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帰還を拒否した先で見た世界  作者:
第十四章 シャロンの子育て日記
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安産祈願



 竈の火を消しドランとオーガの男たちが寝る元の屋敷へと足を進めるシャロンとクロ。月明かりはなく手にしたナイフに魔力を通しオレンジの輝きで足元を照らす。


「もうすぐ梅雨だな……」


 小さく呟くクロ。この世界には梅雨はないが、クロたちが住む場所は北からの風と南からの湿った空気がぶつかり合い大きな雲を作って雨を降らせることが多く、クロが自然と梅雨と呼び、エルフェリーンたちもクロの話を聞き面白がってそう呼んでいる。


「ひと月ほど雨が降る時期の事ですよね」


「ああ、あっちにいた頃の梅雨はやっかいでジメジメとした日が続くと気分が落ち込んだりするが、それも気の持ちようなのかもな~」


「気の持ちようですか?」


「気候的にもあれだが、ほら、みんなが居ると楽しいからさ」


 その言葉にシャロンが微笑みを浮かべるがクロは先を歩いている事もあり気が付かず、違う事に気が付いたクロは大きくため息を吐く。


 グガガガガガガガガガ


 それはまるで地響きのようで、それに加えてオーガたちのイビキも加わり苦笑いを浮かべるクロ。


「凄いイビキですね……」


 家の前までやって来たのが玄関のドアに手を掛けたまま開けるのを戸惑うクロは、後ろにいるシャロンへ振り返り口を開く。


「ここで眠れると思うか?」


 無言で首を横に振るシャロン。


「だよな……それなら、あそこでねるか」


 そう口にしてクロはスキルを発動させ中へと足を進めついて行くシャロン。


「前に入った時よりも広くなっていますね」


 女神の小部屋に入ったシャロンが中を見渡し、壁際に飾られているこの部屋の由来となっている女神シールドの感覚が広がっている事に気が付き口にする。


「ああ、女神の小部屋は俺の魔力量と比例して大きくなるらしいからな~ベッドを魔力創造して、枕に毛布とシーツに……」


 クロは宿泊に必要な物を魔力創造で創造する。女神シールド内にはクロがひとりで寛げるようにソファーやテーブルなどはあるが宿泊する為のものなどはなく、ベッドを二つ並べ毛布などを用意する。


「ここに入るのも何だか懐かしいですね」


「まあ、俺自身もそんなに頻繁に入ることもないし、前に入ったのもポーションや素材の様子見ぐらいだしなぁ」


 クロが視線を向けた先には木箱があり、その中には多くのポーションや素材となる加工した鉄やミスリルといったものが入っており女神シールドから発生する聖属性の光を当ててその変化を観察している。現在はポーションの回復効果が上がったり銀がミスリルに近い変化が起きたりと何かしらの確認できている。


「聖属性の付与実験ですね……やっぱりクロさんは凄いです……」


 首から下げた卵に手を当てて口にするシャロン。クロはシーツを敷き終えるとシャロンへと振り向き口を開く。


「そうか? 俺からしたらもう何日もフリフォンの卵を首から下げて生活しているシャロンの方がずっとすごいと思うぞ。定期的に魔力を卵に注いで疲れるだろうし、卵を首からぶら下げているのも地味に重くて疲れるだろ」


 グリフォンの卵は温めただけでは孵る事はなく魔力を必要とする。一気に魔力を注げば破裂し、逆に少なければいつまでも孵る事はなく石のように硬くなり死滅する。適量を数時間おきに与え続ける必要があるのだ。


