ダンジョンの中は危険です
ダンジョンは大きく分けて二種類の物がある。
ひとつは通路形と呼ばれる迷路になったダンジョンで石造りの壁やレンガの壁の通路が続き、広い部屋にはボスと呼ばれる魔物が存在し冒険者の侵入を阻む。通路には罠などもあり、定番の落とし穴や巨大な玉が転がってくる罠などが有名だが催涙ガスや転移の罠などもあり、気の抜けない冒険が強いられる。
もうひとつはフィールド型と呼ばれるダンジョンである。クロたちが潜っているダンジョンもこれにあたり、広い空間は別の世界を区切ったかのような風景が広がり草原や荒野に川や海といったエリアに別れている。中には二十四時間夕日のエリアや日の登らないエリアなどがあるが、そういったエリアを回避する方法もあり通路型ダンジョンよりは危険性が低いとされている。
回避する方法としては一階から下に降りると二階なのだが二階からは複数の入り口が存在し、真っ直ぐ行けば三階へ、東へ行けば四階に通じる階段が、西に行けば八階に通じる階段があり、ご丁寧に階段の入り口には次の階層が記載されている。
先人たちが安全に冒険できる様に注意点が記載された地図も買う事ができるが、冒険者は独自の調査でより安全に行けるルートや採取ポイントに危険な魔物が出現するエリアなどを秘蔵しているのが殆どである。
「と、こんな感じかな~ダンジョンで気を抜いていいのは冒険を諦めた時だからね」
「それって、どう足掻いても死ぬ時じゃ……」
「そうだね! だからこそ気を抜かない様に! 白亜はクロのリュックから出ちゃダメだからね!」
「キュゥ……」
クロの背中から震える声で返事をする白亜の頭を優しく撫でるアイリーン。
≪私も白亜を守るからね≫
小さく宙に浮かせた文字にコクコクと頭を下げ頼もしく思う白亜。
「ここからは魔物がでたらアイリーンにお願いしようかな。まだ三階だし出てくる魔物は芋虫と小さな蜥蜴だけだからね。芋虫は転がって攻撃をして来るから避ければいいし、蜥蜴は噛みついて来るぐらいだから、どっちも避けて首を刎ねれば楽勝だよ」
頬笑みながら話すエルフェリーンに、それは簡単じゃないだろと思うクロ。
「大変そうな時はシールドを飛ばすからな」
≪任せて! 前は戦闘らしい事してないから楽しみ。ワクワク!≫
アイリーンが先頭にでて進み始めた場所はダンジョンの三階であり、街道の様な長い道と街路樹が定期的にある見晴らしのよい草原。遠くには一メートルサイズの芋虫が数匹見えるがこちらに気が付いておらず、無理に戦う事はないと走り出そうとしたアイリーンに声をかけるビスチェ。
「あっちは放置でいいわよ。一々全部倒していたらキリがないし、芋虫の魔石は安値だしドロップアイテムの糸も普通の糸だから使い道はあってもその辺で買うのと変わらない強度。戦うだけ体力の無駄ね。それよりも街道脇の木に注意する! 蜥蜴は木から襲ってくるからね。クロも注意よ!」
≪了解!≫
「ああ、気をつけるが……ピンクの蜥蜴?」
先に見る街路樹に張り付くピンク色の蜥蜴が視界に入り毒々しい色に眉を顰めるクロ。
「おお、珍しい特殊個体だよ。あれはこの辺りの蜥蜴の上位種だね。出現する魔物の中にはいま見える特殊個体と呼ばれる魔物がいてね、少しだけ強かったり特別な力がある珍しい魔物なんだ。ただ、あれは三階に出るから珍しいだけで、六階や八階には普通に生息する魔物だね」
街路樹に張り付く手の平サイズのピンク色した蜥蜴を見ながら、こんなに派手だと見つかり易いのではと思うクロ。アイリーンは魔力で紡いだ糸を飛ばすと街路樹に張り付けになり手足をバタバタさせる。
「ナイスコントロール! ピンク蜥蜴の尻尾は旨味が強くてスープにすると美味しいわ! ドロップアイテムも小さな尻尾よ! 里ではピンク蜥蜴を狩った日はみんなでスープを配って小さなお祭りになったほど美味しい出汁が取れるのよ! 乾燥したキノコと合わせて煮込むと美味しいのよ!」
テンションを上げて走り出したビスチェはもがくピンク蜥蜴にナイフを刺し入れるとその姿は光りの粒子へと変わり、ストンと小さなピンクの尻尾とピンク色した小さな魔石がビスチェの足元に転がる。
「あの尻尾は冒険者のお守りでもあるんだぜ。冒険者見習いが無事に帰って来れる様にあの尻尾を干して先輩冒険者がプレゼントする風習もあるんだ。ビスチェはスープにする気みたいだけどどうする?」
エルフェリーンがアイリーンに顔を向け尋ねると、頬笑みを浮かべ宙に糸を放出して文字を描く。
≪もちろんスープで!≫
「やった!」
話を聞いていたのか喜びながらピンクの尻尾と魔石を拾うビスチェ。クロはシールドをビスチェの上へと飛ばし、アイリーンが走り一気に距離を詰めて糸を飛ばす。
「グギャ!」
ビスチェがしゃがみ見上げると半透明なシールドの先には三匹の灰色蜥蜴がアイリーンの糸に絡まりもがく姿が目に入る。
「ははは、油断したらダメだよ~」
エルフェリーンが笑いながら声を掛けビスチェも自身の危機に顔を引き攣らせ立ち上がると、糸を飛ばしたアイリーンの元へと下がる。
「助かったわ……ピンク尻尾に慎重さを欠いたわ……ありがと」
≪無事で良かった≫
文字を宙に浮かべると新たな糸で灰色蜥蜴の頭部目がけ放出した鋭い糸で頭を貫き、落ちてくる小さな魔石三つと干からびた灰色蜥蜴。
「ドロップ品は当たり外れがあってね、魔石は必ず落とすけどドロップ品は落としたり落とさなかったりする。今回は三匹倒したけどドロップ品はひとつだね。ほら、干した灰色蜥蜴。これは薬品になるし、焼いて食べると癖があるけど香ばしくて美味しいね。お酒が欲しくなる味だよ~」
干からびた灰色蜥蜴を拾うエルフェリーンに、小さな蜥蜴を焼いて食べるとか異世界だなぁ~と思うクロとアイリーンだった。
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