ブーム到来
食休みを終える頃にはポタリポタリと雨が降り始め急いで屋敷に戻る一同。レーシングカートを楽しみにしていた第一王妃リゼザベールとキュアーゼはあからさまに肩を落としリビングのソファーで外を見ながら紅茶を口にしている。
「クロ先輩、クロ先輩、家の中でできるおもてなしとかないですか? トランプとかはこの世界にありましたけど、そう言った遊びとか何かないですか?」
大昔に召喚された勇者がトランプを作りそれを販売して貴族たちから資金を募ったのはこの世界では有名な話で、トランプ自体は市民にまで流通している。国を挙げてトランプを生産しエルカジールが経営するカジノで使われお金をまわして経済を活性化させるほどである。
「カードゲームは色々種類があるが、どうせならこれとかもあるぞ」
魔力創造を使い緑色したボードゲームを創造し、更に緑色したマットと黒いバッグを創造するクロ。
「挟んで裏返すゲームと麻雀ですね! 麻雀のルールは私が分かりますし、教えたら嵌るかもしれませんね! ああ、でも符計算とか難しいかなぁ……」
「点数計算はビスチェが覚えているから大丈夫だと思うぞ。一時期だが三人でマージャンに嵌ったからな~」
そう言いながらキッチンへと去って行くクロ。アイリーンは目をパチパチさせながら窓辺で寛いでいたビスチェへ視線を向けるが姿がなく、「あら、麻雀をするのかしら?」と真横から言われ慌てて飛び退く。
「お、脅かさないで下さいよ~」
「うん? 脅かしてないわ。それよりも麻雀をするのかしら? するのね?」
グイグイ来るビスチェに体を仰け反らせるアイリーン。
「リゼザベールさまとキュアーゼさんの元気がないから、クロ先輩にお願いして楽しめるものを……」
「あら、良いわね! 私は麻雀のルールを覚えているから二人に教えるわ。きっと気に入るはずよ!」
そう口にしソファーで寛ぐ二人の元へ走るビスチェ。その様子を見ていたメリリは何やら楽しいことが始まると予想しゆっくりとアイリーンの元へ近づく。
「うふふ、ビスチェさまが嬉しそうですね」
「私も驚きましたが麻雀好きみたいですね~私がここに来る前にクロ先輩たちとやっていたらしいです。えっと、麻雀は牌と呼ばれるものを使ってする遊びですね。最終的に得点が高い人が勝ちですね~」
簡単に説明しながら黒いバッグを開け麻雀牌を見せるアイリーン。メリリはそれを見ながら異世界の遊びなのだろうと推測する。
「説得したわ! 二人ともやるそうよ! メリリもやるわよ!」
目を輝かせ戻って来たビスチェの後ろには二人の姿があり訝し気に麻雀牌を見つめる。
「本当に面白いのかしら?」
「やれば嵌ること間違いなしよ! メリリはちょっと手伝って!」
目を細めイーピンを摘まむキュアーゼに仁王立ちで応えるビスチェは、メリリを誘いソファーの近くに置かれているサイドテーブルを持って来て二台合わせ緑色したマットを敷く。
「これで卓が完成ね。やりながら基本的なゲームの進め方を教えるわね!」
実に良い笑顔を浮かべるビスチェの表情に、アイリーンは今更ながら気が付く。
ビスチェさんのやる気がヤバイです……
「リーチ!」
三十分ほどで簡単なルールを覚えた四名ですることになり、ビスチェは後ろからアドバイスをする形で卓を見守る。
「リーチ棒は赤い丸の千点を場に置くのよ! それは一万点棒だから変えなさい!」
ビスチェの指摘にキュアーゼが従い点棒を変え、次の順であるアイリーンが牌を取る。
「これは危険な香りがしますねぇ……ここは安全に切った牌を捨てて」
「そうね! リーチを掛けた一巡は絶対に振り込んじゃダメよ! あがられたらそれだけで点数が高くなるわ!」
