食べ過ぎと来客
家系ラーメンを彷彿とさせるモヤシ多めの味噌ラーメンを完食した一同はリビングで寛ぎ、シャロンは半分ほど食べて残すと目を光らせたキャロット。
「残りは食べるのだ!」
「お、お願いし、」
「お待ちください。シャロンさま専属メイドである私にも権利がると思うのですが……けぷっ」
シャロンの言葉を遮り立ち上がり闘志のこもった瞳を向けるメルフェルン。しかし、お腹は満腹である。
「これは……ただの食い意地と乙女心の戦いだぁ!」
高らかに実況するアイリーン。彼女もまた食べ過ぎておりそれだけ言うと水を少量口に含みフラフラとソファーへ移動し横になる。
言いたかっただけなのだろう。
「うぷっ、私はまだまだ食べられ……うぷっ……」
「キャロットさん、お願いします」
「任せるのだ!」
察したシャロンがキャロットへドンブリごと渡すと一気に麺を啜りモヤシを口にする。ここでの生活の長いキャロットも自然と箸の使い方を覚え器用に最後のモヤシを口にするとスープまで飲み干し手を合わせる。
「美味しかったのだ!」
「無理して食べなくても大丈夫だったが、キャロットの豪快な食べっぷりは見ていて気持ちが良いな」
クロの言葉に眉間に深い皺を作り殺意のこもった視線を向けるメルフェルン。クロは逃げるようにどんぶりを片付け始め、満腹のメルフェルンは椅子に腰を下ろす。
「僕が完食できたら……ん? フィロフィロはお腹が空いたかな?」
膝の上で寝息を立てていたフィロフィロが目を覚ましシャロンに向けてピィと短く鳴き声を上げ、アイテムボックスから小分けしてあるイノシシ肉を軟らかく煮たものを取り出すとテーブルに上がり大きく口を開く。こういった姿は巣の中で待ち構えるツバメの雛に似ており、早く食事をと催促しているように見える。
「はい、ゆっくり食べるんだよ」
微笑みを浮かべピンセットを使い食事を与えるシャロン。その姿にメルフェルンは先ほどの事など忘れたかのように優しい笑みを浮かべ、他の者たちもシャロンの母親ぶりに笑みを浮かべる。
「肉をいっぱい食べて早く大きくなるのだ」
「キュウキュウ」
キャロットと白亜もフィロフィロの食べる姿を見つめ声を掛ける。いつもなら昼食後にはすぐに遊びに出かける一人と一匹だが、外では雨が降っている事もあり外へは行かずに部屋の中で面白い物を探した結果かもしれない。
「うふふ、一生懸命食べていますね~可愛いですね~」
メリリもフィロフィロを見ながら母性を高め、ルビーはフィロフィロ用に作った首輪をシャロンの前に差し出し口を開く。
「獣魔登録の際には必要になるかと思って昨日作ったのですが、こんなデザインはどうですか?」
皮製の腕輪ほどの大きさでサイズ調整ができ、黄色い毛に覆われたフィロフィロの補色にあたる紫色したアメジストを丸く加工したものが埋め込まれている。リードが付けられるよう金具も付いており、シャロンは手に取ると目を輝かせお礼を口にする。
「すごく綺麗ですね! ルビーさん、ありがとうございます」
「気に入っていただけたのなら良かったです。フィロフィロちゃんも気に入るといいのですが……」
「ピィピィピィ」
大きく口を開け早く食事をと叫ぶフィロフィロ。今は食事が優先だと言わんばかりに鳴き声を上げシャロンはピンセットを使い口へと運ぶ。
「このアメジストはダンジョンで採掘したやつだな」
「はい、あの時はいっぱい怒られちゃいましたが、こうして活用できました」
クロの指摘にルビーは返事をし、この一年で色々あったなと思い出し、クロもルビーとの出会いやダンジョン農法神との出会いなどを思い出しながらフィロフィロの食事姿を見つめる。
「白亜に小雪に七味たちにフィロフィロ……こう考えると色んな種族がいるよな~」
