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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十四章 シャロンの子育て日記
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そばがきと飲み過ぎ注意



 フランとクランの朝食はエルフに伝わる薬草のスープと野草を使ったオムレツにソバの実を使ったクラッカーのようなものであった。

 それを懐かしく思いながら食べるビスチェ。キャロットと白亜にラライは顔を歪めながら食べ、メリリが渡したジャムをたっぷりと付け満面の笑みに変わる食卓。お酒を飲んでいた面々は二日酔いでダウンしている事もあり空席が多いが、それでもフランとクランが振舞ってくれた朝食を口にクロたち。


「ジャムを付けると美味しいのだ!」


「キュウキュウ~」


「ん……ジャムは最強……」


 クランもそれに加わりクラッカーにジャムをたっぷりと塗り口に運ぶ。


「クランもジャムつけるのかよ……これはエルフに伝わる伝統的な料理なのに……」


「あら、伝統を重んじるのは大切だけど、新しい物を見つけ有効活用するのはもっと大事よ」


「……ん……美味い……」


 普段からあまり表情に出さないクランが笑みを浮かべる姿にフランもイチゴのジャムを取りクラッカーに付け口に運ぶ。


「うまっ!? 思ってた通りに美味い……」


 そんな感想を漏らすクランはクロへと視線を向け、クロは苦みのある野草を使ったオムレツにケチャップをかけようとしていたがその手を止める。


「えっと、伝統を守るのも大事だと思うぞ。まあ、ものによるけどけな」


 適当な言葉にジト目を向けるフラン。ビスチェは肩を揺らし、アイリーンは薬草入りのスープを口に入れながらも味には満足なようでクラッカーを付け口に運ぶ


「この世界にもソバの実があるのですね~」


「殻ごとひいているから真白ではないが、蕎麦の風味がよく出ていて美味しいよな」


「焼く前のを茹でてめんつゆに付けて食べてみたいです」


「それこそそばの味がすると思うぞ。黒蜜やあんことも相性がいいからそばがきにしても美味いかもな」


「ん……興味ある……」


「私も興味があるわ! 黒蜜とあんこを掛ければ甘味だもの!」


「あるのだ!」


「キュウキュウ!」


 クランがクロの背中を軽く叩きながら目を輝かせ、ビスチェやキャロットに白亜が賛同したことでクロは立ち上がりキッチンへと向かう。


 キッチンに辿り着いたクロは湯を沸かしそば粉をボウルに入れ湧いた湯をかけ混ぜる。だまにならないよう均一に混ぜ、お椀に一口サイズに練り分け入れると黒蜜と餡子にきな粉を軽く振りかけ完成させる。


「うふふ、絶対に美味しい気がしますぅ」


 そう言葉を残して皆にそばがきを運ぶメリリ、クロはそのままキッチンに残り同じようにそば粉に熱湯を入れ混ぜるとそれを油で揚げ、めんつゆに水を入れに火かけ長ネギを刻み、揚げたそばがきを浮かせて揚げ出し豆腐のようにして味見をする。


「やっぱり美味いな……そばがきは色々な食べ方があるけど俺はこっちだな……ん? シャロンも食べるか?」


 リビングからキッチンカウンターに座り直したシャロンに見つめられ、クロは揚げ出しそばがきをシャロンに振舞う。リビングでは甘味を口にして盛り上がっておりキュアーゼとアイリーンが特に気に入ったのかおかわりが欲しいという視線をクロに向け、クロはおかわりを作るべくそば粉に熱湯を入れ混ぜ始める。


「そばがきを練る作業は力仕事だからおかわりは自分で混ぜて欲しいな……」


 グリグリとヘラを使って混ぜるクロ。シャロンはそれを見ながら揚げ出しそばがきを口に入れ、まわりのサクッとした食感と中のねっとりとした食感に醤油ベースの出汁香る味を楽しむ。


