シャロンの早朝ダッシュとアイリーンへの罰
目覚めたシャロンはまだぼけている頭を覚醒させようと身を起こし、朝日の眩しさに目を細めながら大きく身を反らせ両手を上げる。
「もう朝……ん? フィロフィロ?」
一緒のベッドに寝ていたフィロフィロの姿がなく毛布を捲るがやっぱり見当たらないことに一瞬で眠気が覚め辺りに視線を走らせる。すると、ドアが少しだけ開いている事に気が付きベッドから降りると裸足のまま走り出すシャロン。
「フィロフィロに万が一の事があったら……」
部屋から出たシャロンの耳にメルフェルンとアイリーンの声が聞こえ急ぎ階段を降り、その場にいなければ探すのを手伝ってもらおうと思案しながらリビングへと駆ける。
「シャロンさま、おはようございます」
「シャロンくん早いね~」
走り階段を降りてきた音に気が付いたのか二人に加えメイド長が頭を下げ、シャロンも挨拶を交わしながらもテーブルの上に置いてある箱が視界に入り、以前にクロが魔力創造した時に物が入れられていた箱だと思い出すが、今はフィロフィロを探さなくてはと口を開こうとすると「ピィ~」という声が耳に入り音の発生源だろう段ボールへ視線を向け崩れ落ちる。
「よかった……ここにいたのですね……」
心底安心したシャロンは床に座り込みなが息を整え、それを見たメルフェルンが駆け寄り主の身を心配しながら声を掛ける。
「シャロンさま! 大丈夫ですか!? 体調がすぐれないようでしたら部屋へお連れ致しますが……」
「いえ、大丈夫です。探していたフィロフィロが箱の中で寝ていたのを見つけて安心して……」
「それで着替えもしていなかったのですね~シャロンくんのレアなパジャマ姿をクロ先輩も見られたら良かったのに~」
アイリーンの言葉にパジャマ姿だったことに今更気が付き頬を染めるシャロン。メルフェルンはシャロンの専属メイドとして使えている事もありパジャマ姿も見慣れていたが、頬に赤みが差し恥ずかしがるシャロンの姿を視界に入れ身悶えながら距離を取る。女性恐怖症を悪化させないよう気を使ったのだろう。
「危うく襲い掛かる所でした……ふぅ……」
自制心が働いた結果であった……
「ぼ、僕は着替えてきますのでフィロフィロをお願いします」
顔を赤くしながら階段を駆け上がるシャロンの姿に微笑むメイド長。アイリーンは椅子に座り眠るクロへ視線を向け、起こせば良かったと小さな後悔をするのであった。
「言い訳があったら聞こうか」
アイアンクローをしながら珍しくドスの利いた声を上げるクロ。相手はアイリーンであり「痛い、痛いですよ。クロ先輩、暴力反対! 暴力は何も解決しませんよ!」と声を上げる。
「いやいや、暴力ではなくこれは教育だ! 昨日はメイド長さんからゴミを見るような目で見られたんだからな! そして、これだ! 怒るに決まっているだろう~なぁ~」
「ひぇぇぇぇぇ、クロ先輩がガチでキレてらっしゃるぅぅぅぅぅ」
夜中にフィロフィロがリビングに現れたこともあり、朝食の仕込みをしていたクロはフィロフィロの相手をしながらの作業と、自室にフィロフィロを入れ隣で寝かせることも考えたが寝返りで潰したらと思うと怖くなり段ボールに入れリビングのソファーで眠りに就いたのだ。
最初に起きてきたアイリーンがクロの顔にカーブし先を渦巻状にしたヒゲを書き入れ満足しているとメルフェルンも起きてきて二人で肩を揺らし、リビングで眠るフィロフィロの寝顔を見ているとメイド長がやってきて手伝いを申し出るがテーブルにはメモ書きがあり、朝食の準備はアイテムボックスに入れてあるので集まったら起こして下さい、とクロの名が書かれていたのだ。
「ヒゲぐらいでぇぇぇぇそんなに怒らなくてもぉぉぉぉぉ」
「そっちじゃない! フィロフィロを入れた段ボールに[拾って下さい]と書いた事だ! 捨て猫みたいに扱うな!」
