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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十四章 シャロンの子育て日記
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顔面セーフ



 夕食を済ませたクロはリビングで食後のお茶を飲み寛ぐ皆に声を掛ける。


「えっと、夕食のときにも話しましたがグリフォンの卵がそろそろ孵ります。女神ベステルさまからは三日後に孵ると言っていたので、今日の深夜から明日の深夜までには殻を破って出てくると思われるのでシャロンへ近づかないようにして下さい」


「えっ!? 殻を破る瞬間を見られないの!」


 クロの宣言にビスチェが声を上げるとキュアーゼが立ち上がり口を開く。


「そうよ。残念だけどこればっかりはダメよ。グリフォンの雛は最初に見た者を親だと思うのよ。それは他の鳥類にも多く見られる現象で最初に見た者を親と思い込むからよ。もちろん魔力を与え続けたシャロンを親だと意識はするけど、魔力を感じ取る力が弱い個体だと最初に見た者を完全に親だと認識しちゃうから注意が必要なのよ。シャロンは自室に籠って卵が孵るまでは出てこないこと!」


 シャロンをビシッと指差すキュアーゼ。ビスチェも納得したのか「それなら仕方がないわね」と口を尖らせる。


「はい、頑張ります……」


 自信無げに応えるシャロンは視線を首からぶら下げる卵に向け優しく手を置き魔力を通す。すろと、卵が動き振動が手に伝わり元気に生まれてくるのだろうとシャロンを安心させ、させるのだが、その振動は次第に大きくなり手に伝わる振動というよりもカツカツカツカツと中から卵の殻を突いている様なものへ変わり立ち上がる。


「う、産まれます! 僕は部屋に行きますね!」


 瞬時に魔化したシャロンがサキュバス特有の蝙蝠のような翼を広げリビングの吹き抜けを跳び上がり、自室の前に着地すると中へと急ぐ。

 それをポカンと見つめていたルビーとアイリーンはキュアーゼに肩を揺らされ未完成の赤ちゃんベッドを完成すべく互いに頷き合い鍛冶工房へと向かい、それを追い掛ける小雪。

クロは事前から言われていたお湯と清潔タオルを用意しにキッチンへ向かいお湯を沸かし桶とタオルを魔力創造する。

 シャロンの専属メイドであるメルフェルンは立ち上がりアタフタとしていたが同じメイドのメリリにお尻をパンと叩かれ「うふふ、手伝う事はありますか?」と微笑まれ、いつもの冷静さを取り戻す。


「すぐに孵る可能性がありますが長くなると危険なのでポーションを用意して部屋の前で待ちましょう。それと孵ってすぐはお腹が減っている事が多くクロさまにお願いして軟らかく煮た肉を用意してもらって下さい」


 メルフェルンの言葉にエルフェリーンがテーブルに三種類のポーションをアイテムボックスから取り出し並べ、クロもアイテムボックスに入れていたイノシシ肉を軟らかく煮て解したものを木製の小皿に入れ替えキッチンカウンターに用意する。


「右から上級ポーションに中級ポーションと下級ポーションだぜ~スタミナポーションや万能薬もあるから必要なら声を掛けてほしいな~」


 ニコニコとしながら話すエルフェリーンに頭を下げたメルフェルンはポーション三種を手に取ると二階へと走り、メリリはキッチンカウンターに用意された小皿を取り二階へと急ぐ。


