それぞれの卓
麻雀が『草原の若葉』で広まり二日が経過すると自然と卓を囲む時間が増え、朝食後には面子を募集し麻雀を打ち、昼食後には面子を集め麻雀を打ち、夕食後には麻雀を打ち交流を深めている。
「ここまで流行るとは思いませんでしたが、皆さん楽しそうですね~」
「少しのめり込み過ぎている気もするが、楽しそうなのは確かだな」
昼食の片づけを終えたクロとアイリーンの視界には四つの麻雀卓が稼働している。
ひとつは第一王妃リゼザベールと第二王妃カミュールにロザリアとキュアーゼの高貴な雰囲気を醸し出す麻雀卓。優雅さのある仕草でマージャンを打ち日常会話もどことなく優美さが滲み出ている。
もうひとつはメイドたちが集まり卓を囲み最近食べた料理の感想を言いながら打つ麻雀卓。メイド同士で先輩後輩はあるが基本的に仲が良く勝っても負けても楽しもうという乙女たち。ちょっとしたミスも多いが見ていて楽しい卓だろう。
更にもうひとつは残った者たちが打ちビスチェとメイド長にメリリとメルフェルンが卓を囲む。ビスチェが上級者で、それに並ぶ勢いで成長したメイド長。メルフェルンとメリリはまだまだ新人といった感じだが、メリリには生まれ持った運があるのかツモが良く一発で上がりメルフェルンが最下位になる事が多い。
最後の卓はキャロットと白亜にアリル王女とハミル王女が遊び、麻雀というよりも積み木といった方がしっくりくる子供たちの集まりである。どれだけ高く積めるかや、神経衰弱に、ピラミッドのような形に積み楽しんでいる。他にもトランプを使ったババ抜きなども行い楽しい時間を過ごしている。
「師匠たちももうすぐ魔道駆動を作り終えると言っていたから麻雀に参加するだろうな」
「そうなるともう一卓用意した方がいいですね~七味たちも上から見てやり方を覚えているみたいですよ~」
「それならもう二卓増やそうか」
そう口にしながら麻雀用のマットと麻雀牌を入れたバッグを魔力創造するクロ。
「ピィーピィー」
フィロフィロの鳴き声に視線を向けると、お気に入りのハンモックに足を入れシャロンに揺らされブランコ気分を楽しんでいる。
「シャロンくんとは打たないのですか?」
「ルールは見て覚えているだろうかアイリーンが誘ってやれ。その間は俺がフィロフィロの面倒を見るからさ。師匠とルビーが来たら一緒に卓を囲めばいいだろ」
エルフェリーンとルビーは第一王妃リゼザベールのお願いを聞きレーシングカートのエンジン部分である魔道駆動を製作している。実際にエンジンを作っている訳ではなく魔力を流すと回転するギアを作り、魔力の強弱で速度を変化させるエンジン部分といって差し支えない効果をもたらすギアを製作しているのである。
ついでに一台製作し基本的な作り方をまとめた設計図も付ける予定で王都の技術者たちでも問題なく作ることができるだろう。
「先にシャロンくんを誘ってルールを教えながら二人で打つのもいいですね~クロさんと二人で打つところを私は見たいですけど~腐腐腐……」
「その笑い方をしている時はろくでもない事を考えていそうだが……ああ、俺はみんなにお茶でも入れてくるよ」
逃げるようにキッチンへ退避するクロ。その後姿を見送りながらゆっくりと膝を付き床に両手を付くアイリーン。
小さな願望が音を立てて崩壊するのであった。
「フィロフィロは良い子だな~」
「ピィ~」
「あはは、使ったら片付けないとダメだよな~」
「ピィ~」
エルフェリーンとルビーがレーシングカートの心臓部を完成させリビングの麻雀に混ざりシャロンとアイリーンを加えて卓を囲み、クロはフィロフィロと遊びながら落ちている牌を集めていた。
牌が落ちている原因は子供たちの卓近くでクロとフィロフィロの声を聞き、アリル王女はすぐに牌を拾いに動きフィロフィロと同じように撫でられたいのかクロの元へ持って行き頭を差し出す。
