下着とパット
シャロンは大きなため息を漏らし膝の上で眠るフィロフィロを優しく撫でる。
「本当に申し訳ありません……」
謝罪の相手はメリリでありテーブルには引き裂かれた大きなブラジャーがあり、風に揺れる洗濯物にフィロフィロがじゃれついた結果である。
「いえいえ、子供のした事ですから~それにクロさまに新しい物を頂けると、うふふふふふふふ~どれに致しましょうかぁ~」
片手で口を押え上機嫌に雑誌を捲るメリリ。その視線はシャロンではなく手元の雑誌に固定され色取り取りの下着を見つめている。そのメリリの横にはアイリーンとキュアーゼがおり身を乗り出して見つめ、クロはというとキッチンでフィロフィロ用の肉を煮ながら昼食の支度をしていた。
「クロがいた世界にはこんなに多種多様な下着があるのね……凄いわ……」
「私は下着にあまり拘りがありませんでしたが……改めて見ると色々な種類がありますね~それにしてもクロ先輩が弁償するといったことに驚きですね~」
「うふふ、こちらの赤い物もいいですが白い物も……ん? 紐がないのに……くっ付いているのでしょうか?」
「それはヌーブラといって胸にくっ付きますね~肩の紐とかがないので肩を出すようなドレスや薄着の時にブラが透けません」
「確かに透けてもこれなら……逆に何も付けていないと思われないかしら?」
「そこは見る側の意見を聞いた方が」
そう言って近くにいたシャロンが座っていた席へと視線を向けるがその場にはおらず、キッチンカウンターへと移動し腰を下ろすシャロン。メリリに謝罪した後すぐに逃げてきたのである。カウンターにひざ掛けを敷きその上に寝息を立てるフィロフィロを寝かせ背を優しく撫でる。
逃げたシャロンを追うようなことはせず、次のページに視線を向けるアイリーンとキュアーゼ。
「うふふ、こちらは大胆な下着ですね~」
「下着というよりも紐ね……」
「これは刺激が強すぎます……私の胸のサイズだとやっぱりスポブラですね~」
「スポブラ? それはどんなものなのかしら?」
興味を持ったのかキュアーゼが尋ね、メリリに断りを入れて雑誌を捲るアイリーン。
「これですね。運動をするのに適したものですね~通気性が良くて蒸れませんし速乾性があっていいですよ~あと、揺れを防止するとかもありますけど……」
言いながら自身の胸を抑えるアイリーンは雑誌から凹凸のない胸に視線を移しリビングのテーブルに顔を伏せる。
「揺れないのは魅力的ね! たまに痛い時があるから私が欲しいわ!」
「うふふ、確かにそれはありますねぇ。魔化した時はそうでもありませんが、どうしても胸の揺れでバランスを崩しそうになることがありますから」
その言葉に顔を上げるアイリーン。この場には一、二を争うほどの大きな胸の持ち主が二名おり、顔を引き攣らせ双方の胸に視線を向け再度リビングのテーブルに顔を埋める。
「進化する時に胸の希望を出して置けば……悔しいです!」
顔を上げ叫ぶアイリーンに胸の大きな両名は困り顔を浮かべ、その隙をつき雑誌を強奪するとクロのいるキッチンへ走り声を上げる。
「クロ先輩! 私はこのパットを十枚お願いします!」
高らかに宣言するアイリーン。クロはといえばお茶を入れており特にリアクションも取らずに口を開く。
「パットだけならアイリーンと七味たちで作った方が自分い合うものが作れるんじゃないか? ほら、最近は布とかも作れるようになったんだろ?」
グリフォンのベッドを作る際に七味たちと協力して作ったシーツの手触りを思い出したクロが口にすると、アイリーンは天井にぶら下がる七味たちに声を掛ける。
「七味たち! 私に協力して下さい!」
キッチンから飛び上がり糸を飛ばして自室へ向かうアイリーン。それを追うように動き出す七味たち。
クロは入れたお茶をシャロンに渡し、アイリーンが置いて行った雑誌をリビングでああだこうだ話し合う二人の元に届けお茶を置くとキッチンへ戻り作業を続ける。