腕を組みここには多くの種族がいると口にするクロ。
「そうですね。ハイエルフにエルフと人族にドワーフとドラゴニュートにサキュバス、ヴァンパイア」
指折り数えるルビー。
「ラミアもいますよ~」
≪私はアラクネです≫
笑顔で口にするメリリ。アイリーンは食べ過ぎ中なのかソファーから動くことはなく文字だけ飛ばす。
「わふっ!」
「小雪はフェンリルだよな。七味たちは蜘蛛の魔物で」
「フィロフィロはグリフォンです」
食事を与えながら口にするシャロン。その横で眠くなったのかシャロンに体を寄せる白亜。白夜と呼ばれる伝説的な古龍の娘である。
「本当に多くの種族がいるわね。前はコボルトの冒険者たちも来ていたわ」
キュアーゼも食べ過ぎなのかお腹を摩りながら口を開く。
「ポンチーロンたちだな。ああ、今はポンニルが引退したからチーロンシャンかな」
「そこは『若葉の使い』といいなさいよ!」
リビングに木霊するチーランダの声に玄関へと視線を向ける一同。七味たちに案内され屋敷へと入りながら挨拶を交わす。
「クロ兄ちゃん! 七味たち凄いよ! 文字を地面に書いてようこそ! って、ここまで案内しれくれた!」
クロの元へ走り興奮気味に話すロンダル。その後ろではリンシャンがメリリと挨拶を交わし、チーランダはルビーとハイタッチをして再会を喜び白亜がまわりを走りテンションを上げる。
「三人とも昼食がまだならラーメン食べます?」
目の前にいるロンダルが素早く手を上げチーランダも同じように手を上げて叫ぶ。
「大盛で!」
「私も大盛!」
「あら、ラーメンとはどのような料理なのでしょうか?」
「今日は野菜たっぷりの味噌味でしたねぇ。麺は太麺で食べ応えがあって、魔法のように柔らかい薄く切ったお肉と味付け中がトロトロな玉子も入れて頂きました。好みで七味を入れると辛さもあり美味しいですよ」
メリリの説明を聞くリンシャンは興味が湧いたのかクロの元へ行き「私もお願いします」と微笑みを向け、七味を入れると、という言葉に七味たちは急ぎ天井へ糸を飛ばし避難する。
「ん? アイリーンは体調不良?」
食べ過ぎて動けないアイリーンを見つけたリンシャンはトテトテとソファーに向かい横になっているアイリーンの不自然に大きくなった胸をツンツンと突き、ロンダルはシャロンが食事を与え終わったフィロフィロを見つめ目を輝かせる。
「可愛い鳥? ああ、グリフォンの赤ちゃんだ!」
「ピィー」
すぐに正解に辿り着いたロンダルの叫びに翼を広げ前足を上げて威嚇するフィロフィロ。シャロンが「めっ!」と叱るとシュンと頭を下げ凹んだフィロフィロを優しく撫でるシャロン。
「ロンダルも急に大きな声を出しちゃダメよ~どんなに可愛くても魔物が驚いたら怖がるし襲われることだってあるわ~」
「ご、ごめんなさい……」
ロンダルはリンシャンが叱り頭を下げて謝罪する。
「いえ、急な大声は確かにそう言うこともありますが、そういう時にこそ冷静に対処できるよう教えるのも大切ですから。フィロフィロは驚かずに対応できるようになろうね。もし良かったらロンダルくんも触ってみて」
「ピィ」
優しく撫でながらフィロフィロに言い聞かすシャロン。その姿を見ながらロンダルはゆっくりと手を出す。すると、フィロフィロはその手に頬を擦り付けパッと笑みを浮かべるロンダル。
「もう仲良しになれたみたいだね」
「うん、フィロフィロの頬は凄くサラサラして気持ちが良いよ」
二人でフィロフィロを優しく撫でる姿に偽乳を突かれていたアイリーンは目を見開きニヤリと口角を上げ、頬を突いていたチーランダはその悍ましい笑顔にその場を飛び退くのであった。
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