「私も拾いました! 良い子です!」
「アリルさまも良い子ですね」
「わ、私も良い子にします! 良い子にしますのでマヨ料理を所望します!」
ハミル王女も同じように動き目を輝かせ願望を口にし、キャロットと白亜は視線を合わせ頷き合い落ちている牌を集め始める。
「肉なのだ! 大きな肉が食べたいのだ!」
「キュウキュウ~」
あっという間にリビングの床に転がっていた牌が集まり遊びながら掃除を終えるとメイドたちの卓から歓声が上がる。
「う、嘘……こんなのって……」
「ありえない! 偶然配られた牌で……」
「これだから運が強い子と組むと損するのよ……」
「えへへ、これって天和ですよね! はじめから七対子ができてました~」
三名の専属メイドが頭を抱えるなかアリル王女の専属メイドであるアルベルタが役満をあがり笑みを浮かべる。その光景に他の者たちも集まり初めて見る天和に自然と拍手が巻き起こる。
「アルベルタの日頃の行いがあがらせたのね! 私も初めて見たわ!」
「親に配られた牌だけであがるとは驚きなのじゃ……」
「これをされては誰も勝てないね~君は凄いなぁ~」
ビスチェが喜び、ロザリアが呆れながら口を開き、エルフェリーンは素直に賞賛する。
「エルフェリーンさま、麻雀もできれば持ち帰り国に広めたいのですが……」
「うん? それぐらい構わないよ~麻雀の牌は向こうでも簡単に作れるだろうから牌に書かれている絵や文字もこっちの物に書き換えた方が覚えやすいかもしれないね~」
「それは良いですわね! この漢字と呼ばれるものは覚えにくいので別のものへ改良致しましょう!」
「なら古代文字を使えばいいよ~あれはあれで味があって良い感じだと思うぜ~」
「でしたら王家の紋章に使われているユリの花を入れても良いかもしれませんね」
第一王妃リゼザベールからのお願いに快く引き受けたエルフェリーンが案を出しこの世界に合った麻雀牌が生まれる事だろう。
一時麻雀が中断した事でクロは用意していた三時のおやつを切り分けているとメリリがキッチンに現れ顔を覗かせる。
「うふふ、それを運ぶのでしたら取り皿をご用意致しますね」
微笑みながら足取り軽く取り皿を用意するメリリ。アリル王女とハミル王女がキッチンカウンターに座り身を乗り出してその様子を眺め、シャロンはフィロフィロを抱きながら笑みを浮かべる。
「あれはアップルパイかな?」
「ピィ~?」
「キュウキュウ」
シャロンの言葉に首を傾げるフィロフィロ。その横で白亜が待ちきれないのかシャロンの隣の席によじ登り鳴き声を上げ、クロは切り分けたものをメリリにお願いしてキッチンカウンターに座る子供たちへ先に運ぶよう指示を出す。
「うふふ、お茶の準備がまだですが先にお召し上がりになりますか?」
「はい、食べたいです!」
「私も食べます!」
「キュウキュウ~」
アリル王女とハミル王女が目を輝かせて切り分けられたアップルパイを見つめ、白亜も尻尾を振りながら鳴き声を上げフォークを手に取る。
「あれは美味しいのだ! サクサクで甘くて少しだけ酸っぱいのが美味しいのだ!」
キャロットも白亜の隣に腰を下ろして目の前に置かれたアップルパイを手で掴むと口へ運び表情を溶かす。
「うふふ、待ちきれなかったのはわかりますがマナーはちゃんと守りましょうねぇ。そうでないとキャロライナさまへご報告しなくてはなりませんから」
メリリの言葉に溶かしていた表情を硬くし手にもっていたアップルパイを皿に置くキャロット。優しくも厳しい祖母であるキャロライナが怒る顔が浮かんだのだろう。
「ま、マナーを守るのは当然なのだ! アリルとハミルも気を付けるのだ!」
必死に取り繕うキャロットなのであった。
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