「元気に生まれてくると良いのじゃが……」


「あら、女神さまがご神託までしたのよ。元気に生まれてくるわよ」


 心配そうに吹き抜けを見上げるロザリアにビスチェが声を掛け二人は微笑み頷き合う。


「グリフォンの成体は見た事があるけど幼体はやっぱり可愛いのかな?」


 エルフェリーンもリビングを見上げ、それにつられるようにビスチェとロザリアも視線をシャロンの部屋がある二階へ向ける。


「我も見た事がないのじゃ……」


「鳥の種類は子供と大人で見た目が違う事が多いわね。グリフォンはそもそも鳥類?」


 その問いに視線をビスチェに向けるエルフェリーンは腕を組んで頭を傾け、ロザリアは顎に手を当て考え込む。

 グリフォンは鷲の頭と翼を持ち胴体は獅子の姿をする四足歩行の魔物である。もしグリフォンが現代の地球に現れたのなら学者たちは大いに悩むことになるだろう。


「グリフォンはグリフォンでいいじゃないですか」


 そう声を掛けたのはキッチンでお湯を沸かしていたクロで考えていた二人も顔を上げ「そうだね~」「うむ、考えても解らんのじゃ」と口にする両名。


「そうそう、明日は完成した流行り病の薬を届けに王都へ行くけどクロはどうする?」


 毎年王都の錬金工房と王家へ届けに行っているエルフェリーンからの言葉に、クロはシャロンが大変な今はここに残り孵るだろうグリフォンのお世話を手伝った方がいいのか悩みながら口を開く。


「ドワーフの王様の件は前に済ませて問題ないと思いますし、教会への寄付はエルフェリーンさまにお願いしてもいいですか?」


「うん、それぐらいかまわないよ~なんなら一人で行ってもちゃんと届ける事ぐらいできるぜ~」


 最低でも数千年生きているだろうハイエルフのエルフェリーンを初めてのお使いに出す気分になり、何とも言えない表情を浮かべるクロ。


「あら、私が付いていくから大丈夫よ」


「クロが不安なのなら我も付いて行くのじゃ」


 ビスチェとロザリアからの言葉に冒険者ギルドの受付嬢からエルフェリーンさま方がやり過ぎないように注意して欲しいと頼まれた事が頭にちらつき、改めて三名を視界に入れ、幼く見えるエルフェリーンと、美人だがすぐに手が出るビスチェに、ヒラヒラしたドレスを纏った貴族風の背伸びしたお嬢さまを連想させるロザリアの姿に、胸が不安でいっぱいになるクロ。


「アイリーンが一緒なら心強いが……」


 小さく漏らした言葉にケラケラ笑い出すエルフェリーン。ロザリアは口をあんぐりと開け固まり、ビスチェは笑顔のまま指をボリボリと鳴らす。


「あら、私たちだけじゃ頼りないかしら?」


 ビスチェの笑顔にクロは数歩下がりながら口を開く。


「戦闘面なら最強です。でもほら、前に冒険者ギルドの受付の人にやり過ぎないように注意してくれって言われたろ。この面子で絡まれたら絡んできた奴と街並みが心配かなと……」


 シールドを発生させて言い訳をするクロ。指を鳴らし笑顔を向けてきたビスチェはキョトンとした表情へ変わり、クロは二階でドアが開く音と叫ぶ声に視線を向け、視界一杯に広がる黄色い翼と小さな前足。


「うわっ!?」


 驚いたクロは慌てて払いのけそうになるが二階から叫ぶ「フィロフィロ!」というシャロンの声にその手を急停止させ、顔面に衝撃を受けながらも優しく捕まえる。まだ生まれたばかりという事もありその体毛は柔らかくサラサラとした手触りで、匂いも仄かに甘い香りを感じながら優しく包っこむように捕まえたグリフォンの雛を顔から剥がし見つめる。


「元気に孵って良かったなフィロフィロ」


「ぴぃ~」


 クロの言葉に反応して鳴き声を上げるフィロフィロ。二階から降りてきた面々はクロがフィロフィロを捕まえている事に安堵の表情を浮かべ、手すりに体を預けるようにぐったりとしているシャロンへと足を向けるクロ。


「無事に生まれて良かったな」


「はい、元気過ぎる気もしますが無事に生まれてくれて良かったです。孵ってすぐ僕を親だと認識してくれたのですが、お腹が減っているのか部屋中を飛び回ってしまい……」


「私が焦ってドアを開けたのが悪かったのです。申し訳ありません」


 部屋から飛び出して来た経緯とメルフェルンのミスを知ったクロは両手で優しく持つフィロフィロをシャロンに預け、アイテムボックスから事前に用意していた猪を軟らかく煮たものを器に入れテーブルに置くのだった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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