「一発という役になるのよね?」
キュアーゼがリーチの前に切っていた牌と同じものを切り、リゼザベールとメリリも同じように安全牌を切る。
「リーチが入ると少し緊張しますねぇ」
「そうよ! それがいいのよ! 緊張感の中でどれだけ攻めて守れるか! どれだけ高い手を作っても安い手で流された時の悔しさ! 相手の捨て牌を握りながらもそれを使いあがりを目指す難しさ! 麻雀は自身を高める崇高な遊びなの!」
拳を握り締め語るビスチェにまわりは軽く引いているが、いつの間にか集まったギャラリーたちはビスチェの力説を耳にしながら次第にルールも把握して行く。
「ロン! えっと、リーチドラ2?」
「平和と裏ドラを捲りなさい」
リーチを掛けあがった事で発生するドラ表示牌の下の牌もオープンする。
「やった! ドラがもう一個ある!」
「リーチピンドラ三で満貫ね! アイリーンは8千点の支払いで、キュアーゼが出したリーチ棒を回収して次ね!」
笑顔を浮かべるキュアーゼ。アイリーンは八千点を支払い自身の手牌をそっと倒し牌を混ぜ始める。
「今のアイリーンは勝負に行くべきよね! あと一手で聴牌だったし、あがれば跳満確定だったもの」
ジャラジャラと牌を混ぜるアイリーンは悔しそうにしながらもビスチェの説明に頷き、ギャラリーたちもひそひそと話し始め麻雀の流れを自然と覚えて行く。
「ふわぁ~僕も眠くなっちゃいますね」
麻雀エリアの外ではキャロットと白亜が麻雀牌を使いどれだけ高く積めるかという遊びを考え、シャロンは膝の上で眠るフィロフィロを優しく撫でながら欠伸をし、七味たちはリビングの隅で何やら作業をしている。
『シャロン、こっち、糸ベッド』
大きな欠伸をしていたシャロンへ念話が届き七味たちへ視線を向けるとリビングの角に糸を固定しハンモック状ベッドを作り手招きしており、シャロンはフィロフィロを起こさないよう気を付けながら立ち上がりどちらへ向かう。
「ここに横になっていいのかな?」
『揺れるベッド、フィロフィロ喜ぶ、ゆらゆら眠る』
一味の念話にキュアーゼたちが作ったベビーベッドを思い出しくすりと笑うと、シャロンはゆっくりと蜘蛛の糸で作られたハンモックに腰を下ろし横になる。
「これいいですね。適度な揺れが心地いいです」
シャロンの言葉に両手を上げてお尻を振る七味たち。集団で生きていた七味たちは誰かの役に立つことが好きなのか種族を超え色々と役に立ってくれている。料理はもちろんだが、こういった糸を使い布や服なども最近は作り皆に配っている。
「僕も寝てしまいそうです……」
ハンモックに横になりお腹の上でフィロフィロが落ちないよう手を添えるシャロン。その目を次第にゆっくりと閉じ寝息を立てはじめ、それを遠くから凝視する変態が一名。麻雀エリアで話を聞いていたが一番見やすいだろう階段へこっそりと移動し寝顔を楽しむ。
「それポン!」
第一王妃リゼザベールが鳴き、発をポンし牌を切る。が、キュアーゼからの声が掛かる。
「ロ~~~~~ン! 違う種類がいっぱいのやつ!」
「国士無双ね! 親の役満は四万八千点よ!」
「えっ!? それって私の点数が……」
キュアーゼは両手を上げて喜び第一王妃リゼザベールは自身の点を入れた箱をひっくり返して数えるがどう考えても足りず、初めての麻雀は苦い思い出となった。のだが、他の乙女たちは目を輝かせクロは麻雀セットを複数魔力創造し、麻雀ブームが到来するのであった。
もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。
お読み頂きありがとうございます。