「ふぅ……久しぶりに薪割をしましたが、運動不足には丁度いい運動ですした」
額から汗を流して戻って来たメルフェルン。シャロンが卵を温め始めてからはあまりトレーニングをしておらず薪割を自ら志願し汗を流して増えた体重と向き合っているのだ。
「何か冷たい物でも出しましょうか?」
席をひとつ開けシャロンの隣に座ったメルフェルンは寝息を立てるフィロフィロを見つめながら微笑みを浮かべ「ノンカロリーでお願いします」と口にする。
カロリーという単語の意味を知った女性たちは、クロが魔力創造で創造するケーキなどの甘味のカロリー数を見て驚愕し最近では控えるようにし、積極的に体を動かすようにしている。特にメルフェルンとメリリはその傾向が強く互いに太り過ぎないか罵り合いながら切磋琢磨している。
「でしたら甘くない紅茶でいいですか?」
「いえ、あの、シュワシュワとしたノンカロリーを……」
小さく呟いたメルフェルンの言葉を聞き魔力創造したダイエットシュワシュワをキッチンカウンターに置くと封を開け口にする。炭酸の飲み心地に表情を蕩けさせたメルフェルンはこの一杯の為に薪割を頑張ったのだろう。
「帰ったのだ!」
「キュウキュウ~」
「わふっ!」
キャロットに白亜と小雪が戻りカウンター席でダイエットシュワシュワを飲むメルフェルンを見たキャロットは、喉が渇いていたのだろうかダッシュでキッチンカウンターに向かいクロへ声を掛ける。
「私も飲みたいのだ!」
「キュウキュウ~」
キャロットの横で甘えた鳴き声を上げる白亜にクロは「手を洗ったらな~」とキッチンから声を掛け洗面所へと走り、その姿に微笑むシャロンとメルフェルン。
戻って来たキャロットと白亜の為に同じものを用意していると小雪はアイリーンを探し二階へ上が り、手を濡らしたままのキャロットが席に付くと笑顔で喉を潤し遅れて戻った白亜はシャロンの横に座り寝息を立てるフィロフィロを見つめる。
「キュウ~」
フィロフィロを見つめ大きな目をパチパチとさせる白亜にシャロンが口を開く。
「白亜はフィロフィロに興味があるのかな?」
「キュウキュウ~」
シャロンに話し掛けられ尻尾を振る白亜は興味があるのだろうかシャロンから視線を変え規則正しい寝息を見つめる。
「白亜は新しい仲間が生まれた事を喜んでいるのかもしれませんね」
「キュ!」
クロの言葉にそうだと言わんばかりに短い鳴き声を上げうんうんと頷きシュワシュワを口にする白亜。
「白亜は優しいね。それにしてもクロさんは白亜の鳴き声がわかるのですね」
「ん? いや、わかるというよりも伝わるとかだな。白亜とはもう一年以上も一緒にいるし、初めて会った時は命がけで戦ったからな~」
「キュウキュウ~けぷっ」
クロの話に嬉しそうに相槌を打つ白亜だったが炭酸を飲み嬉しそうな鳴き声の後にゲップをし慌てて両手で押さえ笑い声を上げるキャロットとクロにシャロン。
「シュワシュワは喉ごしが良いのですがゲップに気を付けなゲプッ……ければなりませんね。それはそうと昼食は何を作るのでしょう?」
メルフェルンも同じようにゲップをしたが、そこはサキュバニア帝国の皇子に仕えているだけあって堂々とした態度でなかった事にして話を進め、肩を震わすシャロン。
「たまには野菜多めのラーメンにしようかと思っていますが」
「野菜マシマシでお願いします!」
上から聞こえる声に一同が見上げると糸を使い降りてきたアイリーンが華麗に着地しドヤ顔を浮かべ胸を張る。そこにはどう考えても不自然に大きなふくらみがありツッコミを入れて良いのか迷うクロ。
「どうです! これが私と七味たちの努力の結晶です!」
「えっと、野菜は多くていいんだよな」
「はい、マシマシでお願いします! 味玉もあると完璧ですね!」
クロは胸には触れずキッチンに戻り野菜を炒め始めるのだった。
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