お手伝いと将棋の決着
「フィロフィロちゃんは可愛いのです」
満面の笑みを浮かべるアリル王女はシャロンが抱えるフィロフィロを見つめ、ハミル王女も同じような笑みを浮かべている。
「この子はまだ卵から孵ったばっかりで大きな声をあげると驚いちゃうから声は少し控えめにね」
「はい、しぃーです」
「あらあら、アリルちゃんは良い子ですね。それにしてもグリフォンは恐ろしい神獣だと耳にしていましたが、これほどまでに可愛いとは驚きました」
口元で人差し指を立てるアリル王女の頭を優しく撫でる第一王妃リゼザベールは初めて見るグリフォンの赤ちゃんに微笑みを浮かべ、好奇心旺盛なフィロフィロは知らない人が来てテンションを上げておりシャロンが優しく両手で掴み飛び立つのを阻止している。
「全身が黄色い羽毛で覆われているのですね。文献には後ろ脚は獅子のような毛並みをしていると書いてありましたが……」
「大人になるにつれ半身の羽毛は細い毛に変わります。幼い時期は体を守るために黄色い羽毛に覆われていると考えられております」
第三王妃カミュールの疑問にメイドのメルフェルンが応え、感心したようにフィロフィロを観察する。カミュールは元商家の娘で魔物の素材を扱っており魔物そのものにも興味湧き独学で調べ、その生態に興味があるのだろう。ちなみに、七味たちが初めて城へと招かれた時は食い入るような視線を向け、メイドたちに止められなければその背中を撫でていた事だろう。
「この子は何を食べるのですか? やはりマヨですか? マヨですね?」
ハミル王女からの言葉に顔を引き攣らせるシャロン。
「えっと、できるだけ脂肪の少ないお肉を軟らかく煮て解してから与えます。数日間ほどそれを与えてから」
「マヨですね!」
食い気味にマヨを推すハミル王女。
「いえ、果実などですね。硬いものは避け柔らかい果実を与えます。他にも柔らかく煮た根菜や葉野菜なども肉と合わせて与えますね。二週間ほど様子を見てら生肉なども与えて走る訓練や飛ぶ訓練などをするのですが、この子は優秀なのか卵から孵ってすぐに飛び滑空してクロさんの顔に着地しました」
その言葉に声を上げて笑う王妃二人。あまり声を上げて笑うのは下品とされているが今はお忍びであり着ている服も貴族感があまりない事から自然と声を上げてしまったのだろう。
「あの時は驚いたよ。緑茶です。こちらにお茶請けも用意しましたのでメイドさん方も宜しければどうぞ」
お世話係に連れてきたメイド四名とメイド長はヒラヒラしたエプロンを付けているが腕利きの護衛である。普段は王妃の横に控えているが給仕などはほぼする事はなく身辺警護をしており毒見役などを行っている。そんな彼女たちは王妃二人から小さく頷くサインを受けると浮足立った気持ちを抑えながらリビングの椅子に腰かけ、お茶菓子として出されている個包装されたチョコやクッキーを口にして表情を溶かす。
その中にはアリル王女の専属メイドであるアルベルタの姿もありチョコを口にしては久しぶりの甘味に表情を蕩けさせ、お菓子の匂いを嗅ぎつけた白亜とキャロットが隣に座り封を開けたチョコを見せると大きく口を開ける白亜。
「白亜さまもすごく可愛いです」
「キュウキュウ~」
人見知りする白亜だがアルベルタの事を覚えていたのかチョコをあ~んしてもらい尻尾を振り、その横で大きな口を開け待つキャロット。
「キャロットさまもですね。はい、あ~ん」
「あむあむ……美味しいのだ!」
その姿にアルベルタはできる新人であると誤解する先輩近衛メイドの四名。天界へ行った際もアルベルタが王妃や近衛メイドに料理や酒を配り動き、誰よりも料理を口にしていたのだ。アリル王女と以前にも天界を訪れた際に女神フウリンや叡智の女神ウィキールと酒を飲み交わし友好的な性格もあってか自然と馴染めたのである。
「クロさま、そろそろ夕食の支度をするのであれば手伝いますが」