「それはそうですが……」


 クロの言葉に俯きながら小さく呟くシャロン。


「ちょっと違うかもしれないが妊婦さんみたいなものだろ。シャロンが卵に魔力を注いでいる時は本当に母親みたいな顔をしているからな~」


「そ、それは……でしょうか?」


「ああ、凄く優しい顔をしているからな。早く産まれるといいな」


「はい! あっ!? 動きました!」


 首から下げた卵の小さな動きに声を上げるシャロンはとても嬉しそうに話し、クロはそんな嬉しそうに話すシャロンを見て微笑む。


「もしかしたらそろそろ孵るのかもな」


「まだ早いと思いますが……えっ!?」


 シャロンが視線を移して驚きの声を上げ、クロはシャロンが見つめる自身の後ろを振り返ると顔を引き攣らせる。


「その子が孵るまであと三日は掛かるわね!」


 ビシッと指差し口を開いたのは女神ベステルであり、女神の小部屋と名付けているが本物の女神が降臨するなどと思っていなかったシャロンは口を開けたまま固まる。


「あの、何か御用ですか?」


 引きつらせた頬を動かし口を開いたクロの言葉に女神ベステルは満面の笑みを浮かべる。


「ふっふっふ、私の聖域ではないこの場所は本来なら顕現する事は叶わない場所なのだけどね~できちゃった(笑)」


 (笑い)まで口にする女神ベステルにクロは思う。


 この神は自由にし過ぎではないかと……


「いや~試してみるものね~私の姿絵を模したシールドを何枚も張って神域に近い状況を作り出すとか……これって発見というよりも発明に近いわ! 教会に私の像を飾り神聖な空間とするのとは次元が違うわね! ここにシールドを囲ったのはもう五年以上前だから他の神の姿絵を写したシールドを張れば別の神のも時間を掛けて神域化する事も可能かもしれないわよ!」


 嬉しそうに話す女神ベステルの言葉に女神シールドの撤去を考えるクロ。驚いて固まっていたシャロンだったが、あと三日という宣言に卵に両手を当て大事そうに包み込み抱き締める。


「それはそうと……私も肉汁が溢れるウインナーとやらを食べたいわ! それにフランとクランに任せた朝食も! 食前酒はやっぱりビールがいいわね!」


 笑顔から仁王立ちに変わった女神ベステルの言葉に、朝からビールを飲む女神は女神としてどうなのだろうと思いながらも「奉納させていただきます」と声にする。


「ありがとね~明日が待ち遠しいわ~そうだ! これはまじない程度の効果しかないけど安産祈願もしておくわね!」


 そう口にした女神ベステルは片手を払う仕草をし、シャロンが首から下げているグリフォンの卵が布越しに薄っすらと輝き数秒で光が治まる。


「あ、ありがとうございます」


 深く頭を下げるシャロン。女神ベステルは手を払いながら「おまじない程度だからね~」と口にしながらその姿が光と共に消え去り、クロはその為に来たのなら良い神なのかもと思案する。


「安産祈願までして頂けるとは驚きました……」


 顔を上げたシャロンの言葉にクロも頷き夜は更けて行くのだった。






 目を覚ましたクロはいつもの天井ではない事には触れず起き上がり、隣のベッド根規則正しい寝息を立てるシャロンの姿に色々と思い出す。


「そういや昨日は女神さまから朝食とウインナーを頼まれたっけ……それに安産祈願とか……まあ、卵が無事に生まれる保証みたいなものだろうけど感謝しないとな……」


 ひとり呟くクロの声に目を擦りながら身を起こすシャロンに、起こしてしまったと多少の罪悪感を覚えながら「悪い、起こしたか」と声を掛ける。


「ふわぁ~いえ、大丈夫です……あの、おはようございます」


「ああ、おはよう……寝ている時も抱きしめて寝るのな」


 シャロンは仰向けに寝ながらも卵を手放すことはなく不自然に盛り上がっていた毛布を思い出すクロ。


「人によっては枕元に置いたりするらしいです……僕もはじめはそうしていたのですが卵が寒そうなので抱えて寝るようにしています」


 優しい笑みを浮かべ卵を撫でるシャロンの姿に、これは親ばかになるなぁと思うクロなのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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