザベール。


「フェンリルはすぐに大きくなったわね」


「環境の違いなのだ! 白亜さまは古龍エンシェントドラゴンなのだ! 強い種は大きく育つまで時間が掛かるのだ!」


「フェンリルも十分強いと思うけどな~ほい、ホットココア。熱いから注意してな」


 キッチンカウンターに集まった乙女たちにココアを配ると、その足でエルフェリーンたちが囲む麻雀卓へ向かいココアを振舞うクロ。メイドたちには作り方を教え各々で息を吹きかけ熱々を口にしている。


「ん……甘い匂いがするです……」


 ココアの匂いで目を覚ましたアリル王女が身を起こしキョロキョロ視線を走らせ、クロが何かを配っている姿を見つけると大きな欠伸をして立ち上がる。まだ眠いのか目を擦りながら歩くアリル王女に小雪も起き上がり歩幅を合わせ転ばないよう見守りながら皆に起きたと伝えるように小さく吠える。


「わふぅ」


「アリルさまが起きたようですね」


「うん……甘い匂い……」


 ココアを配り終わったクロが近くへ向かうと両手を上げて抱っこを求め、クロは自然と抱き上げると笑みを浮かべるアリル王女。その横では小雪が尻尾を揺らす。


「アリルさまもココアを飲みますか?」


 その言葉にパチリと目を大きく開け「飲む!」と声を上げるアリル王女。どうやら以前に飲んだココアの味を思い出したのだろう。


 そのやり取りを聞いていたアルベルタはキッチンで手早く用意をすると主へと届けるべく動き出す。


「ロン!」


 ゆっくりとした時間が流れるなかエルフェリーンがフリテンであがりが無効になり口を尖らせ、その隙をついた第二王妃カミュールが手早く安手であがり親が流れ涙目のエルフェリーン。


「ううう、一色に揃えると待ちが多くてわからなくなるよ~」


清一色チンイツは並び方を変えるとわかりやすいのですが、慣れないと違う待ちがある事に気が付かないことありますね」


 エルフェリーンをフォローするクロ。そこへアルベルタがココアを持って現れ、椅子の足に足を引っかけ転び、宙を舞う熱々のココア。


 クロは抱っこしていたアリル王女を守ろうと体を捻り蹲り背中を襲うだろう熱さに身構える。


「も、申し訳ありません!」


 アルベルタの謝罪の言葉がリビングに木霊する。


「気を付けなきゃダメだぜ~でも、これでフリテンの失態も取り戻せたかな~」


 笑顔のエルフェリーンは手を翳し、その先には半透明のシールドが張られクロを覆うように守りシールドからはココアが滴り湯気が上がる。


「ロリコンはそのまま動かないで下さいね~浄化の光よ~」


 アイリーンが早口で日本語で声を掛け浄化魔法を使用し床を汚したココアを浄化させるが、立ち上がったクロは掛けられた言葉に顔を引き攣らせながらアリル王女をゆっくりと着地させるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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