スピード狂王妃と爆速キャロット
「ホーホッホッホッホッホッホ!!! 最高ですわ! このレーシングカートというものは最高ですわ!」
高笑いを上げ皆の前を通り過ぎる第一王妃リゼザベール。ルビーから講習を受けフルスロットルで直線を駆け抜けカーブに入りアウトインアウトでコーナーを抜ける。その後ろを第三王妃カミュールがおっかなびっくり走りコーナーを曲がりながらその差が開き、後ろから改造されたベビーベッドを押すキャロットが抜き去り乗っているアリル王女はキャッキャと手を振る。
「うむ、キャロットの追い上げに驚愕するのじゃ……」
「カートも七〇キロは出るはずですので、あの直線での追いつき方はそれ以上確実に出ていますね」
「あはははは、一〇〇キロは出ているかもしれないぜ~ベビーベッドにシートベルトとシールドを発生させているとはいえアリルは怖がらなくて良かったよ~」
元はフィロフィロ用にルビーとキュアーゼにアイリーンが協力して作ったのだがクロが引かれフィロフィロは恐怖し乗る事はなく、キャロットと白亜の遊び道具となっていた。それを更に改造しフレームとシートベルトを付けレース仕様へと変わったベビーベッド。
白亜専用だったがアリルが乗りたいとお願いすると白亜は仲間ができたと喜び、キャロットも「任せるのだ! 一位になるのだ!」とウェルカムで試乗させ、王妃二人と王女一名によるレースが開催されている。
「私も足が届けば……」
ハミル王女は爆走する第一王妃リゼザベールと追撃するアリル王女のデッドヒートを見つめ呟き乗りたかったことが窺え、それを耳にしたルビーは子供用を作って王室にプレゼントするか後でエルフェリーンに相談しようと思案する。
「リゼザベールは凄いわね。あれだけの速度でカーブを曲がったわ……それにあの高笑い……絶対に喉が渇くはずよ……」
「クロが冷たいジュースを用意してくれているからね~シュワシュワも美味しいし、果実を使った物も冷やしてあるから楽しみだね~お酒もあれば最高だったけど……」
「お酒を飲んで運転するのは危険なのじゃ……クロが怒った姿を見た後に、それをお願いする事は我には無理なのじゃ……」
「アイリーンに凄く怒っていたものね……玉ねぎのみじん切りを罰にしていたけどあれは目から涙が止まらなくなるから、今頃は泣いているかも……ふふふ」
エルフェリーンがアイテムボックスからクーラーボックスを取り出し、ロザリアはクロが怒った様を思い出して顔を顰め、ビスチェは涙するアイリーンを思い浮かべるがその横でグルグルヒゲを顔に書かれたクロもついでに思い出し肩を揺らす。
「最後の直線なのじゃ!」
リゼザベールが先にコーナーを抜けアクセルを踏み込み、遅れたキャロットもコーナーを曲がり終えようとした刹那、足が滑りバランスを崩しそうになるがキャロットの目がギラリを光る。
「きゃっ!?」
アリルが小さく悲鳴を上げ一気に加速するキャロット。
「勝者はキャロットとアリル王女!!! で、いいですかね?」
チェッカーフラックを振りながら叫ぶルビーだったが隣で観戦するエルフェリーンたちに首を傾げながら声を掛ける。
「う~ん、どうしようか。先にゴールしたのはキャロットたちだけど……」
「うむ、難しいのじゃ。誰よりも先にゴールという前提は間違っておらんのじゃが……」
「明らかに飛んでいたわね……魔化した翼で一気に加速したわ……」
最終コーナーの出口で足を滑らせたキャロットは魔化させたドラゴニュートの翼で加速し先にゴールしたのである。ベビーベッドもコースを走るというより数センチ浮き地面すれすれを滑空するように飛んだのだ。
「すごーい! すごーい! キャロットすごーい!」
アリル王女が両手を上げ喜び、遅れてゴールしたリゼザベール第一王妃はハンドルを握り締め放心し、更に遅れてやってきた第三王妃カミュールは無事にレースを終えホッと胸を撫で下ろしながらピットインする。
「わ、私が負けた……あれだけリードがありながら……くっ……」
