特効薬のお届け
「じゃあ、行ってくるぜ~」
「夜には帰るからワインに合う熱々のピザとカラアゲに魚料理をお願いね」
「二人が暴走しても我が確りと止めるのじゃ。安心して待っておるのじゃぞ。それとハンバーグが食べたいのじゃ」
翌日、エルフェリーンとビスチェにロザリアが王都へと流行り病の特効薬を届けに転移魔法を使い旅立ち見送るクロたち。そこにはグリフォン三頭とフィロフィロの姿もあり卵から孵ったばかりのフィロフィロを抱くシャロンのまわりに集まり覗き込むように見つめる。
「ファンファンが生みの親だからちゃんと覚えなさい」
「キュア姉さん、グイグイ来ないで、フィロフィロが潰れちゃうよ」
グリフォンの成体に囲まれ、それに加えサキュバスの姉もその輪に加わりシャロンは危機感を覚え叫び慌てて離れるキュアーゼとグリフォンたち。
「あの、僕たちは行くからね~夕食は美味しい料理を頼むからね~」
見送りというよりも孵りたてのフィンフィンに視線が集まり手を振って出発を声に出すエルフェリーン。そんな姿にクロは「気を付けて届けて下さい。話せばわかる相手もいますからね~」と声を掛け、口を尖らせながらも転移するエルフェリーンとビスチェ。肩を揺らすロザリア。
「うふふ、エルフェリーンさまの可愛らしい姿が見られて良かったです」
「師匠は幼く見えますからね~むむむ、戦う所は凛々しいのに普段は可愛らしい姿を取るのは最早チートです!」
メリリの言葉に反応し言葉を交わしながら眉間に深い皺を作るアイリーン。
「それよりも問題はフィロフィロがあのベッドに恐怖心を覚えたことよ……」
シャロンの傍から離れたキュアーゼがアイリーンの横に並び昨夜のことを思い出しながら口にする。
昨夜、完成したゆりかご機能のあるベビーベッドを二階へと運んだ三名は力尽きたルビーを階段に残しシャロンの部屋へと突撃したのだ。シャロンの部屋にはクロとメリリにメルフェルンとビスチェがおり、女性恐怖症のシャロンの事を考えドアは開け放たれたままでそこへ突撃してきたベビーベット。
本来なら急停止して驚かせようとしたのだが小さなごみを見つけたクロが動き床に落ちていた黄色い羽を拾ったところでベビーベッドに引かれ、それを目撃したフィロフィロはガクガクと震え、転がるクロは素早くビスチェがポーションを振りかけ大事には至らなかったが、衝突の瞬間や引かれた様を見て恐怖を植え付けられたフィロフィロはベビーベッドに近づこうとはせずシャロンの腕の中で震え、シャロンは腰を強打して蹲っていたクロを心配しながらベビーベッドを押しやって来たキュアーゼとアイリーンにきつい視線を向けるのだった。
すぐに謝罪するキュアーゼと回復魔法を掛けるアイリーンの姿に故意はないとすぐに許したが、フィロフィロはベビーベッドを怖がり肩を落として去って行く二人。
ドッキリさせようと思った事が完全に裏目に出たのである……
「もうキャロットと白亜ちゃんに見つかって荒野を駆けていますからね……」
大きなタイヤの付いたベビーベッドには白亜と妖精たちが乗りそれを力いっぱい押しながら全力疾走するキャロット。その速度はレーシングカートといい勝負をしそうなほど早く、乗っている白亜や妖精たちはキャッキャと声を上げ楽しんでいるのが現状である。
「あれだけ頑張って作り運んだのに……ね……」
肩を落としたキュアーゼの言葉に、アレはアレで楽しめているのになぁと思うクロなのであった。
王都へと向かったエルフェリーンたちは門番と挨拶を交わし、いつもの様に王城へと馬車で送られ王室専用のサロンへと向かう。その道中でハミル王女とアリル王女が現れクロがいないことに驚くが、グリフォンの卵が孵ったばかりだという話を聞きキャッキャとテンションを上げるアリル王女。
「アリルも見たかったです! 可愛いです? 飛びますか? 可愛いです?」
