アイリーンの仕返しとフィロフィロの半分は獅子でできています
本日の飲み会は王妃二人が参加している事もあり飲み過ぎる者はおらず、代わりに食べ過ぎて動けないメイドが多数出たが健全な形で幕を終えた。ゲストルームに川の字プラス幼女で宿泊する予定の王家と、メイドたちはメイド長がひとりに、残りはペアで宿泊する形になった。
「素晴らしいお風呂をありがとうございます」
メイド長が頭を下げクロは居心地の悪さを感じつつも会釈を返し、ホカホカなハミル王女アリル王女は眠たげで二人を連れ寝室へ向かう王妃たち。
「いえいえ、あの岩風呂はアイリーンが設計して、風変りですが風情がありますよね」
メイド長と適当に話をしながら片づけを終えたクロは、キッチンへ向かいフィロフィロ用の食事のストックを作るため鍋に湯を沸かしアイテムボックスに入れてあるイノシシ肉を取り出し脂の部分を削ぎ落とす。
「それは明日の朝食用でしょうか?」
意外にもクロに付きキッチンへやって来たメイド長に軽く驚きながらもフィロフィロ用の食事だと伝え一口サイズにカットし鍋に入れる。
「丁寧に脂肪を落とすことが重要そうです……王家でも梟を飼っていますが料理して餌を与えることがないので……確かに餌の管理は健康面で重要かもしれません」
ひとり納得するメイド長。
「フィロフィロ用の食事はメルフェルンさんから教わりました。もう少ししたら果実や火を通した魚などもあげられるので楽しみですね」
「クロさまが以前頂いたメロンなる果実は絶品でした。他にも見た事のない果実を味に食させていただき感謝しております」
「それでしたら明日にでもメロンやパイナップルを用意しますね。個人的には梨が好みですが……フルーツを使ったデザートも用意しようかな……」
「はいはい! 私がフルーツカービングしますよ~今ならもの凄い作品が作れる気がします!」
天井からゆっくりと降りてきたアイリーンの言葉に、以前テレビで見たスイカをナイフで削り芸術作品を作る特集を思い出したクロは「それなら任せるよ」と軽く返し、メイド長は首を傾ける。
「あの、フルーツカービングとはいったい?」
「果物の皮を剥きながら花の形を再現したりする料理? 芸術作品? 凄い皮むきですね。こんな感じです」
そう口にしながら魔力創造を使い大輪の薔薇の花が刻まれたスイカを創造する。スイカ自体がバスケットのような形にカットされ、側面には大輪のバラやハートの形が美しく刻み込まれ、スイカのバスケットの中には丸くくり抜かれた果肉の玉が入れられ芸術作品という言葉に納得するメイド長。
アイリーンもそれを凝視して顔を引き攣らせ、これだからクロ先輩の魔力創造はと内心で思いながら「この作品を前に練習なしで挑む気にはなれませんね……」と口にする。
「わ、悪い……記憶にあったのはカービングの世界大会のやつで、これは優勝作品だからさ……」
「ですよね~思い付きでやった作品とは思えません。どれ、ひとつ」
果肉の球体を口に運ぶアイリーン。
「甘くて美味しいですけど、やっぱり冷やしてないとイマイチですね」
「私も宜しいでしょうか?」
「今フォークを用意しますね」
アイリーンが手を出した事でメイド長の目が輝き、クロは急ぎフォークを手に取るとメイド長へと渡しスイカを口に運び笑みを浮かべる。
「ピィーピィー」
その様子をキッチンカウンターに座り見ていたシャロンとその腕に優しく抱かれていたフィロフィロは鳴き声を上げ、スイカの甘い香りに自分も食べたいと言っているかのようである。
「フィロフィロはもう少ししてからな。メルフェルンさんとシャロンが許可したらあげるからな~ん? キュアーゼさん?」
フラフラとやって来たキュアーゼはそれなりに酔っているのか赤ら顔をしており機嫌良く手にしていた白ワインの瓶をキッチンカウンターに置くと、うっとりとした瞳をフィロフィロへ向ける。
「ふふふ、フィロフィロはシャロンが初めて孵したグリフォンなのだからいっぱい食べて大きくなるのよ~」