悔しさを口にしながらも表情を整えたリゼザベールは両手を上げて喜ぶアリルの元へと向かい両手で抱え上げる。
「アリルの勝ちね。キャロットちゃんの追い上げには完敗だわ」
「すごかったのです! 一気に追い抜いてお空を飛んでいるようでした!」
事実、数センチだが空を飛び追い抜いたのである。
「そうね。一気に抜かされて驚いたわ。でも、次やるとしたらママも負けないわよ」
「はい、また一緒にレースがしたいです!」
親子二人で笑みを浮かべ、それを耳にしたカミュールは辞退しようと心に決める。
「ええ、近いうちに………………エルフェリーンさまにお願いして、許可が出たらこのカートと呼ばれる乗り物やコースをお城の近くに作りましょうか」
「いいのですか!?」
驚きながらも目をキラキラさせるアリル王女。
「ええ、ハミルが乗れるサイズの物もきっと作れるはずよ。コースは私の頭の中に入っているし、違うコースを作っても楽しめるわね。いっそ、国を挙げてサーキットコースを作り見世物にしたら民たちも喜ぶかもしれないわね」
「乗れなかったお姉さまがきっと喜びます! 王都の皆も驚いて喜びます!」
嬉しそうに話すアリル王女を抱きながら足を進めエルフェリーンたちの元へと向かい、拍手で出迎えられ仁王立ちで腰に手を当てるキャロット。
「私の勝ちなのだ!」
良い感じだった義理の親子の感動をぶち壊す発言だが、そこは王妃なだけあり「完敗だったわ」と笑顔で口にするリゼザベール。アリル王女は抱っこされながら「キャロットはすごい! すごい!」と何度も口にし、キャロットは「また押してあげるのだ!」と上機嫌である。
「次は僕とロザリアとビスチェでレースを……良い匂いがするぜ~」
エルフェリーンの言葉に皆が鼻をスンスンさせビスチェが「カレーね!」と口にすると、白亜と隣に伏せていた小雪が立ち上がりこちらに向かい歩いてくるクロとアイリーンにシャロンの姿を視界に入れ走り出す。
「もう罰は終わったみたいね」
「玉ねぎのみじん切りは手伝った事がありますが……あれは地獄です……」
「うむ、我も暇つぶしに申し出たが、料理とはこんなにも大変な事かと後悔したのじゃ……」
「僕はした事がないけど涙を流しながら料理をしているのを見てクロに感謝したぜ~カレーには玉ねぎをいっぱい入れるんだろ?」
「前にクロが思う一番美味しいカレーを食べたいってお願いしたら、無水カレーを作るから手伝えって……野菜の水分だけでカレーを作って美味しかったけど、手の疲れを考えたらお湯で温めるカレーで充分だと思ったわ」
ビスチェとロザリアは玉ねぎのみじん切りの辛さを知っており、無水カレーの手伝いをしたビスチェは当時を思い出し、多くの野菜をみじん切りにして時間を掛けて作ったカレーの味と、レトルトのカレーの味を比べ、お手軽さに後者を選んだようである。
「そろそろ昼食にしませんか?」
やって来たクロが口にしながらアイテムボックスからガーデンテーブルを取り出し、アイリーンとメルフェルンは椅子をセットし、メリリは第二王妃カミュールの降車を手伝う。
「今日のカレーは美味しいですよ~私が保証します!」
「保証じゃなくて味見しただろうが……」
ジト目を向けるクロにアイリーンが舌を出しておどけて見せ「今日のカレーはタンカレーです!」と宣言する。
「前はタンシチューだったわよね? トロトロに煮込んだお肉が美味しかったわ!」
「あれは美味しかったね~それのカレーバージョンだね! 楽しみだよ!」
「カレーにはビールですね!」
ビスチェは前に作ったタンを使ったビーフシチューを覚えていたのかエルフェリーンと共に目を輝かせ、ルビーはカレーならビールだと目を輝かせる。
「甘口も作ったからハミルさまとアリルさまにはこっちを頼む。他にも辛いのが苦手な人は甘口を食べて下さいね」
王妃の専属メイドたちも動き出しサーキットはカレーの匂いに包まれるのであった。
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