エルフェリーンはそんなアリル王女の頭を優しく撫でながら疑問に答え、「今度遊びに来たらいいよ~」と軽く話しアリルの専属メイドであるアルベルタも目を輝かせる。
「アリル、エルフェリーンさまに迷惑を掛けてはダメよ。私は行った事がありますが普通なら馬車でひと月は掛かる危険な場所なのよ」
ハミル王女からの言葉にアリル王女はウルウルと瞳を潤ませる。
「危険は危ないです?」
「あははは、それは大丈夫だよ~僕が送るからね~ハミルもそうだったろ?」
「それは……ですが、お父さまがお許しになるか……」
ハミル王女は以前、錬金工房草原の若葉へ呪いの解呪と静養のために訪れ、その結果としてクロの料理を口にしマヨ好きになり体型もふっくらと健康体へ変貌したのだ。
「お父さまが許してくれたら行けます! 行ってみたいです!」
潤んでいた瞳を輝かせ叫ぶアリル王女。ビスチェとロザリアもアリル王女がはしゃぐ姿に笑顔を向け、辿り着いたサロンには国王であるルーデシスとその王妃リゼザベールとカミュールの姿があり深々と頭を下げ、エルフェリーンは片手を上げ挨拶をする。
「やあ、今年も流行り病の特効薬を持って来たぜ~」
「毎年ありがとうございます。去年からぐっと感染者数が減りましたが、いつでも対応できるよう努めさせていただきます」
挨拶を済ませソファーに腰を下ろすとメイドたちが忙しなく動き始めお茶の準備を進め、エルフェリーンはアイテムボックスのスキルを使い流行り病の特効薬が入った皮袋を手渡すと壁際に控えていた近衛騎士が国王から受け取り部屋の外へと運ぶ。
「うんうん、みんなが健康に過ごせるよう頑張ってくれよ~僕は笑顔が好きだからね~ハリルとアリルはいつも笑顔を見せてくれて僕は嬉しいんだ」
エルフェリーンが微笑み国王は深く頷き、アリルは立ち上がると国王に走り寄り抱き着きながら口を開く。
「あのね、あのね、エルフェリーンさまのお家に遊びに行きたいの! グリフォンの赤ちゃんが生まれたの! 私見たいの!」
捲し立てるように口にするアリル王女の言葉に国王は渋い顔をするが、合図地を打つように笑顔でうんうんと頷くエルフェリーンの様子を見る限り迷惑だとは思っていないのだろうと思案しながら口を開く。
「エルフェリーンさま方にご迷惑ではないのかしら?」
そう口にしたのは第一王妃のリゼザベール。アリルの生みの親ではないが、実子であるハミルと同じように接し母親として確りと二人の娘を育てている。
「迷惑だなんて思わないよ~うちにはもっと問題児が多いしアリルは良い子だぜ~もちろんハミルも招待するし、ダリルだって来ていいぜ~国王や王妃二人も一緒に羽を伸ばしに来るかい?」
「我らまで良いのでしょうか?」
「ああ、構わないぜ~空いている部屋もあるし、来ればクロの料理が食べ放題だぜ~」
その言葉に目を輝かせる女性陣。特にハミル王女はマヨ好きであり甘味が大の好物で、この城の料理長が再現不可能であったチョコレートを使った甘味を思い浮かべ口元には涎が……
「是非、行きたいのだが我は国政の仕事が……」
国王が悔しそうな表情を浮かべ腕を組むと第三王妃カミュールが口を開く。
「でしたら、私が二人の保護者としてお邪魔致しますわ。面倒をかけては申し訳ないので数名のメイドを連れて行っても宜しいでしょうか?」
「あら、それなら私も行きますわ! クロの料理は楽しみですもの!」
第一王妃も立ち上がりそう口にするとエルフェリーンは笑い出し、ビスチェは何故かドヤ顔を浮かべ、ロザリアは一国の王妃二人と王女二人のフットワークの軽さに、これで良いのかと思いながらも苦労するのはクロだけなのじゃと、心の中で忙しなく料理を作るクロの姿を思い浮かべるのだった。
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