残念ゴーレム
三階を抜け五階の階段を下りるとオレンジの空が広がり流れる雲も赤く夕日が傾いていた。五階層は草原と岩場と森に別れたエリアであり、クロたちは岩場へと向かい歩き出す
「ここが五階だ。ここからは夜行性の魔物も数種類でるし、岩場近くにはストーンゴーレムと呼ばれる魔物もいるからね。更に注意してくれよ」
≪進む方向へ糸を飛ばせばある程度は魔物の位置がわかります≫
「おお、それは素晴らしいね! そしたら僕が先頭になるからアイリーンが索敵して、クロが防御でビスチェが後方警戒にしようか」
「うっす」
「それがいいですね。ダンジョンだと精霊たちの声が聞き取れない場所とかあるから……」
「うんうん、急に声が途切れたりこっちの声が届かない事があるよね。精霊が気まぐれといわれる原因でもあるけど、恐らくだけど精霊に声を届けなくさせる様な魔力的干渉があるのだと思う。これは検証した訳じゃないけど精霊契約をすると契約者同士には魔力的な繋がりができ、それに割り込み雑音を混じらせる様な何かがあるのだと思うよ。ダンジョンでは精霊に頼るのは極力避けた方がいいね」
「ということは、ビスチェはお荷物だな。って、すぐに蹴るなよ!」
心地のよい破裂音がクロのお尻から発せられ、ローキックを振り抜いたビスチェが目を吊り上げる。
「少なくとも普通に魔法は使えるし、クロよりも強いわ! 夕焼けは陰が濃いからその陰に隠れて襲ってくる魔物もいる。注意なさいっ! ふんっ!」
顔を逸らしながら後方に注意を向けるビスチェ。クロはお尻を摩りながらシールドを展開する。
≪二人はなんだかんだで仲が良いね≫
「そうだね。ビスチェが気を許す数少ない異性だね~」
「師匠とアイリーンも注意! ほら、あそこの石の陰に黒蜥蜴!」
ビスチェが指摘するように腰が降ろせそうな石の蔭には黒い蜥蜴がおり、尻尾が陰からはみ出ていなければ瞬時に見つけるのは困難だろう。
「ストーンシュート!」
天魔の杖を振り翳し力ある言葉を発するエルフェリーン。拳大の石が狙い通りに黒い蜥蜴へ命中し中々グロイ現場へと変えるが、光の粒子へと変化し魔石が転がる。
「おお、闇属性の魔石だよ。少し小さいけど受付嬢が欲しがっていたものだね」
注意しながら回収し、辺りを警戒しながら足を進める。
十分ほど警戒しながら歩みを進めているとまわりに石が多くなり中には二メートルを超す岩も視界に入るようになると足を止めるアイリーン。
≪ゴーレムが右の奥にいます≫
視界では確認できないがアイリーンの放出した細い糸が感じ取ったらしく、左へと進路を取る一行。
≪倒さないのですか?≫
魔力で宙に浮かせた文字に黒が口を開く。
「ゴーレムから取れるのは土の魔石と鉄のインゴット。正直いらないし、ギルドでも魔石以外は買い取ってくれないお荷物だな。鉄のインゴットを鍛冶屋に持って行けば買い取ってくれるが危険を冒してまで手に入れる額じゃないよ」
≪残念ゴーレム≫
そんな文字か浮かび後方警戒していたビスチェが口を押さえ笑いを堪える。
「ほらほら、警戒を忘れない様にね。目的地が見えてきたよ」
一行の目の前には七階と書かれた階段が視界に入るが、少し左にずれて歩き続けるエルフェリーン。そんなエルフェリーンが足を止めたのは五メートルはある巨大な岩の前でありアイリーンは首を傾げる。
「ここから先は一方通行だからね。クロは足場を作って安全に落ちてくるように、じゃあ先に行くね」
大岩の前に一歩踏み込むと足元が抜けエルフェリーンは手を振りながら落下する。
「この落とし穴が近道なんだよ。始めて来た時は驚いたが……そういや、あの時はビスチェに落とされたっけ……」
ビスチェにジト目を向けるクロ。
「そうだったかしら? あははは、そんな事よりも早く足場! シールドで足場を作る!」