「では、ピザ生地をお願いします」
「はいはい! 手伝いたいです!」
「ピザということはマヨコーンですね! 是非、手伝わせて下さい!」
両手を上げるアリル王女とハミル王女が手伝いを申し出椅子から立ち上がり、不安そうな顔をする王妃二人。
「でしたら、まずは手を洗いに行きましょうか」
「は~い」
メルフェルンに連れられ洗面所へと移動する姿を不安そうな表情で見つめ、クロは口を開く。
「ピザ生地は分量を間違えなければほぼ失敗しませんから大丈夫です。ちょっと力が要りますがメルフェルンさんが付いていれば問題ないですよ」
「それなら良いのだけど……」
「娘たちが手伝うというのなら……」
心配と不安が胸の中に広がる王妃二人。料理などは王族や貴族がする事は稀で趣味としてするにしてもお茶を入れるぐらいだろう。それなのにピザの生地を任せても大丈夫なのかと心配しているのである。
「僕も前に手伝いましたが楽しいですよ。こねていると手触りが気持ちいいですし、頑張ってこねたピザを皆が食べて美味しいと言ってもらえるのは何よりも嬉しかったです」
フィロフィロを野菜く撫でながら話すシャロンの言葉に王妃二人は納得したのか、目を細めて気持ちの良さそうなフィロフィロへと視線を向ける第一王妃リゼザベール。第三王妃カミュールは席を立ちメイドたちの上座に座りお茶を口にし、美味しかったお菓子を聞き口に入れる。
「これで王手よ!」
「なら、こっちは金を角で取って、あっ、王手」
チーランダの表情が歪みロンダルは偶然の王手に喜ぶ。サポートしているメリリは母親のような表情を浮かべ、チーランダと同じように顔を歪めるアイリーン。
「あの斜めを突っ込んでくる角を止めないとダメよね。そうなると何かを盾にするしかないけど……」
「ロンダルくんの学習能力の高さを舐めていましたね……これだから天才肌の末っ子軍師は……」
アイリーンも一緒に悩み盤面を見つめ、中立の立場で盤面を見ていたリンシャンは既にロンダルの勝ち筋を見つけ、この場の誰よりも先を読みニマニマとにやける表情を抑えようと両手で頬に当てる。
「ぐぬぬ、ロンダルのくにせ……これで王手を防ぐ!」
持ち駒の銀を上げて防御に回すチーランダ。ロンダルはすぐに桂馬を持つとパチリと打ち声を上げる。
「王手!」
「うふふ、ロンダルさまは将棋の才能があるかもしれませんねぇ」
メリリに褒められ頬に赤みが差すロンダル。逆に顔を青くしたチーランダは拳を握り締め盤面を凝視する。
「王を逃がすにしてもあの金が邪魔になるし、銀が横に動ければ……」
「飛車を上に移動させたのは失敗だっただと……ええぇ~い! 戦争は数だというのにっ!」
チーランダは呟きながら王を逃がす方法を熟考し、アイリーンはひとりネタに走る。
「これで王が逃げられるはず!」
銀の後ろに付け苦し紛れの逃亡を図る。
「では、これで王手です」
銀の真横に金を置きチーランダが悲鳴を上げそうになるが、金の後ろにはフォローする駒もなくニヤリと口角を上げる。
「勝利を焦ったわね!」
張った金を取りに王を手に持つチーランダ。
「ダメ! それはきっと罠!」
アイリーンが叫ぶが既に金を手にして王を打ったチーランダは首を傾げ、そこへやってくる角。しかも角成りで裏返り竜馬へと変わったことで王手になり、その後ろには序盤で飛車が荒らした香車がフォローし、詰みまであと一手だと気が付くチーランダ。
「こ、これって王が下がって右に行くしか手が……えっ!?」
「逃げたとしてもあの飛車が上がって来たらお終いですね……くっ! これが末っ子の本気だとでもいうのかっ!!」
「盛り上がっているところ悪いがもう少し声を控えろよ~フィロフィロが昼寝を始めたからな~」
お茶を持って来たクロに注意されアイリーンは良い顔をして頷くのであった。
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