顔の落書きには怒っていないクロ。というかこの時点では気が付いておらず、フィロフィロを入れたタンボールに日本語で拾って下さいと書き入れたことにキレているのである。ちなみに叫びながらも[拾って下さい]を日本語で声に出しアイリーン以外に意味が伝わらないようにしてシャロンへ気を使うクロ。
「それはごめんなさい……少しふざけ過ぎました……」
「わかれば宜しい……罰として玉ねぎのみじん切り三箱な」
謝罪を口にするアイリーンへの罰用に魔力創造で段ボール入りの玉ねぎを三箱創造するクロ。顔を引き攣らせるアイリーン。
「こ、こんなにみじん切りにしたら使い終わるまでに痛むと……」
「そこはアイテムボックスに小分けして入れるから大丈夫だぞ。シャロンへの謝罪だと思って頑張ってやるようにな」
「くっ! 時間停止機能が付いたクロ先輩のアイテムボックスの便利さが今は憎い!」
よれよれと床に膝を付き拳を握り締めるアイリーン。そのやり取りをポカンと見つめる乙女たち。ただ、エルフェリーンだけはクロのグルグルヒゲにキラキラした瞳を向け「カッコイイ」と呟くのであった。
朝食に用意したサンドイッチやフルーツを使ったヨーグルトなどに満足した一同は、これから雨季に入り長くレーシングカートができなるだろうと皆で出かけ、残ったのは庭で寛ぐシャロンとメルフェルン。そのまわりにはグリフォン三頭がフィロフィロと会話をしているのか仲良く鳴き声を上げている。
「私もサーキットでブイブイ言わせたかったです……うぐっ、目が、目がぁぁぁぁ」
「ほら、俺も残って手伝うから気合入れてみじん切りにするぞ」
キッチンでは罰として玉ねぎ三箱をみじん切りにするアイリーンとクロ。換気扇があるが玉ねぎ独特の臭いが充満したキッチン内はいるだけで目が染みて涙が流れ、目を赤くしながらも手を動かす二人。シャロンとフィロフィロも最初の十五分はキッチンカウンターに残っていたがフィロフィロが逃げ出し、それを追うようにシャロンとメルフェルンが部屋を後にし、残ったアイリーンは一生懸命玉ねぎと戦っている。
クロはといえば昼食の準備を終えアイリーンの罰を手伝いながら玉ねぎをみじん切りにしてある程度たまると袋に入れてアイテムボックスに入れている。
「ううう、お腹が減りました……」
「わかったから頑張れ、昼食は弱火でじっくりと煮込んだ牛タンを使ったカレーだからな。一番に味見してもいいし、朝食に用意したサンドイッチも取ってあるから終わり次第食べていいからな」
「はい……頑張ります……クロ先輩があんなに怒るとは思いませんでした……」
「俺も髭だけだったらあんなに怒らなかったが、フィロフィロを入れて拾って下さいはないだろ……シャロンがその文字に気が付いたら悲しがるのは理解できるよな? 俺は寝ていたからあれだが、シャロンは起きてフィロフィロがいなくてパジャマ姿で走って来たんだろ。それだけ心配していたんだよ。小雪を段ボールに入れて同じことをするか?」
「そ、それは……ぐすん……すみませんでした……」
玉ねぎが原因だけではなく涙を流すアイリーン。
「そういうことだな……ほら、終わりが見えてきたぞ」
三箱目の段ボールにはもう二個を残すだけになり最後の一個を手渡すクロ。もう一つはクロが皮を剥き荒めのみじん切りにし、アイリーンも涙を拭いながらみじん切りを終えると浄化魔法を唱える。
「ふぅ……これでもう涙が止まりますね~」
「ほら、朝食のサンドイッチとヨーグルトにスープ。もう一時間もすると昼食になるが食べるか?」
「もちろんです! ササミを入れたサンドイッチやフルーツサンドとか大好きです!」
赤い目をしながらサンドイッチを口にするアイリーン。クロは大鍋で煮込む牛タンの柔らかさを確認するとカレールーを入れゆっくりとかき混ぜるのであった。
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