人差し指を使いフィロフィロの喉を撫でるキュアーゼ。フィロフィロは気持ち良さそうに目を細め撫でられるが、それを抱くシャロンにはお酒臭かったようで顔を顰める。
「キュアーゼさま! お風呂場はあちらです!」
慌ててやってきたメルフェルンがキュアーゼを回収し風呂へと連行し、「クロ先輩! 私が二人の胸の調査をしてきます! 安心して下さい。ちゃんと報告しますからね!」
その言葉だけを残し飛び去るアイリーン。クロは呆気に取られながらメイド長から鋭い視線を受け言い訳を考えるのであった……
「ピィーピィー」
フィロフィロが目を覚まし隣で眠るシャロンの寝顔を発見すると鳴き声を上げるが目を覚ますことはなく、空腹を感じベッドから抜け出す。
日中は雨が降っていたが月が出ておりその明かりが差し込む窓辺へと移動し夜空を見上げ思う。
お腹が空いたと……
辺りをキョロキョロと見ながら部屋のドアを視界に入れ、下に行けば食事を出してくれるクロがいると思い飛び上がりドアノブに前足を掛け必死に翼を動かすフィロフィロ。グリフォンの翼は体格よりも小さく鳥のように自由に飛ぶことができるのは魔力を使い自身の体を浮かせることができ、更に風の魔力を身にまとう事で自由に飛ぶことができる。
翼の役割は急な方向転換と体温調節が主で、まだ細かな魔力操作ができないフィロフィロには難しく何度もドアノブに体重をかけ翼を羽ばたかせドアを後ろへ引っ張り、五度目の挑戦で小さな隙間ができ喜びの鳴き声を上げそうになるが、夜は大きな声で鳴いちゃダメだよというシャロンの教えを思い出し静かに床に着地するフィロフィロ。
達成感に包まれながら月明かりの差し込む廊下へ出ると鼻腔をくすぐる匂いに目を輝かせ足取り軽く廊下を進み、階段近くまで辿り着くと伏せて下を覗き込む。リビングには人はおらず天窓と窓からの月明かりで視認でき、更に明るい場所からは何やら声が聞こえ誰かいる事を確認でき、ぐぅぅぅと鳴った自信からの音に驚きながらも空腹感に二階からダイブする。
グリフォンとして生まれ持ってのセンスと滑空を使いそのままキッチンカウンターに着地したフィロフィロはキッチンで作業するクロの姿を視認すると小さく鳴き声を上げ、振り向いたクロはフィロフィロを確認すると目を擦り夢や妄想じゃない事に「シャロンの部屋から抜け出して来たのか~」と優しく声を掛けながら近づき人差し指をゆっくり近づけ喉を優しく撫でる。
目を細める気持ち良さそうに撫でられるフィロフィロから鳴き声ではないぐぅぅぅと鳴る音を耳にしたクロは空腹で降りてきた事を知ると、料理に使っていた鳥のササミ(味付けしていない)を解していたものを取り戻ろうとし、その背に掴まるフィロフィロ。
「フィロフィロは甘え上手なのかもな~」
「ピィ~」
背中の重さに一年前は白亜が良く背中にしがみ付いたっけと思いながら小皿に鳥のササミを取りキッチンカウンターに戻るが背中の重さが消え振り向くクロ。
キッチンテーブルに着地したフィロフィロはクロが制作途中の料理が視界に入るが、それよりも甘い香りを放つ赤い実をカットしたものに興味が湧きクロへと視線を向ける。
「まだ果実は早い気もするが少しなら大丈夫かな?」
顎に手を当て近づいてくるクロにフィロフィロは何度も頭を縦に振る。
「小さくカットするから待ってな~」
クロがリンゴを手に取り器用に皮を剥きはじめ、赤い皮が長く剝かれ揺れる度に頭をシンクロさせ、我慢の限界と共に飛び付くフィロフィロ。クロは慌ててナイフを持っていた右手を上げ事故を回避し、フィロフィロは左手に持ったリンゴの皮に両手を伸ばしてじゃれつく。
「半分は獅子なだけあって行動は猫に似てるが……急にじゃれつくかね……」
プラプラと揺れていたリンゴの皮にじゃれついたフィロフィロは勝ち取った皮を口に入れ甘みのある味が気に入ったのか、もっと欲しいと鳴き声を上げるのであった。
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