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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十四章 シャロンの子育て日記
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名前決めとナイショだよ!



 来客を見送ったクロたちは屋敷へと戻り特効薬の仕上げをすべくエルフェリーンとビスチェが錬金室へ籠り、クロは昼食を用意する為にキッチンへ向かいそれを追い掛けるメリリ。キャロットと白亜に小雪は七味たちとかくれんぼ的な追いかけっこをはじめ、アイリーンは庭に置いてある椅子に腰を下ろしキュアーゼとロザリアにルビーと何やら話し始め、シャロンとメルフェルンは遠くに見える黒い雲を視界に入れると屋敷の中へと足を進める。


「シャロンさま、一気に人が減ると静かに感じますね」


「うん、そうだね。ラライやフランとクランがいると騒がしく感じるけど、いなくなると寂しく感じるね。王宮もそうだったけどキュア姉さんがいなくなってキョルシーが寂しがってないか少し心配だよ」


 いつも笑顔を見せながら飛びついてくる幼い妹のキョルシーを思い出して口にするシャロン。その表情もやや曇っており自信の女性恐怖症を直すべくこの地にいるがまだまだ改善する事はなく、女性が多く集まる様な状況では自然とその場を離れ、先ほど見送る時も皆と少し離れた位置から手を振っていた事を思い出す。


「キョルシーさまはシャロンさまにべったりでしたね……確かにキュアーゼさまもこちらに来られておりますと寂しがっているかもしれませんね……」


「キュア姉さんを送るついでに一度帰るのもいいかもしれないな。エルフェリーンさまが手を貸してくれれば一瞬で行き来できると思うし……」


「エルフェリーンさまの転移魔法は伝説的な魔術なのですが……一度体験するとその凄さが理解できます……」


 サキュバニア帝国からこの地まではグリフォンに乗り空の旅を一週間ほどした場所なのだが転移魔法なら一瞬でサキュバニア帝国に到着できる。それこそ隣の部屋に移動する程度の手間で離れた地に到着でき、初めて体験したクロは「これぞチート魔法」と口にしたほどであった。


「エルフェリーンさまが手を貸してくれればだけど……ああ、そうだ。思い出したけど、明日か明後日には卵が孵るそうだから準備しておくこととかあるかな?」


 リビングに入り窓辺のソファーに腰を下ろすシャロン。何気ない会話の中に驚くべき予言を耳にし目を見開くメルフェルン。


「あの、明日孵るのが分かるのですか?」


「ああ、昨日の晩にクロさんと女神の小部屋で泊まった時に女神ベステルさまが降臨なさって、三日後には産まれるとご神託を受けたからね。昨日の夜だったから早ければ明日の夜、遅くても明後日の夜には卵から孵るはずだと思うよ」


 首から下げる卵を優しく撫でるシャロン。時折、卵が動き神託がなくてももうすぐ卵から孵ると予想できるだろう。


「それは凄いことですね……必要な物は体が冷えないよう柔らかい布を用意して置く事ぐらいでしょうか。もし血など付着しているようなら温かい布で拭いてやり、柔らかく煮た肉を用意して与えるぐらいですね。そうです! 名前も決めておかなくては!」