「そばがきはシンプルに山葵醤油でも美味しいからそれも楽しんでもらいたかったが、はぁはぁ……ラライ、手伝ってくれ」


「うん! 任せて!」


 椅子から飛び起きるように立ち上がったラライがクロの下に向かい力仕事を引き受けそばがきを混ぜ、クロは腕を解しながら黒蜜とあんこを魔力創造し、それを待つキュアーゼとアイリーンは笑みを浮かべ、白亜はお椀を切りに舐め取りおかわりを求めてシャロンの隣に腰かけ尻尾を振る。

その姿に自然を笑み浮かべるシャロン。


「白亜はクロさんの料理が好きかな?」


「キュウ!」


 シャロンの問いに迷いなく鳴き声を上げる白亜の姿に、自分もクロさんのような親代わりに慣れればと思いながら白亜の頭を優しく撫で、目を細める白亜。


「自由に取れるよう多めに作ったからテーブルにお願いします」


 そばがきを一口大に丸めた大皿をメルフェルンが運び、メリリは餡子と黒蜜を運ぶ。その後を追いかける白亜。リビングから歓声が上がり自由におかわりする女性たち。そこへドランとオーガの男たちが青い顔をして現れ「ギギギ」と声を上げる七味たち。


「完全に二日酔いですね~エクスヒール」


 アイリーンが糸を飛ばし得意の回復魔法を三名にかけると光に包まれ、顔色は一瞬で赤みが差す。


「おお、すまぬのう……これは心地の良い光じゃ」


「………………凄いな……」


 三名が現れたことでフランとクランがそばかぎの列から離れ、朝食の薬草スープにオムレツやクラッカーを用意し提供しお礼を言い、それを口にした三名は顔を歪めることなく口に運ぶ。


「うむ、懐かしい味じゃ……二日酔いだった頭をシャキッとさせてくれるのう……」


「はい、この苦みは心地よさすら感じます。二日酔いだった事も忘れさせてくれます」


「苦いが美味い……それにこのオムレツのシャキシャキとした歯応えがいい……」


 エルフの伝統料理を用意した朝食を喜んで食べるドランとオーガの姿にフランとクランは二人でハイタッチをし、クロに向けどうだと言わんばかりに無縁を張る。クロもよくやったと数度頷き、次に起きてくるだろう二日酔いたちに向けラライと共にそばがきを用意するのだった。









「絶対にすぐ戻るからまたカート対決させてくれ!」


「ムフゥ~またやりたい!」


「私も! 私も! 絶対にやりたい!」


 フランとクランにラライはレーシングカートに乗りテンションを上げるが、ここへ来た目的は流行り病の特効薬を受け取るというものであり受け取ったならすぐに帰らなければならず名残惜しく宣言したのである。


「次はもっとカートを増やしますから楽しみにして下さいね」


 制作者であるルビーがその反応を受け嬉しかったのか声を上げ、三名も喜びの声を上げる。


「はぁ、すまなかったね。調子に乗って二日酔いとか……」


 飲み過ぎを謝罪するナナイの言葉に、クロはこれが一つの村を守る長の対応なのだろうと感心する。


「うむ、我も飲み過ぎたのう……あんなに飲んだのはここ数十年ないからのう……」


「うんうん、飲み過ぎたね~でも、また飲もうぜ~ナナイも一緒に飲んで未来の若者たちに残すべ教えを語ろうぜ~」


「えっと、語るのは良いのですが飲み過ぎるのは……」


「エルフェリーンさまも少しは体をご自愛くださってほしいものじゃのう……」


「そうですよ……一番遅くまで寝ていたのですからお酒の量は減らして下さい」


 一緒に飲んでいたドランとナナイに加えクロからも怒られたエルフェリーンはバツが悪かったのか逃げるようにロザリアの後ろに隠れ、それでもクロはジト目を向ける。


「我も飲み過ぎたのじゃ……その、なんじゃ……注意するのじゃ……」


 軽く頭を下げ謝罪するロザリア。その対応にエルフェリーンは身を仰け反らせて驚き、味方になってくれる人をキョロキョロと視線を走らせ探すが見つからずわかりやすい笑みを浮かべる。

 笑って誤魔化そうとするエルフェリーンに、クロは暫く魔力創造でお酒を創造するのを控えるようと心に誓い皆を見送るのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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