ビスチェの注文に応える様にシールドを階段状に作ると足を進めるビスチェ。落とし穴の内部は暗いがエルフェリーンが魔術の明かりを所々に浮かせており、足を進めるのには問題なく下へと降りて行く。
「アイリーンは後方警戒な。俺は足場に注意するから頼むな」
≪任せて! なんか今までで一番冒険者している気がする≫
「チームで協力するのは冒険者のイメージだよな」
≪困難な場所へ協力しながら向かい、強力な魔物に打ち勝つ! 熱い展開!≫
「熱い展開よりも、俺は安全な冒険と美味しい飯にゆっくりとした睡眠の方が嬉しいかな」
≪むぅ……わかる≫
「アイリーンのそういう素直な所は素晴らしいと思います」
≪自分でもそう思う。生まれ変わって少しわかった。自分らしく生きる方が楽だし楽しい≫
「二度も生まれ変わった人の言葉は重いな……そろそろ地面が見えてきたな」
らせん状にシールドを展開する下でエルフェリーンが天魔の杖を構え結界を張り終えると、降りてきたビスチェを迎え入れクロとアイリーンに手を振る姿が目に入りホッとするクロ。
「この落とし穴は僕が見つけたんだぜ~五階から十階へと繋がった落とし穴を使えば三時間は短縮できるからね」
胸を張るエルフェリーンの頭を、最後に地上へ着地したアイリーンが頭を撫でると頬笑みながらお腹を鳴らす。
「お腹も空いたしお昼にしようか」
≪ダンジョンの食事といえば干し肉!≫
「そんなのはアイテムボックスを持っていない冒険者の食事でしょ。私は嫌よ」
「干し肉は定番だがしょっぱくて固くて食べていると、聖王国にある死者のダンジョンを思い出して悲しくなるな……そこでこれです!」
聖王国とはクロが勇者召喚に巻き込まれて召喚された国であり、勇者の修行と一緒に放り込まれた死者のダンジョン。そこにある転移の罠に嵌められ最下層付近へと落ちたクロは、ひとりで命からがら地上を目指したのだ。そこで女神シールドや魔力創造の使い方を覚えたのだが、今でもダンジョンと干し肉にはトラウマがありあまり足を踏み入れたくない場所でもあるのだ。
「この鉄製の三脚を組み立て上に置けば焚火台の完成です。更に鉄板を置けば焼き肉が! その横でお湯を沸かせばスープが作れて持ってきたパンに、少しお高いウインナーを茹でて焼き色をつけて挟めば、」
「ホットドッグね! 私は黄色くて辛いのはいらないわ!」
「僕は玉ねぎも入れて欲しい」
≪クロ先輩が便利すぎる件について≫
ホットドックを人数分作ると茹でたお湯にネギと乾燥ワカメに市販のスープの元を入れ、卵を解き入れるクロ。
≪クロ先輩が便利すぎる件について≫
「魔力を使ってまで同じ言葉を強調して表現しなくてもいいからな。ほい、スープ」
みんなに簡単なスープを配るクロ。
「ねえねえ、お湯を入れるラーメンでもよかったんじゃない?」
そんな発言をするビスチェにクロは何とも言えない表情をするが、アイリーンの糸が宙に現れる。
≪それは夜食! 今はクロ先輩の手料理をありがたく頂くべき!≫
アイリーンのフォローに口を尖らせるビスチェ。エルフェリーンは小さな口を大きく開けてホットドックを口に入れ、温かいスープで流すと表情を緩める。
「クロが調理をしてくれるから干し肉から卒業できたんだぜ。僕とビスチェだけのダンジョンの食事は干し肉とドライフルーツに水だけだったからね。今は本当に幸せだよ~」
「そ、そうね……確かにクロが便利すぎる件ね」
口はまだ尖らせているビスチェに褒められニヤリと勝った顔をするクロ。そんな二人を羨ましそうに見つめるアイリーン。背中の白亜は適度な揺れが心地良く眠りについていた。
目的の十四階層まではもう少しである。
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