「名前……確かに事前に決めておいた方がいいですね。その場ですぐに名前を呼べばこの子も嬉しいと思うし……フェンフェン、ファンファン……」


 首から下げた卵を両手に当てながら名前を考えるシャロン。そこへお茶を持ったクロが現れ難しい顔をする二人に声を掛ける。


「二人して難しい顔をしているが何かあったのか?」


「えっと、この子の名前を考えていて……」


「ああ、名付けなら真剣に考えないとだな。フェンフェンとファンファンに近い名前にするのか? 同じ擬音が二つ続いているけどさ」


「グリフォンの名付けは繁栄するよう同じ言葉を二度並べる事が伝統としてあります。その子も同じ名を並べ、次の子が健康的に生まれるようそうした方が宜しいかと」


「だよね……フォンフォン……シャンシャン……フィロフィロ……うん、フィロフィロにしよう! 君の名前はフィロフィロにする!」


 その言葉に反応するように手を添えていた卵が揺れシャロンは優しく撫でながらフィロフィロと声にする。


「早く孵るといいな」


「はい、フィロフィロが孵ったら一番にクロさんを呼びますね」


 笑みを浮かべながら話すシャロンにメルフェルンが嫉妬で顔を歪めるのは仕方のない事だろう。


「さっき話していたが柔らかく煮た肉が必要か?」


 眉を吊り上げ視線を向けるメルフェルンを視界から外しながら口にしたクロにシャロンは頷き口を開く。


「この子が最初に食べる物の話です。野生のグリフォンは細かく裂いたウサギや魚を与えますが、サキュバニア帝国では軟らかく煮た猪の赤身やウサギの肉などを与えますね。果物なども好物として与えますが最初は体力がつくように煮た肉を与えるようにしています」


「それならアイリーンが前に獲ってきたイノシシの肉があるからそれを煮ておくかな。ついでに角煮でも作るかな~」


「クロさま、角煮とはあのトロトロとした食感の柔らかい肉ですよね? ですよね?」


 ですよね? の度にグイグイと身を近づけるメルフェルン。その表情は嫉妬に燃えていたものではなく、早く角煮が食べたいといったものへ変わっており、早く作ろうとキッチンへ逃げるクロ。

 そんなやり取りに肩を揺らすシャロンは手の中の温もりに魔力を通すのだった。





「これならグリフォンの赤ちゃんも安全だし喜ぶわ!」


「ここの部分が面白いですね。不安定にすることで揺れを起こし、その揺れで安眠作用が生まれるとは驚きです!」


「ふふふ、私はこれでも七味たちのお母さん気取りですからね~お母さんは言い過ぎかもしれませんが、母性の塊です!」


 キュアーゼとルビーにアイリーンがテーブルを囲むのは庭の一角であり、その声は集まって来た妖精たちに聞かれているが彼女たちの頭の上には大きな文字で〈ナイショだよ!〉と糸で作られた文字が浮かんでいる。その文字と彼女たちを交互に視線を向けた妖精たちは人差し指を立て「しぃ~だね」「しぃ~だよ」「しぃ~楽しい」とケラケラと笑い声を上げる。


「下にストッパーを付ければ揺れる事はありませんし、柵を付ければ勝手に出歩くこともないですね」


「生まれてすぐは飛べないから安全であることには間違いないわね」


「どのぐらいで作れます? もうすぐ孵りそうな気配を感じますけど」


 アイリーンが手書きした赤ちゃんベッドを見つめるルビーは腕組みをし、脳内で材料を切り出し組み立てニスを塗り加工する。


「頑張れば二日、いえ、一日で仕上げて見せます!」


 ルビーの頼もしい言葉にキュアーゼは抱き着いて喜びを示しアイリーンも笑みを浮かべる。


「赤ちゃん用のシーツやマットレスは私の糸で用意しますね~」


「ぷはっ!? キュアーゼさん、キュアーゼさん!! ぐるじぃ、苦しいです……」


 大きな胸から抜け出したルビーは大きく息を吸い込み深呼吸をし、キュアーゼは自身の大きな胸をペタペタと触りながら申し訳なさそうな顔をする。


「ごめん……よくこれでシャロやキョルに怒られたっけ……ルビーを見てるとキョルを思い出しちゃって抱き着きたくなるのよ~」


「キョルシーちゃんはあの幼い子ですよね……そんなに小さくないと思うのですが……」


 ドワーフのルビーは身長が低く王都の街中ではよく子供に間違えられる事があり、ドワーフの男性は髭があるお陰でそういった事はないが、ルビーのような女性のドワーフはよく間違えられドワーフあるあるなのだろう。


「グヒヒ、抱き締めたいのなら私が代わりますよ~お姉さま~」


 下卑た表情で抱き着きに来るアイリーン。それを素早くアイアンクロ―で押さえつけたキュアーゼは鳥肌が立つのを感じ身震いするのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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